透析患者さんは、水分の摂取量が制限されています。そのため、肌は常に乾燥して、かゆみが生じがちです。便秘になる方も少なくありません。もともと体内の水分量が少ないため、口呼吸の悪影響は強く現れると考えられます。【解説】今井一彰(みらいクリニック院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

今井一彰(いまい・かずあき)

みらいクリニック院長。内科医、東洋医学会漢方専門医。NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長。2006年みらいクリニック開院。息育、口呼吸問題の第一人者として、全国を講演で回る日々。あいうべ体操、ゆびのば体操の考案者でもある。『自律神経を整えて病気を治す!口の体操「あいうべ」』『1日4分でやせる!ゆるHIIT』(共にマキノ出版)など、著書多数。
▼みらいクリニック(公式サイト)

粉を吹いたような肌の乾燥も治まった

私のクリニックでは、患者さんに対し、セルフケアの一つとして、就寝時の「口テープ」を勧めています。

就寝中は誰でも全身の筋肉がゆるみ、体の代謝が低下します。そのため、口が開いて口呼吸になったり、唾液の分泌量が減ったりします。

この状態では、質のよい睡眠は得られません。ドライマウスやイビキ、歯周病、睡眠時無呼吸症候群、カゼやインフルエンザなどの感染症、日中の集中力の低下など、心身にもさまざまな悪影響が現れます。

寝る前にくちびるにテープをはって自然に鼻呼吸を促す「口テープ」は、就寝時の口呼吸が原因で生じる、さまざまな心身の不調の改善に役立つのです。

口テープは、人工透析治療を受けている透析患者さんの不調にも、ある程度の効果が期待できます。

その効果に気づいたのは、10年ほど前のことです。透析医療機関に勤めている方から、「透析中に口が開いている患者さんが多い」と聞いたのがきっかけでした。人工透析には数時間を要します。その間、睡眠を取っている患者さんの口が開きっ放しになっていることが多いというのです。

そこで口テープを勧めたところ、透析患者さんたちに次々と変化が現れました。体のかゆみが軽減したり、ぐっすり寝られるようになったり、イビキをかかなくなったり、口が渇かなくなったりしたのです。

中には、「透析後はいつも足がつっていたのに、口テープをして寝たら、足がつらなかった」という方もいました。

透析患者さんは、水分の摂取量が制限されています。そのため、肌は常に乾燥して、かゆみが生じがちです。便秘になる方も少なくありません。もともと体内の水分量が少ないため、口呼吸の悪影響は強く現れると考えられます。だからこそ、口テープの効果をより強く体感できたのでしょう。

口テープのやり方

※はるのが怖い人は、無理せずに、起きているときにはって過ごして、問題ないか試してみる。
5歳未満のお子さんには、口テープをはってはいけない
※肌が荒れやすい人は、はる位置を日々変えるとよい。

▶︎用意するもの
薬局などで売られている医療用テープ(サージカルテープやばんそうこう)
*幅は12mm前後がお勧め

画像1: 口テープのやり方

▶︎やり方
テープを5cmほどに切る。
くちびるの中央に縦にはり、そのまま眠る。

画像2: 口テープのやり方
画像3: 口テープのやり方

 
私も、自分の患者さんで人工透析を受けるという方には、口テープを勧めています。

70代の女性Aさんは、後鼻漏(鼻水がのどに流れてくる症状)で鼻の奥に炎症が生じ、口呼吸に陥っていました。そこで、就寝時の口テープを勧めたところ、タンなどの症状は改善しました。

Aさんは人工透析も受けていたため、透析中も口テープをはって寝たそうです。すると、肌に大きな変化が現れました。

以前は強いかゆみがあり、無意識にかいてしまうのか、Aさんの手足は、いつも粉を吹いたように白っぽく乾いていました。そのかゆみが消えたのです。全身の肌の乾燥も治まりました。「透析中に深く眠れる」とAさんは喜んでいます。

50代の男性Bさんは、ある内臓の病気で受診された患者さんです。Bさんはセルフケアで口テープと、口呼吸を鼻呼吸に改善する体操「あいうべ体操」(やり方は下項参照)を続けていました。

