解説者のプロフィール

中倉健(なかくら・たけし)
鍼灸指圧自然堂堂主・鍼灸師。1962年神奈川県生まれ。日本鍼灸理療専門学校(花田学園)卒。95年、東京都世田谷区祖師ヶ谷大蔵に鍼灸指圧治療室を開設。99年からは、鍼灸をはじめ、指圧、タイ伝統マッサージ、ヒーリングテクニックなどについて各地で講義・ワークショップを行い、後進の指導にあたる。2005年に現在地に移転、現在に至る。共著に『ビジュアルでわかる九鍼実技解説』(緑書房)がある。
▼鍼灸指圧自然堂(公式サイト)
自分自身で試し患者に勧めるセルフケア
私は鍼灸師として日々患者さんに施術をする傍ら、中国や日本の古典医学の書籍を読み解き、研究しています。日本でいえば江戸時代などの古い時代の書籍ですから、治療法については、もちろん今では活用できない事柄も少なくありません。
しかし、なかには現代医学に通じる内容や、今取り入れても効果的な養生法もあり、興味が尽きることはありません。現代の鍼灸の考え方にも合致しており、効果があると思われる治療法や養生法については、自分自身も試し、患者さんにもお勧めしています。
今回お話しする耳鳴りやめまいなど、耳周りのトラブルについても、そのような古典に紹介され、絶えることなく現在まで伝わっている伝統的セルフケア法があります。
その具体的方法を紹介する前に、東洋医学における耳鳴り、めまいについての考え方を簡単に解説しましょう。
東洋医学では、気血(体内のエネルギーや、血液、体液など)の流れを改善し、自然治癒力を高めることで、つらい症状を緩和します。
耳鳴りやめまいでいえば、鍼灸やマッサージによって後頭部や首、肩の緊張を緩め、血の流れを改善します。それにより自律神経のバランスが整い、改善していく、ということになります。
また、東洋医学では、耳の不調は「腎」の働きの衰えが原因と考えます。腎とは、生殖などにかかわる泌尿器・生殖器・腎臓の機能を含み、生命力の源とされています。
この腎は、年齢とともに機能が低下し、難聴や耳鳴り、腰痛、頻尿、疲れやすさといった症状を引き起こしやすいといわれています。そのため、施術の際は、腎のツボに鍼灸を行って、その働きを高めるなどの対処をします。
頭がい骨に軽い振動を与える手技
では、このような考えを元に、耳鳴り、めまいに効果のある伝統的セルフケア法について、説明をしましょう。
それは「鳴天鼓(めいてんこ)」の術です。
鳴天鼓は、中国の清朝時代(1612〜1912年)に編纂された、気功と養生学の書籍『身集』で紹介されている、中国の伝統的なあんま法です。私自身は、20年ほど前から、施術とともに患者さんにもお勧めしていますが、「耳鳴りが気にならなくなった」というお声を多くいただきます。
やり方は、とても簡単です。詳しい手順は、下項を参照してください。簡単にいえば、中指を支点に後頭部を人差し指ではじき、頭蓋に振動を与えるという手技です。頭にトントンと天鼓(太鼓)を叩くような音が響くことから、鳴天鼓という名前がついています。
これは指圧(ツボ押し)ではなく、あくまでも「軽くトントン叩く」ことで、効果を引き出すものです。
実際にやってみると、振動が骨を通じて、広範囲に広がっていることが実感できます。耳を軽くふさいで行うと、その振動が自分でも確かに感じられるでしょう。振動が伝わることで、頭部全体の血流アップになると考えられます。
注意点は、手で耳を強くふさがないこと。耳をぎゅっとふさいでしまうと、空気が遮られ、手をどけたときに鼓膜に圧がかかってしまいます。やさしく手で覆うようなイメージです。
鳴天鼓のやり方
❶指を置く場所を確認する。後頭部の真ん中、いちばん高いところにあるツボが脳戸。そこから左右にそれぞれ約2cm外側にあるツボが玉枕。

❷両手のひらを合わせてこすり温める。
❸5本の指が後方へ向くように両手で耳をふさぐ。中指は玉枕のツボの辺りに置く。

❹人差し指を中指の上に重ねる。中指を支点として人差し指を弾き、頭蓋を打って後頭部に振動を与える。

◎この鳴天鼓の術は、20~40回を1セットとし、1日に数セット行います。耳鳴りやめまいの気になるときに行ってもよいでしょう。
基本的にはいつ行ってもかまわないのですが、特にお勧めの時間帯があります。東洋医学では「子午流注」という考え方があります。1日を2時間ごと12に区切り、それぞれ12の臓器を対応させたものです。
耳鳴りと関連の深い腎の時間帯は、17時~19時。腎の働きが活発になる時間帯です。ですから、この2時間の間に、腎と関連深い耳周りのケアをするのが最適なのです。
鳴天鼓は、耳鳴り、めまいのほか、不眠や健忘、精神の安定、眼精疲労などにもお勧めです。古来の伝統的あんま法の効果を、皆さんもぜひお試しください。

この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。
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