骨密度が低下しても、それ自体はなんら影響がありません。問題は、転倒したとき、容易に折れてしまうことです。ですので、骨の強化も重要ですが、最も肝心なのは、転ばないこと。それには、なんといっても筋力をつけることです。【解説】吉形玲美(浜松町ハマサイトクリニック医師)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

吉形玲美(よしかた・れみ)

浜松町ハマサイトクリニック婦人科医師。医学博士。産婦人科専門医。東京女子医科大学医学部卒業。同大学病院婦人科で一般診療を担当しながら臨床研究に携わる。2010年、浜松町ハマサイトクリニック院長に着任。現在は同院での診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期医療はもとより女性予防医療の普及・発展に尽力している。大豆イソフラボン由来の成分「エクオール」研究の第一人者。

転ばないためには筋力が必要

突如降りかかってきたコロナ禍は、私たちの生活を一変させました。2020年春に緊急事態宣言が出されてから、当該の地域では、多くの活動が制限されました。

「ステイホーム」は感染拡大防止には有効ですが、外出の機会が減ることは、運動不足に直結します。高齢のかたなら、なおさらです。サークルで楽しんでいたスポーツもできなくなり、筋力低下に拍車がかかります。

私の専門は産婦人科ですが、近年は女性の予防医療に力を入れています。具体的には、専門検査や生活指導を通じて病気の発症を未然に防ぎ、高齢化が進むなかで、健康寿命の延伸を目指すものです。

高齢の女性が注意すべき病気の一つに骨粗鬆症があります。これは、閉経後に女性ホルモンの分泌量が減り、骨密度の低下につながることで起こります。

骨密度が低下しても、それ自体はなんら影響がありません。問題は、転倒したとき、容易に折れてしまうことです。特に、腰椎(腰の背骨)や大腿骨(太ももの骨)などの骨折は「寝たきり」のきっかけになりやすく、それが認知症の発症につながるおそれもあります。

ですので、骨の強化も重要ですが、最も肝心なのは、転ばないこと。それには、なんといっても筋力をつけることです。

私自身は、医学生時代から社交ダンスを趣味としています。また、ふだんからよく歩くことを心がけています。これまではダンスのレッスンに加え、毎日1万歩を歩くことで、筋力を維持してきました。

けれどもコロナ禍でレッスンがなくなり、毎日の歩数も減少。階段を上り下りしたり、縄跳びをしたりと工夫しましたが、運動不足は否めません。そこで、新たに始めたのが、今回ご紹介する筋トレです(下記)。

吉形先生のゆっくりイス腹筋

1日に何回行ってもOK。慣れたら回数を増やす。両足が難しい場合は片足ずつ上げてもよい。イスは背もたれのある安定した物がお勧め。

画像1: 吉形先生のゆっくりイス腹筋

イスに浅めに腰かけ、胸の前で両手を重ねる。

画像2: 吉形先生のゆっくりイス腹筋

両ひざを胸まで引き寄せるように、5秒かけてゆっくりと上げ、5秒かけてゆっくりと下ろす。これを1回とする。

肛門を締めるようにすると排尿トラブルにも有効

私はこの「ゆっくりイス腹筋」のほかに、いわゆる「スクワット」と机などに手をついて行う「斜め腕立て伏せ」も、併せて行います。いずれも、10回を1セットとして3セットずつ、夜に行うのを日課にしました。

自宅で行う場合は、慣れてきたら、テレビを見ながらでもできます。加えて、診療の合間にも、すきま時間を見つけては、行うようにしました。

イス腹筋は、腹筋と背筋といった体幹の筋肉に加え、太ももの大腿筋を鍛えるのに役立ちます。

ちなみに、これを行うときに肛門を締めるよう意識すると、骨盤底筋群という腰周りの筋肉が鍛えられます。出産経験のある女性の多くが悩む排尿トラブルの改善に有効なので、患者さんにもそう勧めています。

これらの筋トレを続けたところ、運動不足でやせてきた筋肉が、盛り返してきました。私の腹筋は、真ん中がもともと縦に割れていたのですが、その溝がそれまでより明らかに深くなったのです。確実に筋肉がついてきている、と実感できました。

ただ、皆さんは、どうか無理のない範囲で行ってください。ふだん運動習慣のないかたが、いきなりトレーニングを始めると、筋肉を傷めるおそれがあります。特に高齢のかたは要注意です。できれば先にストレッチなどを行い、体をほぐしておくといいでしょう。

イスは、なるべく安定した物で、背もたれのあるタイプがお勧めです。この筋トレは、座面に浅く腰かけて行います。背もたれがあれば、万一バランスをくずして後ろに倒れても、安全です。

腕を前で組むと不安定に感じるかたは、イスの座面の両側やひじかけを持つなどして、体を支えてください。また、両足を同時に上げるのが難しければ、片足ずつでもいいですし、上げる高さをもっと低くしてもいいでしょう。

筋肉は、一朝一夕にはつきません。一方、何もしないでいると、どんどん衰えていきます。1日1種類でも、数回でもかまいません。なるべく毎日、継続して行い、できた自分をほめてあげてください。数ヵ月もすれば、きっと変化が感じられるはずです。

画像: この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年6月号に掲載されています。

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