その後、Bさんは人工透析を受けるようになりました。その透析中にも、口テープを行ったそうです。

Bさんには、透析患者さん特有の肌のかゆみは出ていません。「他の透析患者さんは『かゆい、かゆい』と嘆いているのに、自分はどこもかゆくない。肌は潤っている」と不思議そうに報告してくださいました。

口呼吸→鼻呼吸で自律神経が整う

AさんやBさんのように、口テープやあいうべ体操を続けたことで、透析患者さん特有の肌のかゆみや便秘が改善した例は数多くあります。

呼吸は自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)の状態と深く関わっています。浅くて速い呼吸は交感神経の働きを優位にし、深くてゆったりとした呼吸は副交感神経の働きを優位にします。口呼吸と比べると、鼻呼吸は深く、ゆったりとした呼吸です。

口テープやあいうべ体操を続けた透析患者さんは、口呼吸から鼻呼吸に変わったことで、自律神経のバランスが整い、質のよい睡眠を得たり、かゆみなどの不調が改善したりしたのでしょう。

口テープは、専用のテープも販売されていますが、肌への刺激が少ないテープであれば、どのようなテープを使っても構いません。口をきちんと閉じるためには、できれば幅の太いテープがお勧めです。サージカルテープであれば12mm幅から試し、慣れてきたら25mm幅の太いテープをはってみましょう。

テープは、夜寝る前に、口を閉じるようにして、くちびるに軽くはってください。口の横から息が抜けるように、くちびるの真ん中に縦に1本をはるのが基本のはり方です。縦に2本はったり、バッテンの形にするなど、はり方は各自で工夫してください。

肌が乾燥しがちな透析患者さんは、テープの刺激でくちびるの皮がめくれてしまうこともあります。この場合は、毎回同じ箇所にはるのではなく、少しずつ位置をずらしてはるなどしてください。テープをはる前に薄くワセリンなどをぬって、くちびるを保護するのもよいでしょう。

事前に透析医療機関のスタッフにテープを預けておき、自分が透析中にテープをはり忘れて寝てしまったら、代わりにくちびるにはってもらっている、という患者さんもいます。

腎臓病の原因となる扁桃炎の予防にも有効

あいうべ体操は、次の4つの動作をくり返します。

「あー」と口を大きく開く
「いー」と口を大きく横に広げる
「うー」と口を強く前に突き出す
「べー」と舌を突き出して下に伸ばす

声は小さくても構いません。1文字1秒くらいのゆっくりとしたペースで、10回くり返してください。

あいうべ体操は、舌や口周辺の筋肉を鍛えます。舌の筋肉が鍛えられると、舌は口内で上あごにつき、口は自然と閉じるようになります。これにより、無理なく鼻呼吸ができるようになるのです。

口テープやあいうべ体操は、かゆみをはじめとする透析患者さんの不快な症状の改善に役立ちます。

また、腎臓病の種類や個人差にもよりますが、質のよい睡眠を得ることと自律神経のバランスを整えることで、腎臓病の進行をある程度抑えることも期待できます。

腎臓病の中には、慢性扁桃炎と深い関わりを持つものがあります(IgA腎症)。外気を直接のどに送り込む口呼吸は、扁桃炎を起こしやすくするといわれています。腎臓病の原因となる慢性扁桃炎の予防にも、口テープとあいうべ体操は役立ちます。

どちらも、手間や費用はほとんどかからない、誰もが容易にできるセルフケアです。ぜひお試しください。

「あいうべ体操」のやり方

・声を出して行う。
・大げさなくらい口を大きく動かす。
・1回を4秒前後かけてゆっくり行う。
・できれば朝昼晩と、1日3度行う。

画像: 「あいうべ体操」のやり方

❶「あー」と、口を大きく開く。
❷「いー」と、口を大きく横に広げる。
❸「うー」と、口を前に突き出す。
❹「べー」と、舌を突き出して下に伸ばす。
※①~④を1回として、1日合計30回を目安に毎日行う。

画像: この記事は『安心』2021年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年5月号に掲載されています。

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