股関節の屈曲・外転・伸展は、歩行や立ち座りなどの日常動作に欠かせない動きです。歩くスピードが遅くなった、長時間歩けなくなった、姿勢が前かがみになってしまう、足が上がりにくい、つまづきやすいといった症状は、直立二足歩行に必要な筋力が衰えているサインです。【解説】平泉裕(昭和大学医学部客員教授・成城リハケア病院病院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

平泉裕(ひらいずみ・ゆたか)

昭和大学医学部整形外科学講座/スポーツ運動科学研究所客員教授、成城リハケア病院病院長/整形外科・スポーツクリニック勤務。専門は脊椎脊髄外科、スポーツ医学。中学、高校時代はラグビー部、大学時代は水泳部に所属し、現在もトライアスロンに挑み続けるなどスポーツに造詣が深く、日本スポーツ協会公認スポーツドクターなども務める。

股関節の円滑な動きは日常動作に欠かせない

私は長年、脊椎脊髄外科とスポーツ医学を専門にし、中高年のかたやスポーツ選手の診療に当たってきました。

私自身もスポーツが大好きで、メディカルスタッフとしてスポーツの現場にかかわりながら、競技者としても、マラソンやトライアスロンの大会に参加しています。

学生時代は部活動でラグビーや水泳など、ハードな運動に取り組んでいましたが、医師になってからはスポーツから遠ざかっていた時期も長く、私が本格的にマラソンを始めたのは50代に入ってからです。

早朝、多摩川沿いを走ってから出勤したり、仕事のあと職場から自宅までランニングで帰ったりするようになってから、私自身すごく変わりました。心身ともに活発になり、活力がわいて、生き返るような気持ちになったのです。

昨年はコロナ禍の影響で、残念ながらマラソン大会やトライアスロン大会は軒並み中止になりましたが、毎日の早朝ランや帰宅ランのおかげで、肉体的にも精神的にも元気に過ごすことができました。

私にとって筋トレは、「ずっと走り続けられる体づくり」に欠かせないもので、昼休みや仕事の合間にさまざまな筋トレを行っています。

そのなかでも、特に中高年や高齢者の筋力アップ、歩行能力の向上、股関節痛やひざ痛の予防・改善に効果的な「股関節筋トレ」をご紹介しましょう。

この筋トレは、股関節の屈曲(前に曲げる)、外転(外側に開く)、伸展(後ろに伸ばす)の3方向の動きにかかわる筋肉を鍛えます。具体的なやり方は、下記をご参照ください。

股関節の屈曲・外転・伸展は、歩行や立ち座りなどの日常動作に欠かせない動きです。これらが円滑に動くようにかかわる筋肉は、体の中心軸である股関節と骨盤を安定させ、姿勢を保ち体を支えるために重要です。

平泉先生の股関節筋トレ
1. もも上げ

「もも上げ」では、股関節の正面、腰椎(腰の背骨)と骨盤、大腿骨(太ももの骨)をつなぐ腸腰筋を重点的に鍛えることができます。

腸腰筋は、股関節を屈曲するときに使う筋肉で、足を上げて活動的に歩いたり走ったりするために非常に重要な筋肉です。

つまづきやすい人や、ランナーでも足を引きずるようにして走る人は、腸腰筋の筋力が不足しています。このような人は、もも上げを行うことで、足を引き上げる力がつき、歩行もよくなります。

左足のひざを曲げて、太ももをできるだけ高く上げきって、下ろす。これを10回行う。ひざ関節と股関節を、自分が曲げることができる最大の角度まで、しっかり曲げる。

①と同様に、右足でも10回行う。

画像: 平泉先生の股関節筋トレ 1. もも上げ

平泉先生の股関節筋トレ
2. 足の横開き

「足の横開き」は、股関節の外側、骨盤の横から大腿骨につながる中殿筋を重点的に鍛えます。中殿筋は主に股関節を外転するときに使うお尻の筋肉で、片足立ちになったときや、横移動のときの姿勢や体のバランスを支えるためにも重要です。

