解説者のプロフィール

内田好治(うちだ・よしはる)
トラディショナル・オステオパシー内田治療院院長。2001年あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得。齋藤巳乗先生の「誇張法」を東北オステオパシー会にて学んだ後、インターナショナルオステオパシーカレッジジャパンにて5年間のオステオパシー教育を受け、ディプロマを取得し、本格的にオステオパスとしての活動を始める。
不調のある部位をゆるめると血流が回復
私は現在、「オステオパシー」という手技を使って、多くの方の施術を行っています。
オステオパシーとは、簡潔に言うと、不調のある部位をゆるめることで、体に備わっている自然治癒力を引き出し、体をあるべき姿に近づけるという方法です。
オステオパシーは、19世紀にアメリカ人医師のアンドリュー・テイラー・スティルによって確立された医学で、手で患者さんの体に触れて、診察や治療を行うのが特徴です。
意外に思うかもしれませんが、骨や関節、筋膜(筋肉の繊維を覆っている膜)、内臓など体内の状態は、外から手で触れて、感じ取ることが可能です。硬くなり、本来の動きができなくなっている部位があれば、そこが治療のターゲットとなります。
病気の細胞は、潤いがなく乾いた状態となっています。これは、硬くこわばった部位があることで、血液の通り道が狭まり、そこから先には十分な栄養が届かなくなるためです。
そのため、オステオパシーの治療では、痛みなど症状が出ている部位と、治療する部位が、大きく離れていることもよくあります。
治療するときは、手技で硬くなっている部位をゆるめます。すると、血流が回復し、その先の細胞にも十分な栄養が供給されるので、症状は快方へと向かうのです。
一般的に手技による治療と聞くと、肩こりや腰痛が思い浮かびますが、オステオパシーの治療範囲はもっと幅広いものとなります。内臓や神経の不調から、精神的な問題まで、全身のほとんどの不調が施術の対象となります。
もちろん、緑内障など目の症状にも、オステオパシーは効果的です。実は、私自身もかつて緑内障でしたが、オステオパシーによって改善しました。
視神経にかかわる頭蓋骨をゆるめる
私の左目が緑内障と診断されたのは、20代前半です。高校生のときに、外因性のケガによる網膜剥離を起こし、左目を手術しています。それが緑内障の誘因となったのでしょう。
当時の眼圧は25~30㎜Hgで、点眼薬が処方されました(眼圧は眼球内の圧力のことで、基準値は10~21㎜Hg以下)。しかし、これが私には合いませんでした。目薬をさすと目が真っ赤に充血してしまうのです。
主治医に相談しても、「これが一番合う薬なので、続けてください」と言われるのみ。この副作用に、ほとほと嫌気がさしていた私が思いついたのが、当時学び始めた、オステオパシーによる自己治療でした。
私の場合、問題は頭蓋骨にあるようでした。そこで、硬くこわばっている部位をゆるめる調整を行ったところ、パンパンに張っていた、左目の触り心地が瞬時に柔らかくなったのです。
手ごたえを感じた私は、薬をいったん休止。オステオパシーによるセルフケアをくり返し行いました。
そうして、やってきた通院日。眼圧を測ると、見事、基準値に戻っていたのです。以降、ずっと基準値です。
私の症例からもわかるように、オステオパシーでは症状が出ている左目だけの改善を目指しての施術は行いません。
その人全体を観察して、症状を引き起こしている、根本的な原因を探るのが、オステオパシーの大きな特徴です。
ですから、人によって原因は異なりますが、多くの場合、目の症状には頭蓋骨が関わっています。中でも関係の深いのが、こめかみ部分にある蝶形骨と、頭の後ろにある後頭骨です。

視神経に関わる頭部の骨
この二つの骨をゆるめると、視神経に栄養を補給している、内頸動脈(首から脳内に達する動脈)と眼動脈の血流がよくなります。すると、目の組織に十分な栄養が供給されるようになり、その機能が正常化します。
その結果として、眼圧が低下したり、効かなかった点眼薬が効くようになったりします。近視や老眼、ドライアイなど、さまざまな目の症状も改善が見込めます。
当院の症例では、飛蚊症や閃輝暗点(突然、視界にギザギザした光の波が見える症状)がよくなったケースがありました。
今回は、このようなオステオパシーの知見を生かしたセルフケアを二つご紹介します。①と②は、続けて行います。
①蒸しタオル
電子レンジなどで、おしぼりより少し熱めの蒸しタオルを作り、まず首から温めます。タオルが冷めてきたら、再度温めて、これを2~3回くり返します。続けて、同じやり方で目を温めます。これで首から目にかけての血流がよくなります。

❶フェイスタオルを水でよく絞り、電子レンジ(600W)で50秒ほど温める。
❷①を首の後ろに当てる(やけどに注意)。
❸タオルが冷めたら、再度、温めてこれを2~3回くり返す。
※目にも同様に行う。
※ぬれたタオルが気になる場合は、蒸しタオルをビニール袋に入れてから当てるとよい。
②首のストレッチ
頸椎の骨を大きく左右に動かすことによって、関節の動きをよくします。これで、蝶形骨や後頭骨もゆるみやすくなります。
やり方は、両手を合わせて、ひじはまっすぐ肩の高さに保ったまま、首と手を左右逆方向に動かすだけ。左右それぞれ10回ずつ、計20回行いましょう。
効かせるコツは、次の2点。
・一つ目は、合わせた両手をできるだけ、耳の後ろの位置まで持ってくること。
・二つ目は、ひじの位置。行っているうちに、ひじが下がってくるので、両ひじを水平に保つことを心がけてください。

❶両手のひらを合わせて、ひじは肩の高さまで上げる。

❷頭をゆっくり左に向けると同時に、ひじの高さを保ったまま、両手を右後ろに引っ張る。

❸ゆっくり①の位置に戻したら、次は頭をゆっくり右に向け、両手を左後ろに引っ張る。
※これを交互に10回ずつ行う。
頭痛やめまい、耳鳴り、花粉症など、首から上に現れる症状には、たいてい内頸動脈と眼動脈の血行不良が関わっています。そのため、蒸しタオルと首のストレッチは、目の症状だけでなく、これらの症状にも効果が期待できます。ぜひお試しください。

この記事は『安心』2021年5月号に掲載されています。
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