プロフィール

今村豊(いまむら・ゆたか)
山口県出身。19歳で競艇プロデビューし最優秀新人賞を獲得。1984年、浜名湖のボートレースオールスターで、当時の最年少記録となる22歳でSG(最高グレード)初優勝。90年には3度めの全日本選手権を制し、艇界のトップに君臨。「全速ターン」が代名詞。2020年7月、ボートレース津の一般戦で142回めの優勝。同年10月、現役引退を発表。SG優勝7回、生涯獲得賞金は29億円を超える。
引退を考えるほどのめまいと闘う
皆さんは、ボートレース(競艇)をご存じでしょうか。
ボートレースとは、6艇のモーターボートが水上コースを左回りに3周疾走して、その順位を争う競技のこと。競輪・競馬・オートレースと並ぶ公営競技の一つです。
私は元ボートレ―サーで、昨年10月に59歳で引退しました。現役生活は40年。その間142回の優勝を飾りました。戦績を見るとさぞや順風満帆な選手生活を送っていたと思われがちですが、そんなことはありません。
私の選手生活の大半は、「メニエール病」との闘いでもありました。
最初に発症したのは、30代前半でした。レース場で突然、めまいに襲われたのです。目の前の景色が左右に流れて見え、天地もわからず、立っていることもできません。
こんなにひどいめまいは、生まれて初めてでした。専門病院で診てもらうと、メニエール病だと診断されたのです。病院では、耳の鼓膜にステロイドを注射する治療法(ステロイド鼓室内注入療法)を受けました。
この治療を受ければ、症状はいったん治まりますが、完治するわけではありません。レースには問題なく参加していましたが、どうも平衡感覚がおかしくなっているような気がしていました。
また、めまいで吐いてから、レースに出るという無茶なことをしたこともあります。それでも、3年ほど治療を続けたところ、症状は少し治まってきました。
しかし、42歳のときに症状が再発。今度は、めまいの発作だけでなく、耳鳴りも伴っていました。
もちろん、前回と同じ治療を受けましたが、残念ながら、以前ほどの効果はありませんでした。そのころは、めまいのせいで、レースを途中欠場してしまうことも多くありました。一時期は、引退を考えたほどです。
副鼻腔炎の手術をしたらめまいが止まった
メニエール病の原因は、はっきりとわかっていませんが、ストレスも要因の一つだそうです。そういわれてみると、思い当たる節があります。
私は、きちょうめんで負けず嫌いの性格。レースではお客さんの期待があるので、「一つでも着順をよくしたい」という責任を背負っています。また、自宅でもレース場でも、物が散らかっていると気になり、きちんと片づけるまで落ち着かないのです。
こうした性格がストレスを増やし、症状の悪化につながっていたのかもしれません。体調が悪いときにレースに出ても、いい着順は取れません。それに悩んで、さらにストレスが増えるという悪循環に陥りました。
そんなとき、妻からくり返しかけられたのが、「もっと気楽に」という言葉です。そして、「自分が持っている力を出せたのなら、着順はどうでもいいじゃない」といわれたのです。
元来の性格を変えることは難しいものですが、妻のいうとおり、できるだけ気楽に、いい意味でいいかげんに物事をとらえるようにしました。
さて、メニエール病を再発してから数年後のことです。ファンの人から「鼻に悪いところはないか?」と質問を受けました。その人も、めまいに悩んでいたそうですが、鼻の治療をしたところ、症状がよくなったとのこと。
早速、耳鼻科で検査を受けてみると、左側の鼻に副鼻腔炎が見つかり、すぐに手術を受けることになりました。
すると驚いたことに、それ以来、めまいがピタリと止まったのです。
メニエール病というと、耳ばかりに注目しがちですが、耳は、鼻や口、のどともつながっています。めまいや耳の不調に悩んでいる人は、ぜひ、ほかの検査を受けることをお勧めします。
ちなみに、耳鳴りは、現在も残ったままです。左耳だけ、「ジージー」というセミの大合唱が一日中鳴っています。そのため、左側から話しかけられても聞こえないことがしばしばです。
現役を引退したことで、ストレスはだいぶ減りました。耳鳴りのことも気にせず、「いつか改善したらいいな」という距離感でつきあっていけば、いつの日か、このセミの声が小さくなるかもしれません。
ストレスを減らし水分補給と有酸素運動を
奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教授・めまいセンター長 北原糺
メニエール病は左右どちらかの内耳に原因不明の水ぶくれが生じ、耳鳴り、難聴が起こる病気です。この疾患はめまい相談医に受診しながら、経過をしっかり見ていくことが大事です。
今村さんがいうとおりストレスのコントロールはとてもたいせつです。さらに、しっかり睡眠をとることと、医師の指導の下で、1日1.5~2Lの水分摂取、15~20分程度の有酸素運動をお勧めします。
[別記事:あなたのめまいはどのタイプ?良性発作性頭位めまい症のセルフケア→]

この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。
www.makino-g.jp