私たちの身近なところで見つけられる野草は、多くが薬草でもあります。漢方の観点で考えると、その効能から、❶循環をよくする物、❷炎症を取る物、❸冷やしも温めもしない物の三つに分類できます。この温・冷の考え方は重要なので、ぜひ意識してください。【解説】貝津好孝(港屋漢方堂薬局薬剤師・鍼灸師)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

貝津好孝(かいつ・よしたか)

港屋漢方堂薬局薬剤師・鍼灸師。1954年、福島県生まれ。東北薬科大学(現東北医科薬科大学)卒。赤門柔整専門学校卒。薬剤師、鍼灸師。現在、福島県伊達市にて、漢方薬局「港屋漢方堂薬局」を経営。鶏林東医学院にて、梁哲周先生に師事、漢方を学ぶ。薬草研究家としての顔を持ち、薬草、山菜、キノコの調査や冬虫夏草の分類に取り組み、山野を歩く。福島薬草研究会会長。

薬草によって活用法はいろいろ

昔から日本で使われてきた薬草(民間薬)は、約1000種類あるといわれています。

私はふだん、漢方の薬剤師として働きながら、それらの薬草について研究しています。私にとって、薬草は子供のころからごく身近な存在でした。

小学生のころ、突然、右下腹部が強く痛みだしたことがあります。そのとき、祖母がノブドウを使って応急手当てをしてくれました。ノブドウは、家の近所に生えている野草でした。その実の酢漬けは、炎症を取り、ねんざに効く民間薬です。祖母は実を漬け込んだ酢を小麦粉で練り、患部に貼ってくれたのです。すると、痛みがみるみる消えました。

あとで病院で診察を受けたところ、盲腸の初期症状でした。既に炎症は治まっていたため、手術などの処置はせず、それっきり。67歳になる現在まで盲腸は痛むことなく、今に至っています。

このノブドウのように、私たちの身近なところで見つけられる野草は、多くが薬草でもあります。薬草としての使い方を知って活用できれば、家の周りの自然すべてが、薬箱のような存在になるのです。

薬草は、採取したらなるべく早く使わないと、しおれて薬効が減ってしまいます。保存したい場合は、天日乾燥がお勧めです(天日乾燥の方法は下項を参照)。乾燥により成分も抽出しやすくなります。

さて、活用法は薬草によりさまざまです。

食べる

タンポポなどは、葉や花をよく洗えば生でサラダとして食べられます。えぐみが気になる薬草も、天ぷらにすれば美味。薬草は、スーパーで売っている野菜に比べアクは強いですが、アクこそがミネラル分であり、薬効だと考えましょう。

煎じて飲む

煎じ方は、下項を参照してください。一般的に、1日の摂取量は乾燥した物で5~10gがお勧めですが、薬草によって分量を加減しましょう。

振り出して飲む
センブリなど苦みの強い薬草は、乾燥した物(0.5~1g程度)を湯のみに入れ、お湯を注いで飲みましょう。

炒って飲む

クマザサの葉などを生のままフライパンで炒ったのち、急須に入れてお茶として飲みます。

薬酒にする

密閉できる容器に、薬草を生葉なら容器の半分、乾燥した物なら3分の1ほど入れます。35度の焼酎を加え、1ヵ月ほど寝かせます。砂糖やハチミツを好みに応じて加え、飲みます。

入浴剤にする

乾燥した薬草30~50gをガーゼなどの袋に入れ、風呂に入れます。体を温めるヨモギや、皮膚疾患に効くドクダミがお勧めです。

皮膚につける

ヤマユリの鱗茎(根の部分)を湯通しします。乾燥した物を粉末にして、酢で練って貼るとおできによいとされています。ヤケドや皮膚の荒れには、アロエの生葉の皮をはぎ、患部に貼ります。

※肌に塗る際は、必ずパッチテストを行ってください。少量を塗ってしばらく時間をおき、様子を見て、赤みやかゆみなどの異常が現れたら、直ちに中止してください。

体質や患部の状態を考慮して使い分ける

薬草の活用には、注意点もあります。まず、選び方です。私は薬草の効能を、漢方の考え方を踏まえてとらえています。これによって、薬草の効能をより効率的に生かせるのです。

