解説者のプロフィール

済陽高穂(わたよう・たかほ)
1970年、千葉大学医学部卒業後、東京女子医科大学消化器病センターに入局。73年、国際外科学会交換研修員としてアメリカ・テキサス大学外科教室(J.C.トンプソン教授)に留学し、消化管ホルモンについて研究。帰国後、東京女子医科大学助教授。94年、都立荏原病院外科部長。2003年、都立大塚病院副院長。06年、千葉大学医学部臨床教授を兼任。08年、三愛病院医学研究所所長。トワーム小江戸病院院長。同年11月、西台クリニック院長。18年、同クリニック理事長。 主な著書・共著書に『今あるがんが消えていく食事』『がんが消えていく食事 成功の秘訣』『図解 今あるがんが消えていく食事』『令和版 100歳まで元気に生きる食事術』(いずれもマキノ出版)などがある。
科学的根拠と歴史に基づく食事療法
外科医である私ががんの食事療法に取り組んだ日から、四半世紀がたとうとしています。
私ががんの食事療法に着目したきっかけは、1990年代に、病巣部が広がって部分切除しかできなかった肝臓がん、根治手術が不可能だった巨大な肺がんなど、従来の医学的常識では改善が望めない4人の患者さんの、劇的な回復を目の当たりにしたことでした。
その方たちが実践していたのが、食事療法だったのです。
がぜん、がんの食事療法に興味を持ち始めた私は、その草分けで100年の歴史を持つゲルソン療法、多くのがん患者や難病患者を救った甲田療法などを学び、がんの食事療法がしっかりした科学的根拠に基づいており、実際に多くの人々を救ってきていることもわかりました。
済陽式の食事療法を確立し、患者さんたちに指導すると、さらに大きな驚きがありました。
根治手術が不能の進行がん、全身各部への転移がん、再発がん、多発がんなど、従来の標準治療(手術、抗がん剤、放射線療法)だけでは、とうてい望みの持てない症例に、半数近くの高い確率でがんの縮小例や消失例が出てきたのです。

