慢性腎臓病とは、単独の病気ではなく、慢性的に腎機能が落ちる状態を指す言葉です。自覚症状が出て気づいたときには、「すでにある程度進んでいた」というケースが少なくありません。健康診断の項目のうち、腎臓病を早期発見するために重要なのが「尿検査」です。【解説】大山恵子(医療法人社団つばさ・つばさクリニック院長)

解説者のプロフィール

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大山恵子(おおやま・けいこ)

医療法人社団つばさ・つばさクリニック院長。帝京大学医学部卒業。帝京大学医学部附属病院第二内科、同愛記念病院内科、田島病院を経て両国クリニック勤務。1998年より両国駅前クリニック院長、2001年両国東口クリニック開設、2009年つばさクリニック開設、同院長。2012年より、スポーツトレーナーの指導による透析患者への運動療法を開始。透析専門医、日本腎臓リハビリテーション学会代議員、腎臓リハビリテーション指導士、透析運動療法研究会世話人。監修書に『腎機能を運動で守る』(扶桑社)がある。
▼つばさクリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

「慢性腎臓病」は新たな国民病

近年、「慢性腎臓病」が増加の一途をたどっています。

慢性腎臓病とは、単独の病気ではなく、慢性的に腎機能が落ちる状態を指す言葉です。英名の頭文字を取って「CKD」とも呼びます。

日本での患者数は、2012年の段階で1330万人に上ります。これは成人の8人に1人に当たり、糖尿病などと並ぶ「新たな国民病」と言われているほどです。日本だけでなく、世界的に慢性腎臓病は増加する傾向にあります。

慢性腎臓病を招く代表的な病気には、次の四つがあります。

【糖尿病性腎症】
▶︎糖尿病の合併症の一つ。日本ではこれが原因の慢性腎臓病患者が最も多い。
【慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)】
▶︎血液をろ過する腎臓の糸球体に慢性炎症が発生して起こる。
【高血圧性腎硬化症】
▶高血圧によって腎臓の血管に圧力がかかると、腎臓の血流が悪くなる。その結果、腎臓が小さくなって起こる。
【多発性嚢胞腎】
▶腎臓に嚢胞ができ、正常な腎臓の組織を圧迫することで起こる。遺伝性の病気。

これらによって、腎臓障害や腎機能の低下が3ヵ月以上続いている場合に、「慢性腎臓病」といわれるようになります。

腎臓は、体の水分や血圧の調整、血液中の老廃物の除去、血液のpH(酸・アルカリ度)の調整、骨を強くするビタミンDの活性化など、多くの重要な役割を果たしています。

慢性腎臓病になると、これらの働きが全て低下し、進行すると命にも関わります。そうなると、生命を維持するために、人工透析や腎移植が必要になります。

慢性腎臓病が進むにつれて、心筋梗塞(心臓の血管が詰まって起こる病気)や脳卒中など、重大な病気を起こしやすくなることも知られています。

このような事態を避けるには、できるだけ早く発見して、進行を抑える対策を講じることが大切です。

ところが、「できるだけ早く見つける」ことが、実は、慢性腎臓病ではなかなか難しいのです。腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるほど、自覚症状が出にくい臓器だからです。自覚症状が出て気づいたときには、「すでにある程度進んでいた」というケースが少なくありません。

そこで、ぜひ健康診断をきちんと受けてください。

健康診断の項目のうち、腎臓病を早期発見するために重要なのが「尿検査」です。腎機能が低下してくると、尿にたんぱく質が含まれる「たんぱく尿」、微量の血液が含まれる「血尿」などが出ます。これらが腎臓病発見のきっかけになることが、非常に多いのです。

また、血液検査でわかる「クレアチニン値」という数値も大切です。腎機能が低下してくると、筋肉の活動に伴って生じる老廃物の一種であるクレアチニンが血中に増えます。その濃度を数値化したのがクレアチニン値です。

クレアチニン値と年齢や性別などの条件から割り出す「eGFR」という数値は、慢性腎臓病の重症度(ステージ)を把握するための重要な指標です。

eGFRが60ml/分/1.73㎡未満が3ヵ月以上続いた場合、もしくは尿検査(特にたんぱく尿)の所見のいずれか、または両方が3ヵ月以上続いた場合、慢性腎臓病と診断されます。

一般的に、eGFRがおおむね45未満(ステージG3b)になると、末期腎不全や心臓病などのリスクが急速に高まります。そのため、進行を食い止めるには、この段階までに対策を取り始めることが大切とされています。

ただし、クレアチニン値は、健康診断の検査項目に必ずあるとは限りません。腎機能の低下がある程度進んでから動くものなので、医師が必要と判断した場合に追加されることもあります。

たんぱく尿と血尿は、健康診断では必ず調べるので、まずはその結果に注目してみてください。

早期の対策が大切!セルフチェックを

腎機能の低下は、健康診断で見つけるのが理想ですが、現実には、健康診断を受けていない方や、結果をよくチェックしていない方もいるでしょう。また、自覚症状が出始めてからでも、できるだけ早く見つける方がよいのは言うまでもありません。

ですから、腎臓病の初期症状を知っておき、チェックすることにも大きな意味があります。下のリストのような症状に思い当たることはないか、ぜひチェックしてみてください。

これらは、腎機能の低下に伴ってみられやすい症状です。特に、⑥〜⑪に当てはまる場合は、①〜⑤が出るケースより、さらに腎機能の低下が進んでいるおそれがあります。いずれにしても、一つでも当てはまる症状があれば、腎機能の低下を疑って検査を受けましょう。

腎機能低下チェックリスト
□ ①排尿すると、毎回、尿が泡立ち、その泡がなかなか消えない。
□ ②尿の色が茶色っぽい。あるいはコーラや赤ワインのような色。
□ ③特に水分を多くとったわけではないのに、ひんぱんに排尿する。(1日10回以上)
□ ④夜間頻尿があり、寝ているときに何度も目覚めてトイレに行く。
□ ⑤水分をとっているのに、極端に尿の量が少ない。(1日400ml以下)
□ ❻指輪や靴がきつくなった感じがする。
□ ❼起床時にまぶたや顔がむくむことが、毎朝、続いている。
□ ❽いつも疲れやすく、だるい。
□ ❾少し運動や歩行をしただけで息切れするようになった。
□ ❿貧血があり、立ちくらみが多い。
□ ⓫汗をほとんどかかない。あるいはかきにくくなった。

※1つでも当てはまる場合は、腎機能の低下を疑い、医療機関で検査を受けましょう。何よりも、「早期発見・早期治療」が重要です![『腎機能を運動で守る』(大山恵子監修・扶桑社)より引用改変]

かつて腎臓病は、「いったん発症すると、悪化する一方」だと考えられていました。

しかし今では、早期であれば、治療や生活管理によって、進行を遅らせたり、改善したりできることがわかっています。適切に対策を始めるためにも、まずは早期発見や病状の把握が大切です。

慢性腎臓病の進行抑制や改善に役立つ生活管理は、食事療法と運動療法が柱になります。以前は、腎臓病には運動は禁忌とされていましたが、近年、適切に運動することが、腎機能の維持や向上に役立つことがわかってきました。

次回は、このことについて詳しくお話ししましょう。

画像: この記事は『安心』2021年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年5月号に掲載されています。

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