中殿筋は加齢に伴って落ちやすい筋肉の一つ。日常生活で意識して使う機会も少ないので、中高年の人に鍛えてほしい筋肉のナンバーワンです。スポーツトレーニングやリハビリでも、中殿筋の筋トレは欠かせないメニューになっています。

左足で立ち、右足を少し浮かせる。浮かせた右足を、できるだけ大きく、ゆっくりと振り子のように左右に動かす。これを10往復行う。

床についている足と浮かせる足を逆にして、①と同様に、浮かせた左足を左右に10往復動かす。

画像: 平泉先生の股関節筋トレ 2. 足の横開き

平泉先生の股関節筋トレ
3. 足の後ろ伸ばし

「足の後ろ伸ばし」は、お尻のメインの筋肉である大殿筋を重点的に鍛えます。

大殿筋は、歩いたり走ったりするときに地面を蹴り出すパワーの起点となる筋肉です。着地した足の骨盤から上の体重を支えたり、骨盤を起こしてよい姿勢を保つ役目もあります。

先に紹介した中殿筋や、太もも前面の大腿四頭筋とともに、大殿筋は加齢や運動不足の影響を受けやすい筋肉です。大殿筋が衰えると、立ったりしゃがんだりする動作が困難になり、歩行能力も低下します。

つまり、もも上げ、足の横開き、足の後ろ伸ばしの3種をセットで行うことで、股関節周りの筋肉がバランスよく鍛えられるのです。

左足で立ち、右足を少し浮かせる。浮かせた右足を、後方へできるだけ高く引き上げて、下ろす。これを10回行う。
ひざを曲げるのはなく、肛門を締め、浮かせた右足側のお尻にグッと力を入れて、右足を上げる。

床についている足と浮かせる足を逆にして、①と同様に、浮かせた左足を後方へ10回上げ下げする。

画像: 平泉先生の股関節筋トレ 3. 足の後ろ伸ばし
画像: 【寝たきり防止】骨盤周りの筋肉を重点的に鍛えて骨も強化  ひざ痛や歩行困難を防ぐ「股関節筋トレ」のやり方

いずれも、壁に手を当てて行うのが基本。可能ならば、何もつかまらず行うとより効果的。その場合、転倒には十分気をつける。
3種すべてをセットで行う。1日に何度行ってもよい。

片足立ちで行うことで全身を効率よく強化する

股関節を強化するには、片足で立って行うことにも重要な意味があります。片足で立つと、筋肉や骨、関節などに最大で体重の5倍近い力がかかります。

また、片足でバランスを取るために、背中や腹筋、お尻、太もも、ふくらはぎなど全身の抗重力筋(地球の重力に対して姿勢を保持するのに働く筋肉)も働きます。そのため、片足立ちで行う筋トレは、効率よく全身の筋肉を強化できるのです。

寝たきりで体を動かさないでいると、1週間で筋力は10%も落ちるといわれています。また筋力と骨量は相関関係にあり、筋肉を使わないと骨も弱くなってしまいます。

そのため、寝たきりにつながる大腿骨頸部の骨折は、救急扱いで超早期のうちに手術を行います。そして、術後の翌日からリハビリを始めるほど、寝たきり防止に力を入れます。

私たち人間にとって、直立二足歩行ができる能力を維持することは、健康の土台です。立てなくなれば、心肺機能や内臓の働き、脳の活動など、全身のあらゆる機能が衰えます。

以前に比べて歩くスピードが遅くなった、長時間歩けなくなった、姿勢が前かがみになってしまう、足が上がりにくい、つまづきやすいといった症状は、直立二足歩行に必要な筋力が衰えているサインです。このような自覚がある人は要注意です。

何歳になっても元気に歩ける体を維持するために、今回紹介した筋トレを、毎日の習慣にしていただきたいと思います。

画像: この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。

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