慢性腎臓病のうち、代表的な病気の一つが慢性糸球体腎炎で、その半数以上を占めるのが「IgA腎症」です。そしてその原因の多くが、のどの扁桃や上咽頭など、腎臓から離れた別のところの炎症にあることがわかってきています。【解説】堀田修(堀田修クリニック院長)

解説者のプロフィール

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堀田修(ほった・おさむ)

堀田修クリニック院長。1983年、防衛医科大学校卒業。医学博士。日本病巣疾患研究会理事長。日本腎臓学会評議員。IgA腎症根治治療ネットワーク代表。1988年にIgA腎症の根本治療として扁摘パルス療法を考案。扁桃、上咽頭、歯などの病巣感染(炎症)が引き起こすさまざまな疾患の臨床と研究を行う。
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のどの炎症が腎臓病を引き起こす

腎臓の病気の原因は、腎臓にあると、多くの人は思っているでしょう。

ところが、IgA腎症という腎臓病の根本原因は、のどの扁桃や上咽頭など、腎臓から離れた別のところの炎症にあることがわかってきています。

では、そもそもIgA腎症とはどんな病気で、なぜ、腎臓から離れたところの炎症が原因になるのかについて、以下に述べましょう。

慢性腎臓病のうち、代表的な病気の一つが慢性糸球体腎炎で、その半数以上を占めるのが「IgA腎症」です。これは、糸球体の毛細血管に、免疫グロブリンA(IgA)という物質が沈着して炎症を起こす病気です。

免疫グロブリンAは、本来、体を守ってくれる免疫物質の一つですが、これが何らかの原因で腎臓の糸球体に沈着し、炎症を起こすと、IgA腎症となります。

IgA腎症が進行すると、腎機能が低下し、血尿やたんぱく尿が出ます。さらに進むと、30年ほどで約半数の人が、透析の必要な状態になります。難病にも指定されており、10年ほど前までは、治らない病気とされていました。

しかし、治らなかったのは、腎臓から離れたところにある「根本原因」を見落としていたからだったのです。

その原因の多くを占めるのが、扁桃の慢性的な炎症であることがわかり、私たちは、「扁摘パルス療法」という治療法を開発しました。

扁摘パルス療法とは、舌の付け根の両側にある扁桃という組織を切除した後、ステロイド剤を点滴投与する治療法です。

私はこれまで、約3000人の患者さんに扁摘パルス療法を行ってきました。

IgA腎症の診断がついた後、適切な時期(たんぱく尿が増える前の段階)にこの療法を行えば、8割以上が寛解(病気がコントロールできている状態)に至ります。

この治療成果が、腎臓から離れた部位にある扁桃の炎症が、IgA腎症の大きな原因であることを裏付けています。

IgA腎症はどんな病気?
▶慢性糸球体腎炎の一つで、腎臓の糸球体に、免疫グロブリンAという物質が沈着して、炎症を起こす病気。
▶適切な対処をしないと、30年ほどで約半数の人が、人工透析が必要になる。

自覚症状は?
▶初期に自覚症状はなく、健康診断で血尿やたんぱく尿を指摘されて判明することが多い。放置せずにすぐ受診することが大切。
▶のどのカゼをひいた後に、コーラの色のような血尿が続く場合も、IgA腎症が疑われるので、この場合もすぐ受診を。

原因は?
▶原因不明と考えられていたが、のどにある扁桃や上咽頭などの慢性的な炎症が、発症の原因の一つであることがわかってきている。

歯周病がIgA腎症に関係するケースもある

では、なぜ扁桃の炎症がIgA腎症を引き起こすのでしょうか。

扁桃は、俗に「扁桃腺」とも呼ばれ、細菌などの病原体の体への侵入を防ぐ役目をしています。

慢性的な扁桃炎が起こると、一部の免疫細胞が増加し、血液に乗って全身に移動します。その免疫細胞が作ったIgAが、糸球体に沈着して、IgA腎症を引き起こすのです。

また、口の中の根尖性歯周炎が、IgA腎症の原因になることもあります。

根尖性歯周炎とは、ムシ歯治療の際、歯の根っこの治療(根管治療)が不十分だったため、そこに炎症が起こるものです。 これも、扁桃の炎症と同じメカニズムで、IgA腎症の一因になります。

IgA腎症に根尖性歯周炎が関係していると考えられる場合は、歯科できちんと治療する必要があります。

治りにくいIgA腎症の中には、腎臓と関係ないと考えられている根尖性歯周炎が、実は発症や悪化に関わっているケースもあるのです。

根尖性歯周炎はムシ歯による病気ですが、それとは別に、通常の歯周病も、間接的にIgA腎症に関係する場合があります。歯周病を放置すると、その原因菌が扁桃に付着して、扁桃炎を招くことがあるからです。

