解説者のプロフィール

丸山綾子(まるやま・あやこ)
ダエンからマル施術院院長・鍼灸師。はり師・きゅう師、アスレチックトレーナー、健康運動実践指導者。関西医療大学卒業。株式会社 now なかたに鍼灸整骨院グループ ダエンからマル施術院院長。2019年に女性院長として神戸に院を構える。どこに行ってもよくならない人の「最後の砦」として、毎月200名前後の治療を行う。
▼ダエンからマル施術院(公式サイト)
そっとなでるように首すじを刺激する
メニエール病は治りにくく、病院にかかっても、なかなか症状が改善しないこともしばしばです。私は、「病院で治らないメニエール病の症状を改善する」という目標を掲げ、施術を続けてきました。
もちろん耳鼻咽喉科にも通っていただきながら、私たちの治療方針に合わせた施術を行います。同時に、患者さんには自宅でセルフケアを実践していただくことで成果を上げています。
ここでは、私がメニエール病の患者さんにお勧めしているセルフケアを紹介しましょう。
平衡感覚を司る三半規管は、耳の内耳にありますが、ここはもともとリンパ液で満たされています。そのリンパ液が過剰になり、水ぶくれになる症状(内リンパ水腫)が、メニエール病です。

メニエール病の改善を目指すうえで、ぜひ改善したいポイントが三つあります。
第一は、「疲労を取る」ことです。メニエール病は、ストレスや過労によって悪化することがわかっています。そこでまずは、ストレス解消を心がけ、疲労回復を図りましょう。予定を詰めこみ過ぎず、リラックスして過ごすことをお勧めします。
第二に、「自律神経を整える」ことです。自律神経とは、私たちの意志とは無関係に働き、内臓や血管などをコントロールしている神経です。メニエール病のかたは、その働きが乱れていることが多いのです。そこでその自律神経の乱れを調整します。
そのためにお勧めしたいセルフケアが、「首なで」です。
首すじにある胸鎖乳突筋は、交感神経線維が豊富な筋肉で、精神的ストレスですぐに緊張してしまう部位。自律神経を整えるうえで重要な場所です。メニエール病のかたの胸鎖乳突筋に触れてみると、必ずといってよいほど、ガチガチにこっています。
そこで胸鎖乳突筋の緊張を解き、自律神経の乱れを調整するために、首なでを行います。
やり方は下項のとおりです。刺激するときは、あおむけになって行います。刺激する側とは反対側に首を傾けると、胸鎖乳突筋を探しやすいでしょう。
押したりもんだりするのではなく、なでる、触れるくらいの力加減で行います。10回を1セットとして、左右両側を朝晩1セットずつ行いましょう。
首なでのやり方
❶横を向き場所を確認。耳の後ろの骨の出っ張りから、首の両わきを下り、鎖骨へと伸びている太い筋肉が胸鎖乳突筋。

❷胸鎖乳突筋に、人差し指、中指、薬指の3本を当て、上から下へ10回やさしくなでる。左右両側を朝夕1セットずつ行う。
※血圧の上下にかかわる場所なので、ふらつき防止のため、起床時など、横になった状態で行うとよい。

首の筋肉がこっていると、筋肉に圧迫され、首を通る血管の一つである椎骨動脈の血流も悪くなります。
胸鎖乳突筋の緊張が緩むと、椎骨動脈の循環が改善。椎骨動脈から分岐する内耳動脈の循環もよくなるのです。それが内耳の血流をよくし、メニエール病にもいい影響を及ぼします。
耳の上を押して緊張をほぐすとより効果的
第三に、改善したいのは、「頭蓋骨のゆがみ」です。メニエール病の患者さんは、頭蓋骨にゆがみが生じていることが多いのです。
主な原因はストレスです。ストレスがかかると、無意識に歯をかみ締めてしまいます。それにより、あごの顎関節に大きな負担がかかります。
顎関節は、耳や頭蓋と非常に近接した位置関係にあります。顎関節の緊張状態は、頭蓋骨の微妙なズレと、硬膜の緊張を引き起こすのです。硬膜とは、脳を覆っているいちばん外側の膜です。硬膜が緊張すると、内耳の循環障害の誘因となります。
そこで、頭蓋骨の調整を行って硬膜の緊張をほぐすのです。硬膜の緊張がほぐれると、内耳のリンパの循環もよくなり、リンパ液の排出を促す効果が期待できます。
頭蓋骨のゆがみを調整するためにお勧めなのが「耳の上押し」です。やり方は、下項を参照してください。1日2〜3回、20~30秒気持ちいい程度の圧をかけ、側頭部のうっ血を取るつもりで押しましょう。入浴中などに、軽くもみほぐすといいでしょう。
メニエール病にお悩みのかたは、これらのセルフケアをぜひお試しください。
耳の上押しのやり方
◎側頭部の耳の上辺りに、触れると少し盛り上がっているところがある。そこに人差し指、中指、薬指の3本を当てて20〜30秒指圧する。1日2〜3回行う。


この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。
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