解説者のプロフィール

大山恵子(おおやま・けいこ)
医療法人社団つばさ・つばさクリニック院長。帝京大学医学部卒業。帝京大学医学部附属病院第二内科、同愛記念病院内科、田島病院を経て両国クリニック勤務。1998年より両国駅前クリニック院長、2001年両国東口クリニック開設、2009年つばさクリニック開設、同院長。2012年より、スポーツトレーナーの指導による透析患者への運動療法を開始。透析専門医、日本腎臓リハビリテーション学会代議員、腎臓リハビリテーション指導士、透析運動療法研究会世話人。監修書に『腎機能を運動で守る』(扶桑社)がある。
▼つばさクリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
塩分は腎臓に負担をかける
[別記事:腎臓病は早期発見が最重要!自分でできるチェック法で異変を素早く見つけよう→]
腎臓病の人にとって、食事療法は大切な治療であり、腎臓を守る手段です。腎臓病と診断されたら、すぐに食事の見直しをしましょう。
「まだ症状がないから」と油断していると、知らず知らずのうちに進行するので、早期から食事療法を始めることが、とても重要です。
減塩は必須!
腎臓を守るために、最も重要なのは「減塩」です。塩分をとり過ぎると、体内の塩分濃度が高まり、それを排泄するために腎臓に大きな負担がかかるからです。
また、塩分の過剰摂取が続くと、高血圧を招きやすくなります。高血圧は腎臓病を発症・悪化させる要因なので、それを防ぐ意味でも減塩が大事です。
減塩は、腎臓病のどのステージでも、同じように心がける必要があります。具体的な数値として、腎臓病の人は、塩分摂取量を1日6g未満にすることが勧められています。
ちなみに現在、日本人の1日の食塩摂取量は、平均で男性10.9g、女性9.3gです。平均的な食生活なら、現状の3分の2以下にしなければなりません。急に6g未満にするのは難しいでしょうから、段階的に減らしていきましょう。
以下のようなことを心がけると、食事をおいしくとりながら減塩するのに役立ちます。
①コショウやワサビなどの香辛料を活用する。
②酢やレモンなどの酸味を使う。
③ショウガやシソ、ネギなどの香味野菜を活用する。
④濃いめのだしを使う。
⑤新鮮な旬の食材を使う。
⑥適温で食べる。
⑦塩、しょうゆ、みそなどの調味料は量って使う。
⑧塩分はできるだけ料理の仕上げに使う。
⑨塩分の薄い料理、比較的濃い料理を作り、メリハリをつける。
⑩低塩調味料を利用する。
⑪麺類の汁は残す。煮物の煮汁もよく切って残す。
⑫麺やパンは1日1回まで。
→1日の塩分摂取量[6g未満]を目標に
タラコなどの塩蔵品、干物、漬物など、塩分の濃い食品を避けるのは言うまでもありませんが、ちくわやさつま揚げなどの練り物類、ハム・ウインナーなど肉類の加工食品、麺類やパンにも意外と多くの塩分が含まれるので気を付けましょう。
こうした食品、また市販の惣菜や弁当などについては、どのくらいの塩分が含まれるのか、普段から表示をよく見ることが大切です。それを習慣付けて、食品に含まれるおおよその塩分を把握することが、減塩のための大事な1歩になります。
加工食品やインスタント食品はなるべく避ける
減塩のほか、腎臓病の食事療法では、以下も大切です。これらについての具体的な目標や、やり方は、腎臓病のステージなどによって違ってきますので、主治医や管理栄養士の指導に従いましょう。
ここでは、その制限が大切な理由や全ステージに共通のポイントを述べておきましょう。
●たんぱく質の摂取制限
たんぱく質は、体のエネルギーや材料になる重要な栄養素ですが、体内で使われると、尿素窒素という老廃物が残ります。
尿素窒素は腎臓でろ過されますが、腎機能が低下していると血中に増え、尿毒症という危険な状態を招くもとになります。そのため、腎臓病の人は、ステージに応じたたんぱく質の摂取制限が必要になります。
●カリウムの摂取制限
カリウムは体に欠かせないミネラルです。しかし、腎機能が低下した人が多くのカリウムをとると、不整脈を招く「高カリウム血症」を起こす危険性が高まります。そのため、慢性腎臓病のステージG3b以上では、カリウム制限が必要になります。
カリウムは、野菜、果物、イモ、豆などに多く含まれます。食べる量を減らすほか、水にさらしたり、ゆでこぼしたりするとカリウムが減るので、調理法を工夫しましょう。
●リンの摂取制限
腎機能が低下すると、ミネラルの一種であるリンも排泄されにくくなり、骨粗鬆症などをもたらす「高リン血症」を起こす危険性が高まります。リンの多い肉、魚、卵などを過剰にとらないようにしましょう。
加工食品やインスタント食品には、食品添加物としてリンが入っていることが多いので、それらを避けることも大事です。
●水分の摂取制限
慢性腎臓病のステージG4以上で尿量が減っている場合は、水分の摂取制限が必要です。尿が少ない状態で水分をとり過ぎると、むくみが生じ、重度になると命にも関わるからです。毎日体重を量り、増加分の許容範囲内で水分を摂取します(ただし、脱水は腎機能障害を悪化させます)。
このほか、エネルギー摂取量を適切に保つことも大切です。
以上のような食事療法と、前記事で紹介した運動療法を併用することで、さらに効果が高まります。ぜひ両方を行って、慢性腎臓病の進行阻止や改善を目指してください。
[別記事:おうちで自分でできる!腎臓病の運動療法→]

この記事は『安心』2021年5月号に掲載されています。
www.makino-g.jp