カツオだしには「DPP‐4阻害薬」、梅干しには「α‐グルコシダーゼ阻害薬」という糖尿病薬と同じ作用があり、血糖値の上昇を抑制する効果があることがわかっています。またコンブ、煮干し、干しシイタケにも、血圧や血糖値上昇の抑制、脂質代謝の改善効果などがあります。【解説】市川壮一郎(いちかわクリニック院長)

解説者のプロフィール

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市川壮一郎(いちかわ・そういちろう)

いちかわクリニック院長。医師、循環器専門医、日本糖質制限医療推進協会提携医。2001年に千葉大学医学部卒業後、船橋市立医療センターなどで循環器専門医として救急医療に邁進。予防医療の重要性を認識し、18年にいちかわクリニックを開設。食生活の改善指導をはじめとした生活習慣病治療に尽力している。近著に『ゆる糖質オフ そうだったのか 食事術』(時事通信社)がある。
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かつおだしは血糖値の上昇を抑制

梅干しだし」は、カツオ節やコンブなどで取っただしに、梅干しを入れて煮た、調味だしです。

和食文化を代表する、梅干しとだしの組み合わせは、おいしいだけにとどまらず、さまざまな健康効果をもたらします。

私は長年、循環器専門医として経験を積むうちに予防医学の重要性を強く実感しました。そうした理由から、後に開設した自分のクリニックでは、糖尿病や高血圧などの生活習慣病予防に重点をおき、治療を行っています。

生活習慣病の予防・改善には食事療法が欠かせません。クリニックでも問診時に、患者さんの食事内容を詳細に伺います。

そんな私が近年注目し、患者さんにも摂取を勧めているのがカツオだしです。まずは、その理由からお話ししましょう。

カツオ節で取っただしには、血糖値の上昇を抑制する効果があることがわかっています。2018年に、いくつかの大学の共同研究による報告が、学会誌に掲載されました。

これによると、カツオだしには「DPP‐4阻害薬」という糖尿病薬と同じ作用があり、それが血糖値の降下に働くことが確認されました。実際にヒトで試験を行ったところ、カツオだしを飲んだ人は、同じ条件下で白湯を飲んだ人に比べ、食後血糖値が有意に低下しています。

また、2016年の国際高血圧学会では、カツオだしの成分に血圧を下げる作用があることが発表されています。

私はこうしたわけで、特にカツオだしを勧めていますが、ほかのだし食材の持つ健康効果もなかなか見逃せません。

コンブや煮干し、干しシイタケもおすすめ

カツオ節とともにだし食材の両翼を担うのが、コンブです。コンブは、フコイダンやアルギン酸などのぬめり成分が、血圧や血糖値の上昇の抑制に働くことがわかっています。

栄養面でカツオ節と共通点が多いのが煮干しです。カツオ節には、人間が体内で合成できない9種の必須アミノ酸が含まれており、煮干しの原料であるイワシにもアミノ酸が豊富です。

アミノ酸は、たんぱく質の元であり、筋肉や体の組織をつくるうえで欠かせません。高齢者のフレイル(心身の虚弱)予防にも役立つでしょう。

また、干しシイタケも、よく使われるだし食材です。エリタデニンという成分に脂質代謝を改善する作用があり、高血圧や動脈硬化の予防・改善に寄与します。骨粗鬆症を防ぐビタミンDが多い点も注目に値します。

ちなみに、旨み成分は、単独よりも異なる種類をかけ合わせたほうが、旨みが相乗します。カツオ節・煮干し、コンブ、干しシイタケはそれぞれ旨み成分が異なるので、合わせて取っただしの旨みは強力です。

旨みは減塩調理にも役立つので、高血圧のかたは特に、食事にだしを活用したいものです。

画像: コンブや煮干し、干しシイタケもおすすめ

一方、梅干しの健康効果も、負けていません。だし同様、生活習慣病の改善に奏効します。

体が吸収できるように糖質の分解を促す、α‐グルコシダーゼという酵素があります。糖尿病治療において、この酵素の活性を阻害する薬が使われているのですが、梅干しには、この薬と同様に働く物質が含まれているのです。実際に、マウス実験でも、血糖値の上昇抑制が確認されています。

しかも、α‐グルコシダーゼ阻害薬は、先述したDPP‐4阻害薬と併用すると、効果が相乗します。血糖値が気になる人は梅干し単独よりも、梅干しだしを摂取するほうが、効果を期待できるかもしれません。

梅干しは、塩分が多いことから、高血圧の人に敬遠されています。しかし実は、血圧を下げる効果もあるのです。

血圧上昇に関与する代表的な要因に、アンジオテンシンⅡというホルモンがあります。これが活性化すると、血管が収縮し動脈硬化や高血圧が引き起こされるのですが、梅干しはこのホルモンの活性を大きく抑制すると、判明しています。ラットを使った実験でも、「塩+水」よりも「塩+梅」を与えたほうが血圧が低くなったと、確認されているのです。

また、梅にもだしにも多いのが、ミネラルやビタミンなどの微量栄養素。栄養を補い代謝を促すので血流がアップします。冷えや便秘の解消、美肌、痛みやコリの緩和、疲労回復、ダイエットにも役立つでしょう。

簡単に作れて、さまざまな効果が期待できる梅干しだし。思い当たる症状があるかたは、ぜひ実践してみてください。

梅干しだしの作り方

画像1: 梅干しだしの作り方

【材料】
・梅干し…3~4個
・だし…1L

画像2: 梅干しだしの作り方

【作り方】
鍋に梅干しとだしを入れて火にかけ、煮立ったら弱火にし、20分ほど煮る。

使う梅干しにより塩分量が大きく異なるので、味を見て足りなければ、煮る時間を長くするか、梅干しを足す。
粗熱を取ったら、梅干しは入れたままふたつきの容器に移して冷蔵庫で保存。3~4日は日もちする。

画像3: 梅干しだしの作り方

■梅肉を取ったあとの種で!「エコ梅干しだし」

梅干しから梅肉をこそげたあとに、残った種を使っても、梅干しだしが作れます。種の量に応じて、適量のだしを用意し、味を調整してください。

画像4: 梅干しだしの作り方

梅干しだしQ&A

Q. どんな梅干しがいい?

A. いわゆる減塩梅干しは、保存料や甘味料などが添加されている場合が多いので、塩だけで漬けた梅干しがお勧め。好みによりシソ漬けを使ってもかまいません。

昔ながらの梅干しは塩気が強いので、塩分を控えたい場合は、梅干しの量を減らすか、煮出し時間を短くします。または、煮出したあと梅干しを取り除いて保存するといいでしょう。

画像1: 梅干しだしQ&A

Q. どんなだしがいい?

A. このページでは、カツオ節とコンブで取った一般的なだしを使っています。さまざまなだし素材が小袋に入った、いわゆる「だしパック」を使用してもOK。

画像2: 梅干しだしQ&A

Q. 煮出したあとの梅干しは?

A. 酸味や塩気がほどよく抜けた梅干しは、ぜひ料理に活用を。梅干しだしを使った料理に合わせるとアクセントになります。

画像3: 梅干しだしQ&A
画像: この記事は『壮快』2021年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年5月号に掲載されています。

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