私の場合、父が亡くなった悲しい気持ちを我慢し、ストレスを抱え込み続けたのが原因のようでした。体と脳にたいへんな負担がかかっていたと思います。メニエール病を体験して、ストレスをためないことの重要さを実感しました。【体験談】八代亜紀(歌手・画家)

プロフィール

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八代亜紀(やしろ・あき)

1971年デビュー。73年に出世作『なみだ恋』を発売。その後、『愛の終着駅』『もう一度逢いたい』『おんな港町』『舟唄』などのヒット曲を出し、80年に『雨の慕情』で第22回日本レコード大賞・大賞を受賞。2010年、文化庁長官表彰受賞。絵画では、世界最古の美術展、フランスの「ル・サロン」で5年連続入選を果たし、永久会員となる。

天井がグルグル回って船酔いのよう

私は幼いころから、父の歌う浪曲を子守歌がわりに聞きながら育ちました。そのおかげで歌好きになり、今の八代亜紀があります。私にとって、父はほんとうにたいせつな人でした。

そんな父が亡くなったのは、平成3年の九州ツアーが終わった直後のことです。1週間にわたるツアーが終わって帰った私に、「きつかったね」といたわりの言葉を掛けてくれた父が、翌日に帰らぬ人となりました。

あまりに突然の出来事で、心の準備が全くできていませんでした。父がもういないという現実がつら過ぎて、泣いても泣いても涙が止まりませんでした。

でも、1ヵ月の長期公演が目前にあったので、泣いてばかりいられません。悲しい気持ちを押し殺して舞台に立ちました。

私には、ほんとうにつらくて長い1ヵ月でした。自分でも、お客様に涙を見せることなく、よくやり遂げたと思います。

しかし、千秋楽の翌日に、とんでもないことが起こりました。朝、目覚めて起き上がろうとすると、天井がグルグルと回っていたのです。まるでひどい船酔いのようでした。あまりの気持ち悪さにこらえきれず、吐いてしまいました。

さすがに「おかしい」と思い、病院へ連れて行ってもらったところ、「メニエール病」と診断されたのです。

私の場合、悲しい気持ちを我慢し、ストレスを抱え込み続けたのが原因のようでした。体と脳に、たいへんな負担がかかっていたと思います。1ヵ月の長期公演が終わってほっとしたと同時に、それが爆発してめまいという症状で現れたようでした。

動くこともままならないので、3日間の入院ということになり、注射と点滴、「めまい」と書いてある飲み薬が処方されました。

ところが、病院のベッドで横になってしばらくすると、めまいは治まったのです。それで安心したとたん、おなかが空いてきました。翌日、そのことを医師に伝えると、検査として歩いてみるようにいわれました。すると、ふだんどおり歩けたのです。

医師の見立てでは、「一過性の症状だったようですね。相当ひどいストレスだったのでしょう」とのことでした。

めまいは初日に治まりましたが、予定通り3日間入院。念のため、退院後も処方された薬を1週間飲みました。そのおかげか、しばらくの間、めまいは起こりませんでした。

前兆が現れたら頭を急に動かさない

いつしかメニエール病のことなどすっかり忘れていたのですが、10年後、再びめまいに襲われたのです。そのときは人間関係にトラブルがあり、精神的にまいっているときでした。それでも、それを外には出すまいと、いつもと同じように振る舞っていました。

すると、ある朝、10年前と同じように天井がグルグル回る症状が現れたのです。「やばい、同じだ!」とすぐに病院へ行くと、幸いこのときも注射と点滴、飲み薬ですぐに治りました。

このとき、医師から「DHAやEPAを積極的にとってください」と助言をもらいました。青魚に多い脂だそうです。

でも、私は魚の干物が大好きで、カリカリになるまで焼いて食べます。つまり、脂がほとんど落ちた状態です。ですから、DHAやEPAはサプリメントでとることにしました。今も欠かさず飲んでいます。

それからもう一つ、「めまいを防ぐためには、頭を急に動かさない」ということも教えてもらいました。

退院したその日に公演があり、すぐにステージに立ったのですが、医師の助言どおり、頭をゆっくり動かすようにしました。歌っている間は集中しているのであまり意識しませんでしたが、それ以外のときはスローモーションのように頭を動かす私を見て、お客様は不思議に思ったことでしょう。

またそれ以後、夜更かしをした翌日や、不調の前兆が現れたときには、頭を急に動かさないように気をつけています。そして念のため、めまいの薬はいつも持ち歩いています。

メニエール病を体験して、ストレスをためないことの重要さを実感しました。何事も信頼できる人たちに相談して、嫌なことがあってもできるだけ考え込まないようにしています。

事務所の人や友人たちと、ワイワイと楽しく過ごすのもストレスの発散になります。一人になったときは、好きなテレビ番組を見たり、ときにはテレビショッピングを楽しんだりしています。

これからも健康に留意して、たくさんのかたに私の歌を届けられるように頑張っていきたいと思います。

めまいを避けるにはストレス発散が重要
奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教授・めまいセンター長 北原糺

ストレスは、メニエール病や良性発作性頭位めまい症と関係していると考えられます。

ストレスを感じるようなことがあったら、周りの人に相談したり、自分の好きなことを楽しんだりしましょう。なるべくストレスを抱え込まないようにすることも、めまいを避けるためにはたいせつです。

[別記事:あなたのめまいはどのタイプ?良性発作性頭位めまい症のセルフケア→

画像: この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。

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