片足で立つダイナミックフラミンゴは、転倒防止に重要なバランス能力を改善するとともに、股関節周囲の骨を強化し、下肢の筋力増強にも役立ちます。全身を鍛えるスクワット、上半身の筋肉を総合的に鍛える腕立て伏せとともに、健康維持と寝たきり予防のため、すべての中高年の人にお勧めしたい筋トレです。【解説】上月正博(東北大学大学院医学系研究科教授)

解説者のプロフィール

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上月正博(こうづき・まさひろ)

1981年、東北大学医学部卒業。東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻機能医科学講座内部障害学分野教授。東北大学病院リハビリテーション部長、同障害科学専攻長、日本心臓リハビリテーション学会理事。日本リハビリテーション医学会副理事長。日本腎臓リハビリテーション学会理事長を歴任。著書に『腎臓病は運動でよくなる!』(マキノ出版)、共著に『イラストでわかる 患者さんのための心臓リハビリ入門(第2版)』(中外医学社)など多数。

仕事合間の筋トレで体重が減り健康体に

私の専門は、内部障害リハビリテーションです。心臓病や腎臓病、呼吸不全、糖尿病、高血圧などの内部障害を改善するリハビリの研究と、患者さんへの指導を行っています。

私は朝7時から夜10時ごろまで大学にいて、運動をする時間がなかなか取れません。運動のたいせつさは重々わかっていましたが、8年ほど前には、体重が増え、コレステロール値やヘモグロビンA1c(過去1~2ヵ月の血糖状態を示す数値)も高めに。「健康のためにも運動をしなければ」と痛感しました。

運動不足を解消しようと、大学のそばのスポーツジムに入会しましたが、通うのはなかなか難しいものでした。

そこで考えたのが、仕事の合間の筋トレです。現在も習慣として続けていて、体重は元に戻り、健康状態も良好です。

私が今でも毎日行っている筋トレは、「ダイナミックフラミンゴ」と、「スクワット」、「プッシュアップ(腕立て伏せ)」(下項参照)の3種類です。

ダイナミックフラミンゴは、電話をしているときに行っています。スクワットと腕立て伏せは、デスクワークの合間に行います。ずっと机に向かい作業をしていると、能率が落ちたと感じることがあります。そんなときに行うと、スッキリした頭で仕事に戻れます。

それぞれの筋トレついて、詳しく説明しましょう。

上月先生の寝たきり予防筋トレ

1. ダイナミックフラミンゴ

転倒防止に重要なバランス能力を改善するとともに、股関節周囲の骨を強化し、下肢の筋力増強にも役立ちます。

片足で立つと、大腿骨頭(太ももの骨の上端にある丸い部分)にかかる力は、両足で立つときの2.75倍になります。それを1分間続けると、大腿骨頭に加わる力は徒歩53分の負荷量になります。

転倒しないように注意する。机やイスの背、手すりなどにつかまりながら行うとよい。

画像1: 1. ダイナミックフラミンゴ

右足のひざを曲げて、太ももと床が水平になるように、ゆっくり上げる。上げきったら、そのまま1分静止する。

画像2: 1. ダイナミックフラミンゴ

同様に、左足で①を行う。①~②を、朝昼晩の1日3回行う。

2. スクワット

全身を鍛える運動とされており、筋トレの基本といえる運動です。下半身、特に太ももとお尻周辺の大きな筋肉が総動員されますが、バランスを取るために上半身の筋肉も同時に使われます。

転倒しないように注意する。机やイスの背、手すりなどにつかまりながら行うとよい。

画像1: 2. スクワット

息を吐きながら、3~5秒かけてできるところまでゆっくりと腰を落とす。ひざがつま先よりも前に出ないようにする。

画像2: 2. スクワット

息を吸いながら、3~5秒かけて腰を上げる。①~②を5~10回くり返すのを1セットとし、1日3セット行う。

3. プッシュアップ

腕、肩、胸、背中など上半身の筋肉を総合的に鍛える筋トレです。私は教授室の床にマットを敷き、両手と両ひざを床につき、ひざから下は浮かせて行っています。これが難しい人は、ひざから下も床につけて行ってOKです。

画像1: 3. プッシュアップ

両手と両ひざを床について、床と水平になるように背中をまっすぐにする。両手はハの字状にし、肩幅よりやや広めにつく。

画像2: 3. プッシュアップ

息を吸いながら、3~5秒かけて、顔が床につかないギリギリのところまで腕を深く曲げる。曲げきったら、そのまま1秒静止する。

息を吐きながら、3~5秒かけて腕を伸ばし、①の姿勢に戻る。②~③を5~10回くり返すのを1セットとし、1日3セット行う。

これらの筋トレは、実は、心臓病や腎臓病の患者さんのリハビリ運動にも含まれています。加齢に伴う筋力の低下を食い止め、高齢者のサルコペニア(筋肉量の減少、筋力の低下、身体機能の低下がある状態)や、フレイル(加齢によって心身が衰えた状態)の予防と改善に役立ちます。

健康維持と寝たきり予防のため、すべての中高年の人にお勧めしたい筋トレになります。

ウォーキングも習慣にすれば寿命が伸びる

筋トレに加えて、ぜひ毎日の習慣にしてもらいたいのが、ウォーキングです。体力・持久力の向上、心肺機能の強化、体脂肪の減少、肥満の解消、血圧の低下、血管の老化防止、免疫力アップ、寿命の延長など、多くの効果が知られています。

私は通勤時や、教授室と病棟を行き来するときなどに、意識して大幅で歩きます。街では、若い人たちを追い抜くようにサッサと歩いたり、教授室から病棟まで300mの距離を速足で歩いたりと、それだけでも、けっこうな運動量になります。

歩行能力と寿命には関係があります。アメリカで65歳以上の男女約3万5000人を最長21年間追跡した研究によると、秒速1.6mで歩く人の平均寿命は95歳以上、秒速0.8mの人は約80歳、秒速0.2mの人は約74歳という結果が出ています。

「健康のためには1日1万歩歩くとよい」といわれますが、私たちの研究によると、1日約4100歩程度歩くだけで、腎機能がアップすることがわかりました。運動習慣が全くない人は、1日に500~1000歩増やすことから始め、少しずつ歩数を増やせばよいでしょう。

ポイントは、前述のとおり歩幅を大きくすること。私は患者さんたちに「小股で急いで歩くのではなく、歩幅をできるだけ広めにとって歩きましょう」と指導しています。

大股で歩くと、足腰の筋肉だけでなく上肢も使うので、全身の有酸素運動になります。歩行が安定し、歩く姿も若々しくなります。

画像: この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。

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