解説者のプロフィール

田中旨夫(たなか・よしお)
1918年、台湾生まれ。1943年昭和医学専門学校(現・昭和大学)卒業。沖縄県内の医療機関で勤務後、あかみちクリニック院長に就任。42年間、医師として診療を行う。現在は台湾の産婦人科医院、正生婦幼聯合診所に勤務。内科医として週5日働いている。近著に『101歳現役医師の死なない生活』(幻冬舎)がある。
四度の大病を乗り越え今も現役医師として活躍
皆さん、こんにちは。台湾で現役医師として活動している、田中旨夫です。私は今年(2021年)の3月に103歳になりましたが、今でも元気に患者さんの診療を行っています。
このように聞くと、「元々体が丈夫だったのだろう」と思う人もいらっしゃるかもしれません。しかし、私は過去に、肺結核、脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)、SARS、末期がんという、四度の大病を患ってきました。
最も命の危機を感じたのは、末期がんが見つかった89歳の頃。発覚したきっかけは胆管の詰まりでしたが、実は、もともと肝臓にできていたがんが、胆管にも転移していたのでした。
ステージ4で、ほぼ末期の状態だと聞いたときは、「もしかしたら、今回こそだめかもしれない」と、気落ちしたことを覚えています。
しかし、腕のいい先生を紹介していただいたおかげで、無事手術に成功。抗がん剤も使わずに、21日間で退院することができました。
退院後は毎日歩き筋力低下の危機から脱出
なんとか末期がんから復活した私ですが、闘いはこれで終わりませんでした。89歳という年齢もあり、筋力が著しく低下していたのです。
73kgあった体重は50kgにまで落ち、まさに骨と皮だけの状態。歩いているときは、両足に100kgの重りを付けられているような感覚でした。
そうは言っても、本来、退院後はしばらく静養する必要があります。しかし、私の頭の中には「寝たきりになってはいけない」という思いがありました。
そこで、退院して5日後に、職場に復帰。車いすをつえ代わりに押して、病棟と医局を行ったり来たりしました。
また、仕事後には毎日、職場近くにある沖縄県宜野湾市のトロピカルビーチで、水と砂浜の間などを1km近く歩きました。
こういったリハビリのかいもあり、4ヵ月後には、入院前と同じように歩けるようになったのです。このときがんばって歩いたことが、今の健康にもつながっているのだと思います。

