実はフレイルは、喫煙や脳卒中、認知症、糖尿病といった要素以上にリスクの高い、健康寿命を脅かす最大の要因だということが、私たちが行った調査で判明しました。65歳以上なら「何よりもフレイル予防が最優先」として、考え方を大きく変化させる必要があります。【解説】北村明彦(八尾市健康まちづくり科学センターセンター長)

Q. 毎日ウォーキングをしていれば運動は十分ですか?

A. 重要なのは有酸素運動より筋トレ。工夫すればウォーキングも筋トレにできます。

多くの人が日常的に取り入れている運動は「ウォーキング」でしょう。ウォーキングは代表的な有酸素運動で、持久力をつけたり、消費エネルギーを増やしたりするには効果的です。

しかし、加齢とともに起こる筋力低下の対策は、ウォーキングだけでは不十分です。

筋肉には、持久力をもたらす「遅筋」と、瞬発力をもたらす「速筋」があり、年齢とともに減少するのは主に速筋です。

速筋は、通常のウォーキングなどの有酸素運動ではほとんど増えず、増やすには筋トレが必要です。

筋トレといっても、トレーニングマシンやダンベルを使わなければならないような強度のものは必要なく、それほどきつくない筋トレを、習慣づけて行うだけで効果があります。

「片足ずつひざから下を上げ下げする」「スクワット運動(腰の上げ下げ)をする」「壁に向かって腕立て伏せをする」などは、無理なくできて、徐々に筋力をアップできるのでお勧めです(やり方は下項)。

私自身は、ゴムバンドで負荷をかけながら行うチューブトレーニングを行っています。自分の筋力に合わせて負荷がかけられるので、筋肉や関節を痛めにくく、お勧めです。

画像: Q. 毎日ウォーキングをしていれば運動は十分ですか?

ウォーキングをしている人は、やり方をちょっと工夫すると、筋トレ効果を加えることができます。

歩幅を広めにし、ゆっくりしたペースで、意識的に足に力を入れて歩くと、自然に下半身の筋肉が鍛えられるのです。

また、階段を1段ずつ、しっかり踏み込んで上がるだけでも、太ももをはじめとした下半身の筋肉が鍛えられます。

筋トレは、できるだけ日中の時間帯に行うことをお勧めします。心身ともに活動的になる時間帯なので、安全で効果が出やすいからです。頻度としては、最低週1回行えば、現在の筋肉量を維持しやすくなります。

できれば週に2〜3回行うと、徐々に筋肉がついて体力が向上するのが感じられ、やりがいにもつながるでしょう。

有酸素運動から筋トレに!
大股ウォーキング

画像1: 【フレイルとは】健康長寿を脅かす最大要因  予防のカギ「筋力・栄養・社会性」を保つセルフケアを専門医が解説

 
通常の歩幅のウォーキングだと有酸素運動になり、脂肪燃焼効果はあるが筋力はつきにくい。

画像2: 【フレイルとは】健康長寿を脅かす最大要因  予防のカギ「筋力・栄養・社会性」を保つセルフケアを専門医が解説

 
いつもより5~10㎝歩幅を広げて歩くだけで、下半身の筋トレにつながる。横断歩道の白線をまたぎ越せる歩幅が目標!

チューブトレーニング

高齢者の筋トレでは、ダンベルよりもラバー(ゴム)チューブを用いるのがお勧め。自分の体力に合わせた負荷がかけられるので、筋肉や関節を痛めにくい。

※フィットネス用のラバーチューブは、フィットネスバンド、トレーニングチューブなどの名称で、フィットネス用品店の他、100円均一ショップなどでも販売されている。

画像: チューブトレーニング

壁ストレッチ

壁から少し離れて立ち、両手を壁につけて左足を引く。
壁を押しながら左足のかかとを床につけ、右ひざをゆっくり曲げていき、左足のひざ裏からかかとまでをよく伸ばす(10秒)。
左右の足で交互に1~2回行う。

画像1: 壁ストレッチ
画像2: 壁ストレッチ

壁筋トレ

壁からやや離れ、足を肩幅程度に開いて立つ。両手を肩幅程度に広げて壁につく。
壁で支えるようにゆっくりとひじを曲げていき、壁に近づいたら壁を押して①の姿勢に戻る。
5~10回行う。

画像1: 壁筋トレ
画像2: 壁筋トレ

いすストレッチ

安定したいすに浅めに座り、左足を伸ばしてかかとをつける。

画像1: いすストレッチ

左ひざに両手を当てて押しながら、太ももとひざの裏を伸ばす(10秒)。できるだけ背すじは伸ばしたまま行う。
左右の足で交互に1~2回行う。

画像2: いすストレッチ

いす筋トレ

安定したいすに浅めに座る。ひざは90度に曲げる。

画像1: いす筋トレ

右足をゆっくりと水平まで上げたら、つま先をできるだけ手前にひきつけて5秒キープし、①に戻る。
左右の足で交互に5~10回行う。

画像2: いす筋トレ
画像3: いす筋トレ

いすスクワット

安定したいすの前に、足を肩幅に開いて立つ。腕はまっすぐ前に出す。
5秒かけてゆっくりと腰を下ろしていき、座面にお尻が着く直前で3秒キープし、5秒かけて①の姿勢に戻る。
5~10回行う。②のキープ時間を徐々に伸ばしていくとよい。

