高齢化に伴い、中枢神経と筋力のアンバランスでめまいが発生して転ぶケースが出てきます。加齢とともに脳神経細胞も筋肉細胞もその数が減り、元に戻すことはできませんが、残った健常細胞を励まし、活力を与える方法として、運動とビタミンDの摂取を挙げます。【解説】入江健二(米国・ロスアンゼルス 元リトル東京入江診療所所長・医師)

解説者のプロフィール

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入江健二(いりえ・けんじ)

米国・ロスアンゼルス 元リトル東京入江診療所所長・医師。1940年、東京世田谷生まれ。66年、東京大学医学部卒業。71年に渡米し、UCLAでがん研究5年。81年にロスアンゼルス・リトル東京で開業。73年、リトル東京の草の根団体「日系福祉権擁護会」の中に主に日系一世・二世を対象とする「健康相談室」を開設、現在に至る。著書に『70歳からの健康法』(論創社)など。

脳からの指令に筋肉が即応できず転倒

若いころは、「脳がこのくらい命令すれば、筋肉はこのくらい働く」という調和ある協力関係が体で成り立っています。加齢でこの調和がくずれると、めまいを起こして転ぶケースがしばしば出てきます。

都内の女子大で現役の英語教授だった私の父は84歳のとき、そして私は74歳のときに、転倒を経験しました。ともに妻にいわれて踏み台に乗り、高いところから物を取り出したとき、振り向きざまに「フラッとした」のです。父は腰椎(腰の背骨)を一つ、私は肋骨を二本骨折。父も私も、高齢に至り、平衡機能の失調で倒れたわけです。

平衡機能のシステムには、脳幹系(小脳・脳幹・脊髄)と大脳皮質系とがあります。姿勢を保つため筋肉に指令を出すのは、脳幹系の前庭脊髄反射系と、大脳皮質系の内側および外側運動制御系、とされています。高齢化に伴いそれらの機能が衰えると、平衡を失って倒れやすくなります。

しかし、中枢神経(脳)の命令を受け止める筋肉の問題にも、着目する必要があると私は思います。

さきほどの父や私の例でいっても、2人とも、年齢相応に中枢神経は衰えていたのでしょうが、歩行などの生活機能の障害や認知症はまだ始まっていませんでした。

しかし、姿勢を保つための体幹の筋肉は衰えていたはず。そのために筋肉が脳から指令を受けても即応できず、予測以上に上半身が傾斜。頭では「フラッとした」、つまり「めまいがした」と感じ、そのまま体が倒れたのでしょう。

中枢神経と筋力のアンバランスでめまいが発生して倒れる、つまりフラッとして倒れてしまうパターンは、急に振り向くとき以外にもあります。その例をいくつか、対策と合わせて下に示しました。

パターンオススメの対策
急に振り向く体全体を動かして向きを変える
トイレやイス、庭いじりから立ち上がる頭の位置は低いまま腰をまず上げ、ゆっくり上半身を起こす
立ったままズボンやパンツをはくイスに座って、または壁や柱に体を寄せてはく
散歩中、転ばぬよう足もとを見つつ歩いていて、ふと目を上げる50メートルほど先を見ながら歩きつつ、足もとにも気を配る
夜中にトイレへ行くベッドの枠や壁を触りながら歩く
中枢神経と筋力の不均衡によるめまいの発生パターンと対策

ビタミンD摂取で転倒が減るという調査結果も

私は40年の開業生活で、夜中にトイレに起きて転倒し、大ケガをした高齢者を何人も診察しました。庭仕事中、急に立ち上がり、バランスを失ってスプリンクラー・ヘッド(芝生に設置した散水器)に顔をぶつけ、顔面陥没骨折という重傷を負ったかたもありました。病院回診で診察するのもつらいくらい痛々しく、気の毒な状態でした。

そこで、中枢神経と筋力の衰えを予防する方法について、考えたいと思います。

加齢とともに、脳神経細胞も筋肉細胞もその数が減ります。減った細胞数を元に戻すことはできません。しかし、残った健常細胞を励まし、活力を与えることは可能です。

そのための方法として、ここでは運動ビタミンDの摂取を挙げます。

まず、平衡機能を改善する運動として、ラジオ体操をお勧めします。毎日1回は実行したいものです。日本で小学校教育を受けた人なら、皆あのラジオ体操を知っているというのはすばらしいことです。

散歩やジョギングも有効です。体幹の筋肉群を鍛えるには、腹筋運動・背筋運動・屈伸運動が役立ちます。ヨガやそのほかの体操でも、体幹を鍛える運動を特にしっかりと行いましょう。自分に合ったものを選び、毎日実行することがたいせつです。

中枢神経と筋肉の健康増進には、野菜・果物によるビタミン摂取、良質のたんぱく質、カルシウム補給が推奨されていますが、ここではビタミンDの重要性を強調したいと思います。

ビタミンDは、小腸におけるカルシウム・リン・マグネシウム・亜鉛などの吸収を促します。従って、ビタミンDが不足すると、骨が弱くなるうえに、中枢神経や筋肉にも悪影響が出て、転倒しやすくなるのです。

近年の疫学調査によると、ビタミンDを一日700IU(1000単位が25μg)を摂取する人は転倒が19%減少し、ビタミンD血中濃度を60ng/ml以上に維持している人は転倒が23%減少する、とされています。

ビタミンDを食事から摂取する場合、魚(サケ・マス・青魚など)、キノコ類、牛乳および乳製品(特にビタミンD補強の物)がお勧めです。

直射日光による体内でのビタミンD造成はよく知られていますが、浴び過ぎは皮膚ガンの原因になります。朝15分くらいの散歩が適切でしょう。

また逆に、ビタミンDの過剰摂取は、高カルシウム血症から骨格の脱灰(カルシウムが過剰に抜ける)現象を誘発するので、年一度の血中濃度検査が必要です

私は先の肋骨の骨折以来、毎日ビタミンDの錠剤を取り始め、その後は転倒していません。まだボケてもいない、と自分では思っています。

画像: この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。

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