めまいを改善するためには、原因疾患が何か、正しく突き止めることが大切です。「BPPV(良性発作性頭位めまい症)」や「メニエール病」、「自律神経の失調によるめまい」など、それがわかれば、原因に対応した正しい対策を打ち出すことができます。【解説】北原糺(奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教授・めまいセンター長)

解説者のプロフィール

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北原糺(きたはら・ただし)

1997年、大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。大阪労災病院勤務を経て、大阪大学医学部耳鼻咽喉科、米ピッツバーグ大学医学部耳鼻咽喉科にて、研究を重ねる。専門は耳科・神経耳科、めまい平衡医学。2007年、国際ポリッツァー賞を受賞。14年、奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教授。16年、めまいセンター長を兼任する。17年より日本めまい平衡医学会理事、18年より日本耳科学会理事に就任。

60歳超のめまいの67%は「良性発作性頭位めまい症」

めまいを改善するために、とてもたいせつなことがあります。それは、あなたのめまいを引き起こしている原因疾患が何か、正しく突き止めることです。

それがわかれば、原因に対応した正しい対策を打ち出すことができます。ここでは、その見極め方のヒントをお伝えしましょう。

はじめに、めまいが起こるしくみについてお話します。

耳の奥にある器官、内耳には、蝸牛、前庭(卵形嚢と球形嚢)、三半規管という三つの部門があります。蝸牛に音刺激が加わると、脳を介してその音を私たちに知らせてくれます。これが「聴覚」です。

画像: 60歳超のめまいの67%は「良性発作性頭位めまい症」

同時に、内耳は「平衡覚」という、体のバランスをとる仕事もしています。前庭、三半規管は人の頭の動きによって起こる加速度(速度の変化)が刺激となり、その情報を筋肉に伝えることでバランスをとっています。

前庭、三半規管が病気になると、自分では動いていないのに動いていると感じたり、自分が動いていても、その情報が筋肉に伝わらなかったりします。これらの状況がめまいなのです。

耳鼻科のめまい専門外来で取ったデータを見ると、全年齢層での統計で最も多い原因疾患は、「BPPV(良性発作性頭位めまい症)」です。

BPPVは、本来前庭の卵形嚢に固定されているはずの耳石がはがれて、三半規管に入り込み、めまいを引き起こす疾患です。

特徴は、耳鳴り、難聴を伴わない、めまいは短時間で治まる、高齢者や閉経後の女性に多い、という点です。

60代以降で統計を取ると、全めまいのうち、67%がBPPVとされています。めまいの高齢女性は、かなりの確率でBPPVである可能性が高いといってもよいでしょう。

次に多い原因疾患は、「メニエール病」です。メニエール病は、内耳を満たすリンパ液が過剰にたまり、水ぶくれになる病気です。

特徴は、耳鳴り、難聴を伴う、激しい回転性のめまいが数時間続く、片方の耳から不調が生じることが多い、という3点です。

メニエール病では、水ぶくれになった内耳の余分な水分の排出を促すため、水分を多めに取るとよいとされています。また、有酸素運動も勧められます。

ただ、メニエール病はセルフケアだけでは治りません。必ず耳鼻咽喉科を受診し、適切な治療を受けてください。

自律神経の失調によるめまいにも注意しよう

統計上の数は少ないものの、高齢のかたに注意していただきたいのが、「自律神経の失調によるめまい」です。特徴は、脳貧血によって起こる、目の前が暗くなったり、失神したりする、降圧剤による場合が多い、という点。

自律神経は、血管の収縮・拡張をつかさどっていますが、血管のコントロールがうまくできない場合、脳から血が引いて、脳貧血になり、めまいが起こります。ほかには、急に立ち上がったときや、長い時間歩くことで、頭から血が下がって起こるケースがあります。

また、高齢者のかたは降圧剤を飲んでいることも少なくありませんが、薬で血圧を下げ過ぎることで、めまいが起こることがあります。降圧剤を服用している場合は、担当医と相談のうえ、薬を換える、毎日血圧を測り、低いときは降圧剤を減らすなど、工夫が必要です。

さらに、「脳卒中」などの際にも、めまいが起こることがあります。数は少ないものの、命にかかわる問題になりますから、注意が必要です。

ほかに、統計では、一定数の「原因不明のめまい」が存在します。しかし、これをよくよく調べると、そのうちの50%は、BPPVであり、25%が、自律神経失調によるというデータが出ています。つまり、ほとんどのめまいが、今説明しためまいへと回収されるのです。

めまいでお悩みの皆さんは、自分のめまいにはどんな特徴があるかチェックし、自分のめまいの正体を突き止めてください。そして、そのめまいに応じた治療やセルフケアを行っていけばいいのです。