画像1: いすスクワット
画像2: いすスクワット

Q. 自分の筋力の衰えを簡単にチェックするには?

A. ペットボトルで握力や筋力をチェック。歩幅にも注目を。

運動しない高齢者は、1年で体重の約1%ずつ筋肉量が落ちていくと言われます。

手軽に筋力をチェックする方法に「握力測定」があります。さまざまな研究で、握力が強いほど全身の筋力も強い傾向があることがわかっています。

また、厚生労働省の研究班により、握力の低下が死亡リスクと関連することも報告されています。日本を含む世界14地域の住民を対象とした研究をまとめたところ、握力が1kg強いと、死亡リスクが2〜3%低くなるという結果が出ているのです。

これらは、握力さえ強ければリスクが下がるという意味ではなく、握力が全身の筋力、ひいてはフレイルの指標になることを示しています。

もし家に握力計があれば、定期的に握力を測り、筋力の指標にするとよいでしょう。しかし、握力計がある家は少ないでしょうから、「ペットボトル」を利用した握力・筋力のチェック法をご紹介します。

女性向きの方法としては、「新品のペットボトルのふたを手で開けられるか」をチェックします。ペットボトルのふたを開けるのに必要な握力は、約15kgとされています。

加齢に伴う筋肉量と筋力の低下を「サルコペニア」といい、フレイルに直結します。

女性の場合、その目安となる握力は18kg未満。つまり、ペットボトルのふたが自力で開けられなくなったら、フレイルの赤信号です。

男性の場合、サルコペニアの目安となる握力は28kg未満とされています。握力そのものではないのですが、男性の場合は、片手で2Lのペットボトル2本(水など中身が入っている状態。買い物袋などに入れて持ってよい)が持てる筋力があれば、これがクリアできると考えられます。

ちなみに、女性は片手で2Lのペットボトル1本を持てる筋力を保つのが目安です。

画像: 女性はペットボトルのふたが開けられるか、2Lのペットボトルを片手で持てるかをチェック。

女性はペットボトルのふたが開けられるか、2Lのペットボトルを片手で持てるかをチェック。

この他、普段、無意識に歩いているときの「歩幅」に注目するのもよいチェック法です。

足腰はもちろん、上半身の筋力が衰えると、バランスをとるために自然に歩幅が狭くなってくるからです。

さらに脳の機能の衰えも、歩幅に現れやすく、歩幅が狭い高齢者は、歩幅が広い人に比べて、約3.4倍、認知機能の低下が見られやすいという調査結果があります。また、歩幅が狭い人は、死亡リスクも高いと報告されています。

Q. 筋肉はがんばって筋トレしていれば増えますか?

A. 適切な食事を組み合わせないと逆効果になることも。

筋トレの効果を挙げるには、忘れてはならない重要なことがあります。それは、同時に筋肉づくりに必要な栄養素をとることです。これを忘れていると、逆効果になりかねないので要注意です。

筋肉の材料になるのは、たんぱく質です。また、たんぱく質から筋肉ができるには、ビタミン・ミネラルも必要です。

私たちの研究チームでは、次のような調査研究をしました。

65〜80歳の男女80名を2群に分け、同じように3ヵ月間、筋トレを続けてもらいながら、一方の群では普段通りの食事だけを、他方の群では普段の食事に加えて、乳たんぱく強化ミルクとビタミン・ミネラル入りサプリメントドリンクを飲んでもらったのです。

すると、栄養を意識的に追加して筋トレした人の筋肉量は平均170g増加しました。一方、普段通りの食事のまま筋トレした人たちの筋肉量は、平均460gも減ってしまう結果になりました。

筋トレをすると、筋肉は一部が分解され、それが再構築される際に前より大きくなることで増量していきます。そのとき、材料や合成に必要な栄養素が足りないと、分解だけが進んで、かえって筋肉が減ってしまうのです。

実験ではサプリメントを用いましたが、特別な食品やサプリメントをとる必要はありません。

筋トレをする時間帯に、必要な栄養素が体内にあるように、朝や昼に適度なたんぱく質やビタミン・ミネラルを含む食事をとりましょう。

65歳以上では、何もしなければ3ヵ月で約150gずつ筋肉が落ちていきます。細く長く、長期的に筋肉量と筋力を維持することを目標に、栄養補給と筋トレを行ってください。

Q. 気力がわかず、運動する気がなかなか起こりません。

A. 3時間以上座って動かない状態は危険。こまめに立って動くことから始めてください。

運動がうつ状態の予防や改善に役立つという研究結果は、多く見られます。

たとえば、通常、1日3時間くらい座ってテレビを見ている人が、そのうちの30分を立ち仕事や軽い運動などの身体活動に置き換えただけで、高齢者の抑うつが減少したという研究結果があります。

また、65歳以上の人を対象とした調査研究で、週2回以上の運動習慣を持つ人は、運動していない人に比べて、2年後の抑うつの発生率が約48%低かったという報告があります。さらに、週2回の運動を誰かと一緒に行う人では、その発生率が60%低くなっていました。

うつの対策としても、ぜひ運動を取り入れてみてください。できれば誰かと一緒に行えば、さらに効果が高まります。

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