解説者のプロフィール

今井一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長。1995年、山口大学医学部卒業。2006年に福岡市博多駅前にみらいクリニックを開院後、さまざまな方法を駆使しながら、薬を使わずに体を治す独自の治療を行う。日本病巣疾患研究会副会長。「あいうべ」による息育や「足指を伸ばす」ことによる足育の普及にも尽力する。著書に『自律神経を整えて病気を治す! 口の体操「あいうべ」』、『1日4分でやせる! ゆるHIIT』(いずれもマキノ出版)など多数。▼みらいクリニック(公式サイト)
異物を除去する鼻粘膜の機能維持に役立つ
副鼻腔炎の対策として、私が皆さんに強くお勧めしたいのが「鼻うがい」です。これは、一方の鼻の穴から食塩水を入れ、もう一方の鼻の穴から出して、鼻腔から上咽頭にかけて洗浄するものです。
鼻うがいという言葉を聞いたことこそあっても、「痛そう」「怖い」といったイメージが先行し、試したことがない人も多いのではないでしょうか。
その勘違いは、非常にもったいないと思います。確かに真水で鼻うがいを行えば、痛みを覚えるでしょう。しかし、生理食塩水を使えば、全く痛みを感じることなく、副鼻腔炎の対策ができます。さらには、新型コロナウイルスや花粉症をも撃退することが可能です。
では、なぜ鼻うがいが副鼻腔炎に対して、効果を発揮するのでしょうか。その理由として以下の三つが挙げられます。
一つめは、上咽頭を直接洗えることです。上咽頭は鼻の奥とのどがつながった部分を指し、慢性的な副鼻腔炎は上咽頭の炎症にも繋がります。
「EAT」と呼ばれる上咽頭の治療では、綿棒などを鼻や口から差し込み、患部に直接薬を塗布します。その点、鼻うがいは自分でお手軽に、上咽頭にアプローチできるのです。
鼻うがいによって、ウイルスや花粉、チリやハウスダストが洗い流されます。副鼻腔炎を引き起こす、そもそもの原因を撃退できるというわけです。
二つめは、線毛の機能が維持されることです。線毛とは、鼻粘膜や気管支の上皮に密集している細かい毛で、これが1秒間に10~15回くらい波打つことで、異物を排除します。
しかし、温度や湿度の低下、喫煙などで線毛の機能に異常が生じると、副鼻腔炎や気管支炎などが起こりやすくなります。鼻うがいは、鼻粘膜や気管支上皮に湿度を与えて、線毛の機能を維持することに役立つのです。
三つめは、次亜塩素酸の産生が促されることです。消毒薬として知られる次亜塩素酸は、実は私たちの体の中でも産生され、抗ウイルス作用を発揮しています。これまで次亜塩素酸を産生できるのは、白血球だけと考えられてきました。ところが、イギリスで行われた研究によると、粘膜の上皮細胞にも、次亜塩素酸を作る機能があることがわかったのです。
この次亜塩素酸による抗ウイルス作用は、塩素濃度を上げることで効果が高くなります。ですから、生理食塩水を使った鼻うがいは、粘膜上皮に塩素イオンを与え、次亜塩素酸の産生を促して抗ウイルス作用を高めることができるわけです。
詰まっている側の鼻の穴から行うのがお勧め
鼻うがいのやり方は簡単です。市販の鼻うがいキットを使っても、もちろんかまいません。
生理食塩水は、2日分くらいであれば、作りおきしても問題ないので、まとめて作ってしまうのがお勧めです。保存は常温でかまいません。
なお、温めることによって鼻への刺激が和らぎます。決して必須事項ではないので、鼻うがいに慣れてきたら、そのつど温める必要はありません。
鼻から出したほうが上咽頭をしっかり洗うことができますが、鼻から水を出すことが難しいと感じる人もいるかと思います。下を向いて、「あー」と声を出しながら行うとやりやすいので、少しずつ慣らしながら、行ってみてください。どうしても難しければ、口から出してしまってもかまいません。
鼻が詰まって、鼻うがいがしづらいという人は、詰まっている側の鼻の穴から行うのがお勧めです。上を向いた状態で、スポイトなどで鼻の入り口に洗浄液を垂らすという方法もあります。
鼻うがいを行う頻度は、1日1~2回程度でかまいません。起床時や外出先から帰ってきたときに行いましょう。コロナ禍においては、家庭内感染の予防にも役立ちます。
なお、急性中耳炎、滲出性中耳炎、声帯麻痺、誤嚥を起こしやすい人、副鼻腔炎の症状がひどいときや膿性鼻汁の多い人、鼻に腫瘍があったり鼻の通りが極端に悪かったりする人は、鼻うがいは行わないほうがよいでしょう。
鼻うがいのやり方
【用意するもの】
・洗浄液を入れる容器(先端が細くなっているドレッシング容器など)
※薬局などで、鼻洗浄用の器具を購入してもよい
・ぬるま湯…1L
・塩…9g
・重曹…0.5g
※1Lで約4回分。
【洗浄液の作り方】
ぬるま湯に塩と重曹を加え、よく混ぜて溶かす。
【やり方】
❶洗面台に顔を突き出し、あごを引いて、洗浄液を入れた容器を鼻の穴に当てる。
❷「あー」と声を出しながら、ボトルを押して水を出し、鼻腔内を洗う。このとき、口からではなく、もう片方の鼻から出すことを意識する。

※鼻から出すのが難しい場合は、口からでもOK。
※1日1~2回、起床時や外出からの帰宅時に行う。

この記事は『壮快』2021年5月号に掲載されています。
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