BPPVのセルフケアについては、次項にて、詳しく解説します。

めまいを起こすステップを回避すればいい

BPPV(良性発作性頭位めまい症)は、めまいの疾患のうちでも、最も多くのかたが悩んでいる疾患です。

結論からいえば、BPPVは、めまい止めの薬を飲んでもよくなりません。しかし、その一方、患者さんの意識の持ち方一つで、治せる疾患でもあります。セルフケアが考案されており、それが有効であることがわかっているのです。

まず、BPPVが起こるしくみについて解説しましょう。

BPPVは、内耳にある「耳石」がはがれることで起こります。内耳には、重力を感じとる「平衡斑」と呼ばれる部位があります。平衡斑は、内耳にあるお皿のような物とイメージしてください。

このお皿の上には、およそ10万個の耳石が乗っています。通常、耳石はゼラチンでコーティングされており、はがれることはありません。

ところが、この耳石が、次のような要因ではがれてしまいます。それは、①加齢、②女性ホルモンの減少、③内耳の病気(メニエール病など)、④頭部打撲、です。

加齢は、耳石がはがれる有力な要因です。このため、高齢になると、BPPVになる人が増えます。また、女性の場合、閉経し女性ホルモンが減少すると、カルシウム代謝異常などが起こります。それにより骨粗鬆症になりやすくなりますが、同時に、耳石がはがれやすくなります。

しかし、耳石がはがれただけでは、めまいは起こりません。めまいは、

耳石がはがれる
はがれた耳石が三半規管に入り込む
頭が動くことで、三半規管に入った耳石が動く

という三つのステップを踏んで、初めて起こるのです。具体的に解説しましょう。

耳石の乗っているお皿(平衡斑)は、立っている場合、地面と平行になっています。つまり、耳石がはがれても、お皿が傾かない限り、こぼれません。

ところが寝るとき横になると、お皿が床に対して90度に傾くため、耳石がお皿からこぼれ、三半規管に入り込みます。さらに、寝ていた状態から、朝起き上がろうとすると、三半規管の中に入り込んだ耳石が動きます。ここでついに、めまいが起こる、というわけです。

はがれた耳石が三半規管に入り込んでしまっている場合には、起床時だけでなく、高い所の物を取ろうとするなど、頭を動かしたり、傾ける動きをすることで、それに反応し、めまいが起こります。

逆にいえば、めまいを起こさないためには、三つのステップのうちどれかを回避すればよい、というわけです。

45度の角度で寝れば耳石がこぼれない

そこで、私がBPPVの患者さんにお勧めしているのが、「ヘッドアップ就寝治療」です。NHKのテレビ番組、『ガッテン』でも紹介し、話題になりました。

これは、寝るときに、頭の位置を45度ほどの角度まで高くして寝る方法です(下図参照)。毛布などを積み重ねて角度を作るとよいでしょう。

画像: 45度の角度で寝れば耳石がこぼれない

水平に寝ると、先述のとおりお皿から耳石がこぼれてしまいます。そこで頭を高くして寝ることで、お皿から、耳石をこぼさないようにするのです。耳石がこぼれなければ、三半規管に入ることもなく、頭を動かしても、めまいは起こりません。

もちろん、いきなり45度の角度で寝ようとするのは体に負担が大きいため、1日5度くらいずつ頭を高くしていくとよいでしょう。

患者さんからは、「どのくらいの期間行えばいいか?」と、よく聞かれます。

耳石は普通数週間で、新陳代謝によって消えていきます。そのため耳石が三半規管に入り込んでも、数週間、頭を高くして寝続ければ、新たな耳石が三半規管に入り込むことを防げるので、めまいは起こらなくなるはずです。

めまいが起こらなくなって、ふだんどおりの体勢で寝始めると、また、耳石がはがれ、三半規管に入り、めまいが起こるかもしれません。その時点で、また、45度で寝ればいいでしょう。

耳石が三半規管に入り込んでしまっている間は、できるだけ頭を傾けたりせず、なるべく頭を水平に保って日常生活を送るようにしましょう。これによって、ある程度、めまいは起こりにくくなります。

それから、食事にも配慮しましょう。耳石をはがれにくくする食品としては、カルシウムの多い食品(牛乳などの乳製品や小魚など)や、カルシウムの吸収をよくするビタミンDの多い食品(イワシ丸干しやサンマ、キノコ類など)が挙げられます。

水分補給も大事です。少なくとも1日に1~1.5Lの水を飲みましょう。

BPPVのめまいがどのようにして起こるか、そして、どうしたらめまいを避けられるか、あなたも理解できたはずです。あとはセルフケアを実践するだけ。ぜひお試しください。

画像: この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。

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