IgA腎症の予防や治療のためには、歯周病にも気を付け、必要に応じて歯科で治療を受けましょう。

耳の下を押してみて痛かったら要注意

さて、この他にも、IgA腎症の原因になる炎症があります。それは「慢性上咽頭炎」です。これは、のどの上の方にある「上咽頭」に起こる慢性炎症です。

上咽頭は、鼻から吸い込んだ空気が最初に通る関門で、扁桃と同じく、細菌などの病原体から体を守る役割を果たしています。

慢性上咽頭炎の治療法としては、EAT(上咽頭擦過療法)という方法があります。

これは、医師が医療用の綿棒で上咽頭をこする治療法です。綿棒に、塩化亜鉛という薬を含ませておき、こすって出血させるとともに薬で焼くことで、上咽頭の炎症を治療します。

個人差はありますが、しっかり広範囲に上咽頭をこするEATを、一般には10回ほど受けることで、慢性上咽頭炎を治療できます。

なお、先にも述べましたが、適切な時期に扁摘パルス療法を行っても、約2割は血尿の消失に持ち込めないIgA腎症の患者さんがいます。しかし、そうしたケースにEATを行うと、私の経験では、ほとんどの症例が血尿の消失に至ります。

慢性上咽頭炎は、現代人の非常に多数にみられるもので、IgA腎症に限らず、アレルギーに関係する多くの病気や全身倦怠感、慢性頭痛、ぜんそく、慢性的な鼻水・鼻づまり、後鼻漏(鼻水がのどに流れてくる症状)など、多くの治りにくい病気に関係しています。

慢性上咽頭炎が疑われる状態かどうか、自分で調べる簡単な方法があります。

耳の下にある首の筋肉(胸鎖乳突筋)を、人さし指・中指・薬指の3本でやや強く押してみて、痛みを感じるときは、慢性上咽頭炎が疑われます(確定診断は、EATを行う医師によって受けてください)。

慢性上咽頭炎が疑われる人は、腎臓だけでなく、全身の健康維持のためにも、できるだけEATを受けるとよいでしょう。EATは、現在、全国の約200ヵ所の医療機関で受けられます。

画像: 人さし指、中指、薬指で耳の下をやや強く押してみる。どちらか一方でも痛みを感じるときは、慢性上咽頭炎の疑いがある。

人さし指、中指、薬指で耳の下をやや強く押してみる。どちらか一方でも痛みを感じるときは、慢性上咽頭炎の疑いがある。

腎臓病だけでなく感染症予防にも期待

とはいえ、すぐにはEATを受けられない場合も多いでしょう。そんなとき、自分でできる次善の策として役立つのが「鼻うがい」です。

鼻うがいは、簡単に言うと「水と食塩を混ぜたごく少量の塩水を鼻の穴から入れ、反対の鼻の穴か口から出す」という方法です(やり方は下記参照)。

大変手軽ですが、上咽頭を洗って、炎症を軽減させるのに役立ちます。それを通じて、IgA腎症の予防や進行の抑制に役立つことも期待できます。

また、ウイルスや細菌などは、上咽頭に多く付着するので、鼻うがいは、新型コロナウイルスなどの感染症の予防効果も期待できます。

鼻うがいのやり方

▶︎用意するもの
・スポイト
・精製水もしくはミネラルウォーター…500ml
・食塩…5g(小さじ1)
・500mlが入る清潔な容器

▶︎やり方
❶用意した水と食塩を清潔な容器に入れてかき混ぜ、生理食塩水を作る。それをスポイトに2ml程度入れる。
❷やや顔を上に向けて、頭を後ろに傾ける。

画像: 【腎臓病のセルフケア】のどの炎症がIgA腎症を引き起こすことも  感染症対策にもなる「鼻うがい」がおすすめ

❸スポイトの先を、片方の鼻の穴に1cmほど入れる。そのままゆっくり生理食塩水を流す。流れた水は、反対の鼻の穴もしくは口から出す。飲み込んでも構わない。左右両方の鼻の穴で行う。
※1日に数回行う。
※①で作った生理食塩水は、食品用のラップをすると、冷蔵庫で1週間保存できる。

なお、IgA腎症の7割は、健康診断で見つかります。健康診断で「血尿が出ている(顕微鏡でわかるレベルの血尿)」と言われたら、放置しないで、腎臓内科や泌尿器科で検査を受けてください。

ただし、現在の腎臓病のガイドラインでは、尿にたんぱくが0.5g以上出ないと、腎生検(腎臓の組織を採取して調べる検査)は行わないことになっています。

腎生検をしないと、IgA腎症の確定診断はできません。そのため、医療的には「たんぱく尿がある程度出るまで待つ」ということになるのですが、その間、何もしないで待っているだけではなく、必要な歯科治療を受けたり、鼻うがいをしたり、EATを受けたりするとよいでしょう。

たんぱく尿が出始めたら、できるだけ早期に腎生検をしてくれる腎臓専門医にかかりましょう。たんぱく尿が多くなる前に、扁摘パルス療法に詳しい医師にかかり、治療法を検討することをお勧めします。

扁摘パルス療法については「IgA腎症根治治療ネットワーク」、EATについては「日本病巣疾患研究会」のサイトで、受けられる施設も含めて紹介していますので、ご参照ください。

画像: この記事は『安心』2021年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年5月号に掲載されています。

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