97歳の田中先生。軽い運動や散歩は今でも毎日行っている。
長生きの秘訣は「決意」と「楽しむ心」
そんな私ですが、おかげさまで100歳を超えた今でも、元気に患者さんの診療を行っています。その秘訣はずばり、生活習慣と、普段の心持ちにあると考えています。
ここでは、皆さんにお勧めしたい長生きの考え方を、三つ伝授します(生活習慣については次項を参照)。
①毎日「今日からあと10年はがんばろう」と決意する
私は毎朝起きてすぐに、「あと10年は人のために尽くそう」と決意を固めています。
実はこの目標は、10年前も、20年前も持っていました。どこか節目の日を作るのではなく、毎日「あと10年」と考えることで、気持ちを更新し続けているのです。
「あと1年」ではだめなのか?と聞かれたこともありますが、私にとってはやはり10年という設定が大切。1年と10年とではやる気が違ってきます。
いくつになっても目標を持ち、日々モチベーションを高めることが、人生を充実させていく秘訣なのです。
②おしゃべり仲間を持つ
私は週に2日ほど、診療後にロータリークラブへ参加しています。ここで友達と話をする時間が、私にとっての至福のひとときです。
人とのおしゃべりは、新たな知識や考え方を知ることができる貴重な機会。未知のことに挑戦するきっかけにもなります。
また、人と話していれば、自然と笑顔になる回数も増えます。笑いは、NK細胞という免疫細胞を活性化させ、体の抵抗力も高めるので、心身の健康にも非常に役立つことがわかっています。
③楽しくないことは家に持ち帰らない
生きていれば、嫌なことの一つや二つは避けられないもの。私自身も、楽観的なタイプではありますが、ストレスを感じることがあります。
そんなときは、家に帰るまでにスパッと忘れて、気持ちを切り替えるようにしています。楽しいことを考えて、ストレスを頭から追い出すのです。
嫌なことを延々と考えていても、何もいいことはありません。その上、限りある人生の中で、そんなことに時間を費やすのはもったいないですし、頭を休ませる時間もなくなってしまいます。
体の健康と心の健康は、密接につながっています。皆さんも、日々を楽しく過ごして、元気に長生きしましょう!
運動はやり過ぎない方が健康にいい
次に、私が実践している生活習慣の中から、お勧めのものをいくつか紹介します。
①規則正しい生活をする
私の毎日の過ごし方は、何年もの間変わっていません。起床時間は毎朝6時で、22時30分には就寝。食事も毎日3食、ほとんど決まった時間にとっています。
このように規則正しい生活を行うことで、体調も安定してきます。リズムのいい生活こそ、健康長寿の鍵なのです。
②毎日30分散歩する
散歩は、毎日の習慣の一つ。ゆるやかな坂道などを通りながら、往復で30分近く、ゆっくりと歩きます。
仕事後の散歩は、疲れを癒やしてくれますし、体もシャキッと元気になります。さらに、足腰も強化されるので、転倒や骨折の予防にもなります。
③太陽の光を1日15分浴びる
適度に太陽の光を浴びることは、体内時計の調整や、カルシウムの吸収に必要なビタミンDの体内形成にも役立ちます。
最近は特に、コロナ禍での外出自粛で家にこもる人が増えています。1日15分でいいので、日光を浴びる習慣をつけるといいでしょう。
④運動は軽めに行う
適度な運動は、高血圧や肥満、糖尿病などの予防・改善につながります。
しかし、過度な運動は、ケガの原因になりますし、体内の活性酸素(体内で増え過ぎると細胞を傷つけ老化の一因となる物質)の増加にもつながります。
適度な運動は大切ですが、無理は禁物。また、運動後はゆっくりお風呂に入るなどして、体を休めることも重要です。
⑤昼寝をする
私は若い頃から、毎日昼寝をしています。昼食後にベッドに入り、40分近く眠るのです。
短時間の昼寝は、夜の睡眠の3倍ものリフレッシュ効果があるそう。実際昼寝の後は、頭がさえたように感じます。
なお、一般的な昼寝の目安は30分程度とされています。皆さんが昼寝を行う場合、15~30分を目安にするといいでしょう。
肉と野菜はしっかりとる
⑥毎日たくさんの野菜をとる
私の毎日の食事メニューは、野菜をかなり意識しています。
朝食には旬野菜のスムージーを飲みますし、夕食でも、キャベツやナス、ニンジンなど、5種類以上の野菜を煮たり炒めたりして食べています。
野菜をしっかりとるコツは、たくさんの種類を食べること。毎日15種類以上は食べることをお勧めします。
⑦肉をしっかり食べる
長生きしている人の食事を見ると、野菜の他に、肉や魚などを多く食べていることがわかります。私も例に漏れず、毎日チーズや肉、魚などを食べ、たんぱく質をとっています。
特に、肉のたんぱく質は、血管を強くしたり、免疫力(病気に対する抵抗力)を上げたりする効果があります。赤身だけでなく、ロースや鶏肉なども幅広く食べて、バランスのよい食事を心がけるといいでしょう。
⑧発酵食品をしっかりとる
私が毎日食べているものの一つに、ヨーグルトや発酵ニンニクなどの発酵食品があります。
発酵食品の最大の特長は、腸内環境をよくしてくれること。特に、50歳を過ぎてからは、腸内の善玉菌が急激に減るので、高齢者にはうれしい効果です。
また、健康長寿が多い地域には、たいていその土地の名産から作られた発酵食品を食べる習慣が根付いています。このことからも、発酵食品と長生きには深い関係があると言えます。
⑨糖質制限をしない
糖質制限は、近年人気の健康法です。しかし私は、40代以上の中高年者は、糖質制限をすべきでないと考えています。
体内に糖が不足すると、筋肉を分解してアミノ酸を糖に変える働きが起こります。その上、基礎代謝(安静時に消費するエネルギー)も落ちるので、筋肉が衰えて疲れやすくなります。
高齢者にとって、筋肉量の低下は命取り。フレイル(自立した生活を送るための心身機能が低下して、要介護状態の1歩手前まで来ている状態)や転倒などで、寝たきりになる危険性が高まるためです。
私も実際に、玄米や白米を毎日食べていますが、適度な糖質こそ、貴重なエネルギー源だと実感しています。
⑩緑茶を飲んでリラックスする
私は、仕事の合間や自宅でくつろぐときに緑茶を飲んでいます。緑茶には、活性酸素を取り除く渋味成分・カテキンが多く含まれており、老化防止にも効果的といわれています。
現代人は、偏った食生活やストレスで、この活性酸素がたまりがち。そうした環境にいるからこそ、緑茶でほっと一息ついて、活性酸素を取り除くことが重要です。
これらに共通して大事なのは、長く継続すること。1日だけやってみるのと、習慣として100日以上実践するのでは、大きな差があります。
できることからで構いませんので、ぜひ皆さんも実行してみてください。
田中先生流・健康長寿の秘訣10
1. 生活リズムを整えれば、体調も整う
2. 30分の散歩で足腰を強化!
3. 15分の日光浴でビタミンDを補給
4. 運動はやり過ぎ厳禁!無理のない範囲で行おう
5. 30分は昼寝をしてリフレッシュ
6. 野菜は毎日15種類以上食べると◎
7. 高齢者こそ、肉を食え!
8. 発酵食品で腸内環境をよくする
9. 筋肉の維持には適度な糖質も必要
10. 緑茶でリラックスして、老化のもとを撃退!

この記事は『安心』2021年5月号に掲載されています。
www.makino-g.jp