手の筋肉は、長い時間、同じ姿勢を続けて筋肉を酷使すると、緊張して縮こまり、元に戻りにくくなります。また、手を使う機会が多いと、肩の関節内で骨と骨が近づきやすくなり、手が短くなります。その結果、肩・首のコリ、腰痛などを引き起こすことになるのです。【解説】高林孝光(アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長・鍼灸師)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

高林孝光(たかばやし・たかみつ)

アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長。鍼灸師。柔道整復師。体の痛みや不調に効果的なセルフケア法を多数考案・提供し、患者さんやアスリートからの厚い支持・信頼がある。メディアへの出演も多い。著書に『腱鞘炎は自分で治せる』(マキノ出版)、『1日7秒手を伸ばしなさい』(ダイヤモンド社)など多数。
▼アスリートゴリラ鍼灸接骨院

現代人は手が短くなっている

新型コロナウイルスの影響もあって、スマホやパソコンを使う頻度が増え、肩・首のコリ、背中の痛み、腰痛などを訴える人が急増しています。そうした人たちはマッサージや整体で治療を受けても、なかなか改善しないケースが多いようです。

実はこうした体の不調の原因は、「手が縮んで短くなっている」ことにあるのです。その短くなった手を伸ばさないかぎり、不調は改善しません。

私は、治療家として過去24年間に、延べ10万人以上に施術をしてきました。そのなかで、患者さんの多くは本来より手が縮んでいることに気づきました。

人間は、進化の過程で二足歩行になりましたが、手は四足歩行の動物の前足に当たります。ですから、後ろ足(足や骨盤)だけでなく、前足である手(手や肩の骨)へのアプローチも大切です。

骨盤のゆがみ、左右の足の長さのズレからくる不調があるように、左右の手の長さのズレから起こる不調があると考えられるのです。

上半身のなかでも特に非力なのが手の筋肉です。長い時間、同じ姿勢を続けて筋肉を酷使すると、緊張して縮こまり、元に戻りにくくなります。また、手を使う機会が多いと、肩の関節内で骨と骨が近づきやすくなり、手が短くなります。

その結果、肩・首のコリ、腰痛などを引き起こすことになるのです。

では、どうすれば短くなった手を伸ばすことができるのか? いろいろと試したうえで、私が患者さんにお勧めしているのが「腕回し」という体操です。

腕回しは、伸ばした手を前に7回、後ろに7回、グルグルと勢いよく回すだけです。これを両腕とも行います(やり方は下項参照)。

この体操を行う前に、鏡の前で、両手を肩幅のまま、まっすぐ上げ、手の長さをチェックしてください。そのあと、片方の腕だけ回して再度チェックすると、回した側の手が伸びたのがわかります。なかには、1回で4~5cm伸びる人もいます。

あるいは、前屈の前後に腕回しを行うと、手が長くなり、さらに背中周りが柔軟になるので、より深く前屈できるはずです。

もう一つ、腕回しの前後に、ぜひ試してほしいのが「肩上げテスト」です。

壁に背中をつけて立ち、両手を下に伸ばし、手のひらを太ももの外側につけます。そして、両手を伸ばしたまま、壁に沿って上げていきます。これは、肩こりがひどく、肩周りの筋肉が縮こまっていると、なかなか上がりません。

しかし、腕回しを行うと、写真の二人のように、かなり手が上がるようになるので、ビックリするはずです。

腕回し前後の肩上げ(肩の柔軟度)テストの結果

画像1: 【グルグル腕回し】肩の柔軟性が向上してコリや痛みが軽減  腰痛や股関節痛の改善にも

デスクワーク主体で肩や背中のコリを訴える男女2人が、腕回しを行う前後に肩上げテストを実施。このテストは、壁に背中をつけて立ち、両手を伸ばしたまま、壁に沿って上げるもので、肩周囲の筋肉がかたいと上がりにくい。腕回し前は、2人とも肩の高さまでしか手が上がらなかったが、腕回し後はご覧のとおり。

腕回しを行うと、こうした「手が長くなる」「肩周りの筋肉が緩む」といった変化を体感できます。そのほか、「体が温まった」「肩・首のコリが消えた」「背中の張りが取れた」「腰やひざの痛みも軽減した」という声も少なくありません。

肩周りの筋肉を動かすと下半身まで刺激が伝わる

では、どうして腕を回すだけで、手が伸びたり、肩や腰が楽になったりするのでしょうか。それには筋肉の連動性が関係しています。

手を伸ばして腕を回すときに最も使うのは、表層の筋肉(アウターマッスル)である、僧帽筋と広背筋です。僧帽筋は首から背中にかけて、広背筋は肩から腰にかけて広範囲についています。