済陽式がんの食事療法の治療実績(2017年)平均観察期間:5ヵ年
対象は平均観察期間5ヵ年の505例。完治(完全寛解)は14%。それに改善を合わせると有効率は60.6%。対象者はほとんどステージⅢ、Ⅳのがん。
統計の対象者は、平均観察期間5年の505例です。がんの種類(部位)は、上の表の通り、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、胆道がん、食道がん、前立腺がん、乳がん、肺がん、悪性リンパ腫などさまざまです。
対象者の90%近くは、ステージⅢ(3期)〜Ⅳ(4期)で、晩期がんを含む進行がん、再発・転移がん、多発がんなどです。全体の約半数は、診断された時点で、すでに手術の適用外だった症例です。
完治(完全寛解)に至ったのは71人、縮小などの改善例は235人で、両者を合わせた有効率は60.6%となります。
がんの種類によっても有効率は異なります。乳がん、前立腺がん、悪性リンパ腫など、食事療法が比較的効きやすいがんでは、有効率は60%台後半から70%台です。なお、いったん改善したあとに再燃・進行する患者さんもいるため、全体の5年生存率は30%強となります。
再発・転移例や、多発例がほとんどであることを考えると、60%超というのは、がんの専門医から見れば驚異的な数字です。まさに、「がんを消していく最強の食事」といえるでしょう。
根本的な免疫力を底上げするのが目的
私ががんの食事療法に取り組み、再発・転移がんや多発がんを相手に悪戦苦闘してきた四半世紀の間に、がん治療の常識は大きく変わりました。
がん細胞をたたく一方だった過去のがん治療から、免疫 力(病原体やがん細胞を抑える力)の維持・向上を重視する新しいがん治療へと、時代は確実にシフトしてきています。
ならば、「免疫力を高めるために行える方法はないのか」と誰しも思うでしょう。その方法こそが、ほかならぬがんの食事療法なのです。
がんの食事療法は、正確には「栄養・代謝療法」であり、患者さんの栄養状態をよくして代謝(食べたものの体内での変化や利用)を改善します。それによって、根本的な免疫力を底上げするのが大きな目的です。
済陽式の食事療法では、多量の野菜・果物ジュースをはじめ、免疫力の増強効果の高い食品を厳選して勧めています。
がん細胞が好む、つまりがんを育てやすい栄養素は、過剰なナトリウム(塩分)、動物性(四足歩行動物)の脂肪・たんぱく質などです。それらを極限まで排除して、がん細胞への栄養補給を断つことも、がんの食事療法の重要な目的なのです。
ちなみに、正常細胞にも塩分や脂肪、たんぱく質はもちろん必要です。しかし、激しい肉体労働や大量の汗をかくといったことがない限り、塩分量は素材に含まれる分だけで十分です。
また、脂肪やたんぱく質は、動物性のものを極力減らして、植物性のものを摂取することで、正常細胞や免疫細胞をしっかり働かせながら、がん細胞を兵糧攻めにできます。
済陽式の食事療法では、野菜・果物ジュースを1日に1.5〜2L飲むことが基本になっています。がん予防及び免疫力アップが目的であれば、少なくとも1日コップ2~3杯、量にして400~600mlを目安にしてください。
なお、免疫力が重視されるのはがん治療だけではありません。現在、世界にまん延する新型コロナウイルスに対抗するにも免疫力の底上げは重要です。
なぜこの食事法で免疫力が高まるのか?
私が勧める食事療法は、下でご紹介している6ヵ条を骨子としています。もともとは、がんの食事療法として考案したものですが、今回は免疫力(病原体やがん細胞を抑える力)を高めることを目的として、説明いたします。
第1条 限りなく無塩に近い塩分制限
塩分成分というと、高血圧との関係を気にされる人が多いと思いますが、実は免疫力にも影響があります。なぜなら、塩分が多いと、細胞のミネラルバランスが乱れやすくなるからです。私は1日5g以下を推奨しています。ちなみに、食塩小さじ1杯で6gになります。
高塩分だと、ピロリ菌に感染している人は、特に胃がんが発症しやすいことがわかっています。ピロリ菌は、日本人の50歳以上の人の8割が感染しているといわれています。高塩分が続くと、全てのがんの発症・悪化が促されます。
免疫力を高めるためにも、塩分摂取は減らすべきです。そのためには、調味料としての塩は使わず、必要なときは「減塩しお」「減塩しょうゆ」を使いましょう。そのほかのポイントは以下の通りです。
●控えるもの
・タラコ、スジコなどの塩蔵品
・漬け物、佃煮など
・魚の干物、塩ザケなど
・ハム、ウインナー、練り製品などの加工品
・ラーメン・そば、うどんなどの麺類の汁
●活用するもの
・天然のだし
・レモンや酢の酸味
・コショウ、シナモン、トウガラシ、カレー粉などの香辛料
・香ばしい焼き目
・減塩しお・減塩しょうゆ(少量)
第2条 肉食の制限
牛、豚、羊といった四足歩行動物の肉を摂取すると、がんの発症・悪化のリスクを高めることがわかっています。
例えば、ハーバード大学のウォルター・ウィレット教授は、毎日、牛の赤身肉をとる人は、月に1回以下しかとらない人に比べ、大腸がんの発症率が約2.5倍高いと報告しています。
がん治療が目的の場合は、最初の半年は四足歩行動物の摂取を禁止しますが、免疫力アップが目的でしたら、牛肉や豚肉を2日連続して食べないようにするといいでしょう。多くとも1日おき、週3~4回にし、ほかの日は鶏肉や魚介類(マグロ、カツオを除く)などを取ります。
第3条 大量の野菜・果物ジュースを飲む
免疫力を高めるには、野菜・果物ジュースを飲むのがお勧めです。なぜなら、野菜・果物に抗酸化成分(有害な活性酸素を除去して体の酸化を防ぐ成分)が多く含まれるからです。
野菜の抗酸化成分には、ビタミンC、ビタミンE、β‐カロテンなどのビタミン類のほか、とりわけ強い抗酸化作用を持つポリフェノールの仲間や硫黄化合物などがあります。ポリフェノールや硫黄化合物はファイトケミカル(植物性の機能性成分)とも呼ばれます。
また、野菜・果物には、体の調整役を果たすカリウム、カルシウム、鉄分などのミネラル、食物繊維、酵素なども多く含まれています。これらが細胞の代謝の正常化や、免疫力の増強などをもたらします。
また、新鮮な野菜・果物に豊富なカリウムは、体内の余分な塩分(ナトリウム)の排泄を促す働きも持っています。
がん治療が目的の場合は、1日1.5~2L飲むことを勧めていますが、免疫力アップが目的ならば、1日に少なくともコップ2~3杯(400~600ml)は飲みましょう。
第4条 未精白の主食をとる(豆・イモ類も)
1日1食は、主食を未精白の穀物にしましょう。未精白の穀物とは玄米や胚芽米、ぬか層をある程度残した分付き米、全粒粉(胚芽成分を含む小麦粉)で作ったパンやパスタなどです。大豆をはじめとする豆やイモ類も、1日1回はとりましょう。
第5条 免疫アップに役立つ食材をとる(乳酸菌、海藻、キノコ、レモン、ハチミツなど)
これらは代謝を調整し、免疫力アップをもたらすので、意識してとるようにしましょう。
第6条 オリーブ油、ゴマ油、ナタネ油(植物性油脂)の活用+禁酒・禁煙、自然水を飲む
動物性脂肪だけでなく、植物性脂肪もとり過ぎないようにします。その上で、普段の調理に使う油としては、オリーブ油、ゴマ油、ナタネ油をお勧めします。生で摂取する場合は、シソ油、エゴマ油、アマニ油などもいいでしょう。
大豆油、コーン油、綿実油の摂取は控えます。植物油を固形化したマーガリンやショートニングは、とらないようにしましょう。
なお、免疫力を高めるためには、「しっかり睡眠をとる」「ウォーキングなどの運動」「入浴で体を温める」「よく笑う」といったことも重要です。

この記事は『安心』2021年6月号に掲載されています。
www.makino-g.jp