解説者のプロフィール

日笠久美(ひがさ・くみ)
1953年兵庫県生まれ。77年兵庫医科大学卒業。医学博士。兵庫医科大学第一内科助手ののち西武庫病院勤務、兵庫県立尼崎病院東洋医学科(非常勤)、西武庫病院内科部長を経て、2002年4月より河崎医院附属淡路東洋医学研究所所長。日本東洋医学会指導医、日本東洋医学会専門医、日本内科学会認定医。
▼河崎医院附属淡路東洋医学研究所(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
昔からの民間薬で日本三大薬草の一つ
私は、約30年前から「漢方内科」を専門に患者さんを診るようになりました。
西洋医学の医師としてキャリアをスタートした私でしたが、しだいに東洋医学に魅力を感じるようになりました。西洋医学による診療だけではどうしても不調が治らない、あるいは発症をくり返す患者さんが多くいたためです。
ちょうどそのころ、県立の東洋医学の研究機関を見学する機会がありました。
そこでは、東洋医学によるアプローチで、多くの患者さんが元気を取り戻していました。私が西洋医学の治療では治せないと感じていた不定愁訴の症状も、改善していたのです。
そこで私は、西洋医学の医師として働きながら、東洋医学を学び始めました。
そして、その後に開いた自分の診療所では、内科疾患だけでなく、さまざまな科の疾患の治療に漢方医療で当たるようになったのです。
さて、私の診療では、患者さんの体質や症状に応じて漢方薬を処方しています。その傍ら、私は患者さんに食養生の一つとして、いろいろな「健康茶」をお勧めしてきました。その目的は、体質の改善です。
一つの症状の発症には、その人自身の体質が大きく関与します。表に出ている症状が治療で改善しても、根本の体質が変わらなければ、再発することが多いのです。
今回取り上げる「副鼻腔炎」は、細菌感染による炎症なので、一般には抗生物質による治療がメインになります。
しかし、抗生物質によって急性炎症が抑えられても、体質によっては、頻繁に再発することがあります。
再発を防ぐには、体質の改善が重要で、健康茶はそのために有用なのです。
なかでも、副鼻腔炎の予防・改善に役立つ健康茶が、身近な野草であるドクダミを乾燥させてお茶にした「ドクダミ茶」です。
皆さんもご存じのとおり、ドクダミは、昔から民間薬として使われてきました。日本三大薬草の一つともいわれています。利尿作用があり、便通をよくするなど、多くの健康効果が期待できます。
では、なぜドクダミが副鼻腔炎にもよいのでしょうか。

副鼻腔炎をくり返す人にお勧めのドクダミ茶
抗菌・抗炎症作用に優れている
副鼻腔に炎症が起こると、その空洞に膿がたまります。そして黄色い鼻水が出たり、鼻がつまったりといった症状が起こります。
悪化すれば、鼻腔内の粘膜が厚くなり、副鼻腔から鼻腔へ通じる出入り口が狭まり、ついにはふさがってしまいます。こうなると、慢性炎症が続き、歯痛や顔面の痛みなども起こります。
漢方では、こうした状態を、「上焦湿熱(じょうしょうしつねつ)」という状態と考えます。
上焦というのは、顔面など横隔膜より上の部分を指します。そこに、余分な水分(湿)がたまり、過剰な熱が生じている状態です。
副鼻腔に炎症を起こしやすいかたは、その熱が強いといってもいいでしょう。私はこのような患者さんには、「清熱(体の熱を取る)」効果があり、解毒作用のある漢方薬を処方します。
これだけで治まらないときには抗生物質を出すこともありますが、いずれにしても、漢方を服用してからのほうが、抗生剤を飲む期間が短く、量も少なくて済むのです。
ドクダミには、漢方薬同様、体の熱を取る清熱作用があり、抗菌、抗炎症作用がとても優れています。
そして、このドクダミの作用を享受するには、水分補給を兼ねて、日ごろからお茶として飲むのがいちばんというわけです。
カフェインは入っていないので、たくさん飲んでも問題ありません。目安として、1日3杯くらい飲むことを習慣づければ、熱を持ちやすい体質が改善されるでしょう。
副鼻腔炎をくり返すタイプのかたは、簡単に取り入れられる予防・改善対策の一つとして、ぜひドクダミ茶を飲んでみてください。ドラッグストアや薬局で気軽に購入できます。
ちなみに、ドクダミ茶のほかに、タンポポの根を材料とした「タンポポ茶」にも、同様の働きがあります。
タンポポは、かなり強い清熱作用を有しています。タンポポは、漢方では、「蒲公英」という生薬として用いられており、清熱作用のほかにも、利尿作用などの健康効果があります。
ただし、タンポポ茶は、ドクダミ茶に比べて苦みが強く、少々飲みにくいかもしれません。麦茶などとブレンドすると、よりおいしくいただけるでしょう。

この記事は『壮快』2021年5月号に掲載されています。
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