ちなみに、通常、マッサージや整体などでほぐすのは、これらの表層筋になり、深層の筋肉(インナーマッスル)まで刺激は届きません。

画像: 肩周りの筋肉を動かすと下半身まで刺激が伝わる

一方、腕回しを行うと、肩甲骨(背中の上部で左右対称になる逆三角形の平たい骨)の内側と腕の骨とについている、肩甲下筋などの深層筋まで動かすことができます。

さらに、体の筋肉は表層筋も深層筋も大部分が密接につながっていて、連動性があります。肩周りの筋肉を動かせば、その刺激は腰やひざといった下半身の筋肉にまで伝わります。そしてそれらの部位の緊張して縮んでいた筋肉が緩めば、血流がよくなって、痛みやコリなどの症状が軽快するのです。

腕回しは、できるだけ勢いよくグルグルと大きく回すのがポイントです。そうすることで、遠心力によって肩周りの筋肉がよく動き、連動したほかの筋肉への刺激も伝わりやすくなります。回数は何回でもかまいませんが、前に7回、後ろに7回も行えば十分です。手がしっかり伸びて、肩周りの可動域も広がります。

一度行っただけでは、手は翌日には元の長さに戻ってしまいますが、毎日行えば、手が伸びた状態を保つことができます。さらに、全身のバランスが整って、姿勢もよくなります。

ただし、五十肩などで手が上がらない人は、両手を前に7秒伸ばす体操から始めてください(下項参照)。しだいに、肩の動きがよくなり、手を上げられるようなります。それから、腕回しを行いましょう。

グルグル腕回しのやり方

1日1度は行う。(何度行ってもよい)

画像2: 【グルグル腕回し】肩の柔軟性が向上してコリや痛みが軽減  腰痛や股関節痛の改善にも

 
 
 
 
 
 
手の長さを確認
鏡の前で左右の足を腰幅に開き、まっすぐに立ち、両手を上げる。背すじを伸ばして手のひらを正面に向け、指先を伸ばし、左右の手の長さを確認する。
※③の終了後、④の終了後にも確認するとよい。

画像3: 【グルグル腕回し】肩の柔軟性が向上してコリや痛みが軽減  腰痛や股関節痛の改善にも

 
 
 
 
 
 
 
 
 
わきの下を押さえる
①の状態から右手を上げたまま、手のひらを内側へ向け、左手で右わきの下を押さえる。

画像4: 【グルグル腕回し】肩の柔軟性が向上してコリや痛みが軽減  腰痛や股関節痛の改善にも

 
 
 
 
前回し7回
手のひらを内側へ向けたまま、右手を前から後ろへ7回、大きくグルグルと勢いよく回す。
ポイント
大きく勢いよく回す。

画像5: 【グルグル腕回し】肩の柔軟性が向上してコリや痛みが軽減  腰痛や股関節痛の改善にも

 
 
 
 
 
 
 
後ろ回し7回
続いて同様に後ろから前へ7回回す。
※②~④を左腕も同様に行う。

五十肩などで腕を回しにくい場合

画像6: 【グルグル腕回し】肩の柔軟性が向上してコリや痛みが軽減  腰痛や股関節痛の改善にも

 
 
 
小さく「前ならえ」
左右の足を腰幅に開いてまっすぐに立ち、小さい「前ならえ」をする。両手のひらを内側に向け、わきを締め、指先と背すじを伸ばす。

画像7: 【グルグル腕回し】肩の柔軟性が向上してコリや痛みが軽減  腰痛や股関節痛の改善にも

 
 
 
手を前に伸ばす
①の状態から、両手を肩幅のまま、床と平行に伸ばす。

画像8: 【グルグル腕回し】肩の柔軟性が向上してコリや痛みが軽減  腰痛や股関節痛の改善にも

 
 
 
肩甲骨を開くようにしてさらに手を伸ばす
左右の肩甲骨を外側に開くことを意識しながら肩を前に出し、指先をさらに遠くへ伸ばす。この状態を7秒保つ。
※①~③を3回くり返す。

では、実際に腕回しで手が伸びて、体の不調が改善した例をご紹介しましょう。

Yさん(女性・60代)は長年、腰痛と股関節痛に悩まされ、いくつかの病院や治療院を渡り歩いていました。しばらく前に訪ねた治療院では、骨盤のゆがみや脚長差(左右の足の長さの違い)を指摘され、治療を受けていました。それでも痛みが取れず、私の接骨院に来られたとのことでした。

Yさんの手は明らかに短く、肩もこった状態でした。そこで、腕回しを勧めたところ、わずか3日後には腰や股関節の痛みがほぼなくなりました。

これだけ早く効果が現れたのは、おそらく先の治療院で骨盤や脚長差が調整されていたおかげでしょう。ただ、肩の筋肉が縮こまっており、それが腕回しによって取り除かれた結果、速やかな改善につながったのだと考えられます。

なかなか治らない肩・首のコリ、五十肩、腱鞘炎、腰痛、股関節痛、ひざ痛などの悩みを抱えている人は、ぜひ、この腕回しを始めてください。

画像: この記事は『壮快』2021年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年5月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.