漢方の観点で薬草を考えると、その効能から、三つに分類できます。

循環をよくする物(温めて効果を上げる)
炎症を取る物(冷やして効果を上げる)
冷やしも温めもしない物
です。

目的にあった薬草を選ぶために、この温・冷の考え方は重要なので、ぜひ意識してください。

例えば、冷え症の人に体を冷やすドクダミは勧められません。一方、副鼻腔炎で患部が熱を持っている人には、冷やして炎症を取る効果のあるドクダミがよく効くのです。

自分が熱を持つタイプか、冷えるタイプか、あるいは今、患部が熱を持っているか、冷えているか、体質や患部の状態を考慮し、野草を使い分けましょう。よく使う薬草の分類については下記を参照してください。

また、薬草によく似た毒草もありますから、判別の怪しい物は採らないことが原則。図鑑などで確認して採取してください。

画像: 【春の薬草】身近な野草の多くは薬効を持つ  体質や症状によって使い分ければさまざまな不調改善に有効

温・冷の効果で薬草を分類

●温めて効果を上げる薬草
ヨモギ、ウドなど

●冷やして効果を上げる薬草
ドクダミ、タンポポ、スギナ、オオバコ、カキドオシ、センブリ、ノブドウ、クマザサ、アロエ、ヤマユリなど

●温めも冷やしもしない薬草
アカメガシワ、イタドリ、ネムノキなど

春は、さまざまな薬草が芽吹く、薬草採取にもってこいの季節です。代表的な春の薬草を下項でご紹介しました。目を凝らせば、都市部でも意外に薬草は見つかります。ぜひ皆さんも、薬草探しにチャレンジしてください。

薬草の基本的な活用法

薬草は採取したらよく洗い、すぐに使いましょう。天日乾燥させれば、薬効が出やすくなり、保存も効きます。薬草茶や、入浴剤については、さまざまな野草を組み合わせて使ってもよいでしょう。

天日乾燥の方法

画像: 天日乾燥の方法

薬草を水洗いし、ザルや新聞紙にのせる、軒下に吊り下げるなどして、天日で1~2日乾燥する。
※根や根茎、太い枝、大きな果実などは輪切りにしたり、ざく切りにしたりして干す。
※完成後は冷蔵庫で保存する。
 

薬草の煎じ方

画像1: 薬草の煎じ方

用意する物
・天日乾燥した薬草…適量(1日分で5g程度がお勧め)
・水…適量(5gの場合600ml)

画像2: 薬草の煎じ方

やかんに乾燥した薬草と水を入れる。弱火にかけ、30~40分煮出す。

画像3: 薬草の煎じ方

水の量が3分の2~半分になったら火からおろす。茶こしでこして飲む。

画像4: 薬草の煎じ方

※やかんは、鉄製の物は使わない。 
※1日3回に分け、空腹時に飲む。1日で飲み切る。
※温かい状態で飲む。
※時間がないときは、コップに薬草(0.5~1g)を入れ、お湯を注ぎ、しばらくしてから飲んでもよい。(センブリやキハダなどがお勧め)

4月~5月に採れる野草ガイド

ヨモギ【キク科】

画像1: ヨモギ【キク科】

下腹部の冷え、痛み、生理痛、止血に!
◎薬用部位…葉
体を温めて治す作用がある。天日乾燥させ、1日3~5gを600mlの水で煎じて飲む。入浴剤として風呂に入れてもよい。手足がほてりやすい人や、のぼせぎみの人は服用しない

ヨモギの入浴剤の作り方

画像2: ヨモギ【キク科】

用意する物
・天日乾燥したヨモギ…30~50g
・ガーゼまたはティーパックなど袋状の物

画像3: ヨモギ【キク科】

乾燥したヨモギを袋に詰める。

画像4: ヨモギ【キク科】

 

ドクダミ【ドクダミ科】

画像1: ドクダミ【ドクダミ科】

便秘、むくみ、痔、おでき、副鼻腔炎に!
◎薬用部位…全草 
患部のよけいな熱を取る作用がある。天日乾燥させ、1日5~15gを600mlの水で煎じて飲む。妊婦は服用しない。冷え症の人は、体を温める薬草を混ぜて使うとよい。化粧水として活用できる。

