解説者のプロフィール

吉原正宣(よしはら・まさのぶ)
足と歩行の診療所院長。日本形成外科学会形成外科専門医、日本抗加齢医学会専門医。関西医科大学卒。洛和会音羽病院形成外科に勤務中、米国の「足病医」(Podiatrist/足部を診る専門医師)に指導を受ける。その後、下北沢病院足病総合センターなどへの勤務を経て、2018年、「足と歩行の診療所」を東京都大田区に開院。足の病気と歩行の障害の解消を目指し、診療に当たっている。2021年4月には、東京都杉並区に「足と歩行の診療所 荻窪」が開院。テレビへの出演も多い。
▼足と歩行の診療所(公式サイト)
足のトラブルを訴える人が増えている
「最近、足が疲れやすくて積極的に動く気になれない」
「足の裏、足首、ひざなどに痛みがある」
「足のむくみや冷えがひどい」
こんな足の悩みを抱えていませんか。
コロナ禍で自宅にいる時間が長くなったことで、足のトラブルに悩む人が増えています。
普段、買い物、通勤、外出などで、私たちは無意識のうちに足の運動をしています。そういった機会が減って、そのまま足を動かさないでいると、足は次第に硬くなってきます。すると、さらに足が動かしにくくなって、ますます動かす機会が減り、痛みなどのトラブルを起こしやすくなるのです。
コロナ禍以前から、日本人は、「座っている時間が世界で最も長い」という調査結果が出ており、足を使う機会が少ないことが指摘されていました。
その上に、コロナ禍で在宅時間が増えたため、足のトラブルに拍車がかかっている人が多いのです。足の専門病院である当院に来られる患者さんも、明らかに増えています。
「足が痛い・しびれる・疲れやすい」などのトラブルを訴える人が多く、そういう人の足を見ると、たいてい非常に硬くなっています。診察中に触れるだけで、痛みを訴える患者さんも少なくありません。
足のトラブルの影響は、足だけにとどまりません。全身に波及するので、その意味でも注意が必要です。
私は、もともと形成外科医で、当初から足を専門にしていたわけではありません。勤務医時代に、米国の足病学の専門医と一緒に仕事をしたことをきっかけに、足と全身のつながりに強い関心を抱くようになり、足の専門医になりました。
欧米では、足を専門に診る足病学(「ポダイアトリー」と言います)が発達しており、日本にはない足の専門資格や専門医(ポダイアトリスト)が存在します。
その医師たちは、足だけでなく、全身の状態やバランスを診ながら、足と体を治療します。足と体は、双方が密接に関係しているからです。
足が硬くなると、立ち歩きに苦労し、活動性が落ちて肥満などを招きやすくなります。同時に、全身の血行も悪くなっていきます。
よく「足は第二の心臓」といわれる通り、足に下がってきた血液は、足を動かすことによって、心臓への戻りが促されます。
足が硬くなって動きにくくなると、その機能が衰えるので、血行や代謝が衰えて、全身に悪影響が及ぶのです。
冷えやむくみなどが起こりやすくなるほか、座りっ放しで足を動かさない時間が長くなるほど、糖尿病、高血圧、心疾患、脳血管疾患、認知症などのリスクが高まり、健康寿命(自立した生活を送れる期間)が短くなるという研究結果もあります。
毎日のセルフケアで足の健康を守ろう
世界でもトップクラスの長寿国である日本ですが、高齢化が加速する中、寝たきりや要介護状態にならずに、健康寿命を延ばしたいというのは、誰もが抱く願いでしょう。
それには「一生しっかり動ける足」を維持することが何より大切です。
そのために必要なのは、必ずしもハードな運動などではありません。誰でも簡単にできる足のセルフケアを続けるだけでも、「動く足」「痛みのない足」を保ちやすくなるのです。
私がお勧めしているのは、ごく短い時間でできる3種類の足のセルフケアです。
具体的には、一方の足につき20秒でできる「足の裏ほぐし」、3分でできる「足指伸ばし」、30秒でできる「アキレス腱伸ばし」の3つです(やり方は次項参照)。
私は、当院を受診する患者さんたちにも、このセルフケアをお勧めしていますが、足の裏や足首、ひざの痛みなどが、これだけで取れる患者さんもいます。「足が疲れにくくなった」「足のむくみが防げる」などという人も多く、好評です。
新型コロナウイルス感染症がまだまだ猛威を振るい、患者数の増加が収まらない中、今後も自宅で過ごす時間が長くなると予想されます。また、最近は地震も多いですが、いざというとき「自分で歩ける」ことが、命を守ることにもつながります。
ですからぜひ、足のセルフケアを毎日の習慣にして、いつまでも活動的に歩ける足を維持していただきたいと思います。
