解説者のプロフィール

末武信宏(すえたけ・のぶひろ)
美容外科・皮膚科・形成外科さかえクリニック院長。順天堂大学医学部非常勤講師。医学博士。全国主要都市の大手美容外科クリニックで美容外科医の指導、チーフドクターを歴任。第88回日本美容外科学会会長。社団法人先端医科学ウェルネスアカデミー副代表理事。1996年より現職。
起床時の眼圧が特に高かった
眼圧は高いが、視神経に異常がない状態を、「高眼圧症」といいます。
私は40歳代前半から、この疾患を抱えています。眼圧が高い状態が続くと、いずれは視神経にダメージが及び、緑内障になる可能性が高い状態です。
私は、母が開放隅角緑内障で48歳で失明していることもあり、早い段階から眼科の専門医が使うような非接触型眼圧計を購入して、毎日、眼圧をチェックしていました。
すると、案の定、40歳を過ぎた頃から、眼圧が20㎜Hgを超えてきたのです(基準値は10〜21㎜Hg)。
私は眼圧降下が期待できる点眼薬、内服薬を自分で選び、片っ端から試しました。当初は、一つの点眼薬で眼圧も正常範囲に収まっていました。しかし、50歳を過ぎた頃から、4~5剤と点眼薬を使っても、思うように眼圧は下がってくれなくなりました。
実は眼圧というのは、一日の中で大きく変動します。私の場合、日中や夜は10㎜Hg前後で落ち着いているのですが、朝は薬を使っても35㎜Hg、ひどいときは50㎜Hg近くまで上がることもありました。
もちろん大学病院の緑内障外来を含め、数人の眼科専門医にも診てもらいました。でも、「様子を見て、視野や視神経に異常が起こったら手術をしましょう」と言われるだけで、なすすべがありませんでした。
いろいろ試して行き着いた運動療法
幸い、私は高眼圧が何年も続いていたにもかかわらず、視神経は正常を維持していました。
これには専門医も不思議がっていたほどです。ただ、眼圧が高いと角膜浮腫(※黒目の部分を覆っている角膜の、一番内側の組織である角膜内皮に水がたまり、むくみが起こる症状。)が起こるため、朝起きてから1〜2時間はすりガラス越しに物を見ているような、霧がかかったような状態が続き、困っていました。
そこで、私はなんとか眼圧を下げる方法を、自分で模索することにしたのです。
高眼圧症や緑内障に関する論文を読みあさり、あらゆる方法を試しました。緑内障の研究では、運動で眼圧が下がる傾向にある、と報告されています。
そこで私は、40代の頃、毎日10㎞走っていました。走る前後に眼圧を測ると、運動後は眼圧が大幅に下がっています。当時はアスリート並みにトレーニングをしていたので、高眼圧でも視神経が維持できていたのは、そのおかげかもしれません。
とはいえ、そんなにハードな運動は、何歳になってもできるわけではありません。他に何か方法はないかと、眼球に圧力を加えてみたり、温めたり、冷やしたり、スクワットやウエイトトレーニングなど、ありとあらゆることを試しました。
その結果、何歳になってもできて、手軽に、確実に眼圧を下げる方法として行き着いたのが、「3分ジャンプ」です(やり方は下項)。
この方法にたどり着いてから3年間、朝起きたときはもちろん、日中も暇さえあればジャンプをしています。
おかげで起床時に30㎜Hgを超えるほど眼圧が上がっても、ジャンプを3分ほどするだけで20㎜Hg以下に下がります。角膜浮腫による見えづらさも少しずつ改善し、半年に1回の検査でも、緑内障は進行していません。
これは常に眼圧を測定できるナビゲーションシステムが搭載された「トノメーター」という非接触型眼圧計で、常に自分でジャンプ前後に眼圧を測定しているため、わかったことです。
一般的に、眼科ではリアルタイムで眼圧変動は測定できないので、診察時の1回のみの眼圧で、高眼圧か否かの判断をします。起床時のみが高いとか、夜間は低くなっているとかは、わからないのです。
そのため、視神経や視野の異常だけで「正常眼圧緑内障」と診断されている人でも、起床時には高眼圧になっている人も少なくないのではないかと、私は推測しています。
体を軽く揺らしながら行うとより効果的
3分ジャンプは、高く飛ぶ必要はなく、つま先で軽くジャンプするだけでOKです。全身の力は抜いて、体を軽くゆらしながら行うと、より効果的です。
やってみるとわかりますが、3分間ジャンプするのはなかなかハードです。最初は30秒から始めて、徐々に1分、2分と長くしていくとよいでしょう。
個人差はあるものの、眼圧は寝ているときに高くなりやすいので、3分ジャンプは特に、夜寝る前と朝起きたときに行うのがお勧めです。それ以外にも、1日何度やっても構いません。
では、3分ジャンプでなぜ眼圧が下がるのでしょうか。
眼圧が上がる原因は、眼球内の房水が過剰に作られたり、うまく排出されなくなったりして循環が悪くなるため、といわれています。
ジャンプをすると、ゆらぎが起こり、それによって房水の排出が促される可能性が考えられます。また、ジャンプによる振動刺激と運動効果により、視神経や網膜への血流もよくなります。
寝ていると水や血液がうっ滞しやすいのと反対に、立って行うジャンプはそれらの流れをよくして、眼圧を下げる効果が期待できるのです。
また、ジャンプはふくらはぎの筋肉を刺激して、心臓へ静脈の血液が戻るのを促します。
肛門を締めてジャンプをすれば、骨盤底筋群が強化されて、尿もれなどの予防にもなりますし、骨粗鬆症や生活習慣病の予防・改善にも効果的です。
血流がよくなることで、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のバランスも整います。ストレス解消にもなり、副交感神経(リラックス時に働く神経)レベルが上がります。これによって、全身の血流だけでなく、目の周囲の組織への血流、視神経の血流の増加が見込めるかもしれません。
ただし、ひざや股関節などに痛みがある場合は、決して無理はしないでください。
なお、眼圧には姿勢も影響してきます。特に、目に負担をかけるうつぶせ寝や、血流が悪くなる座りっ放しの姿勢は避けるといいでしょう。
3分ジャンプのやり方
●縄跳びをする要領で、ジャンプをする。自分のペースで、決して無理はしない。
●理想は3分間行うことだが、最初は30秒から始めるとよい。慣れてきたら徐々に時間を延ばす。
●着地するときは、ひざと足首を軽く曲げるとよい。

足腰が弱い人や高齢者は、いすなどにつかまって行う。

❶いつでも手軽にできる
❷どこでもできる
❸場所をとらない
❹器具が不要
❺体力がない人でも行える
❻高齢者でも何かにつかまって行えば転倒のリスクなく行える
❼ふくらはぎの筋肉を刺激して、心臓へ静脈の血液が戻るのを促進。それとともに末梢血流が改善
❽脳へ刺激が加わる
❾眼球を取り囲んでいる脂肪などの組織への刺激で視神経、網膜の血流改善が期待できる
❿ストレスが解消され自律神経のバランスが整う
⓫房水の排出が促される可能性が期待できる

この記事は『安心』2021年5月号に掲載されています。
www.makino-g.jp