ドクダミ化粧水の作り方

画像2: ドクダミ【ドクダミ科】

用意する物
・ ドクダミの生葉…100g(約100~150枚)
・ ホワイトリカー(35度)…180ml
・ グリセリン(保湿剤)…小さじ1

画像3: ドクダミ【ドクダミ科】

葉を水洗いし、水気をふき取り、細かく刻む。
①とホワイトリカーをミキサーに入れ、撹拌する。

画像4: ドクダミ【ドクダミ科】

②をふきんなどで絞る。
③を茶こしでこして、密閉できるガラス容器に入れる。

画像5: ドクダミ【ドクダミ科】

フタをして冷暗所に1週間~10日寝かせる。寝かせたら、グリセリンを加える。
 

オオバコ【オオバコ科】

画像: オオバコ【オオバコ科】

むくみ、排尿困難、セキ、血尿、鼻血に!
◎薬用部分…葉、種子
種子は熟したら、葉は随時刈り取り、それぞれ天日乾燥する。1日に、種子は3~5gを400mlの水で、葉は5~10gを600mlの水で、煎じて飲む。妊婦は服用しない。冷え症の人は多用しない
 

タンポポ【キク科】

画像: タンポポ【キク科】

乳腺炎、排尿困難、解熱に!
◎薬用部位…根をつけた全草
天日乾燥させ、1日5~10gを600mlの水で煎じて飲む。葉は生食してもよい。解熱作用が強いので、患部に熱があるときに使用するとよい。冷まし過ぎることがあるため、冷え症の人は多用しない
 

ウド【ウコギ科】

画像: ウド【ウコギ科】

頭痛、顔のむくみに!
◎薬用部分…根
体を温めるので、冷えが原因の頭痛によい。採取後すぐに輪切りにして天日乾燥させ、1日3~5gを400mlの水で煎じて飲む。独特の香りと歯ごたえがあり、野菜として食べても美味。
 

スギナ【トクサ科】

画像: スギナ【トクサ科】

むくみ、セキ、排尿困難に!
◎薬用部位…全草、胞子茎(ツクシ)
患部の熱を取る力、尿を出す力が強い。天日乾燥させ、1日3~5gを600mlの水で煎じて飲む。ツクシは天ぷらや炒め物にする。妊婦や冷え症の人は服用しない
 

カキドオシ【シソ科】

画像: カキドオシ【シソ科】

尿路結石、胆石、糖尿病に!
◎薬用部位…全草
天日乾燥させ、1日5~10gを600mlの水で煎じて飲む。昔から子供の夜泣きやかんしゃくを鎮める民間薬として知られてきた。妊婦や冷え症の人は服用しない
 

イタドリ【タデ科】

画像: イタドリ【タデ科】

神経痛、慢性気管支炎、子宮筋腫に!
◎薬用部位…根   
むくみがあり、少し熱感のある神経痛や、黄色の痰が出るタイプの慢性気管支炎の人によい。天日乾燥させ、1日5gを600mlの水で煎じて飲む。妊婦は服用しない

初夏から秋のお勧め野草


ネムノキ【マメ科】

画像: 夏 ネムノキ【マメ科】

不眠、不安解消に!
◎薬用部位…樹皮、花
イライラして怒りっぽくなる不眠・不安によい。樹皮、花ともに夏に採取する。天日乾燥し、1日5~10gを600mlの水で煎じて飲む。

夏~秋
アカメガシワ【トウダイグサ科】

画像: 夏~秋 アカメガシワ【トウダイグサ科】

樹皮は胃・十二指腸の潰瘍、葉はあせもに!
◎薬用部位…樹皮、葉
葉は夏、樹皮は秋にとって天日乾燥する。胃潰瘍、十二指腸潰瘍には5〜10gの樹皮を600mlの水で煎じて飲む。あせもには葉を風呂に入れる。
 


センブリ【リンドウ科】

画像: 秋 センブリ【リンドウ科】

胃痛、腹痛、下痢、脱毛に!
◎薬用部位…全草
苦みの強い薬草。天日乾燥し、1日0.5~1gを茶碗に入れ、湯を注いで飲む。 胃腸の冷えやすい人、妊婦は服用しない

画像: この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。

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