退屈だからこそ、何かしようと考える時間があり、今までしたくてもできなかった思索に没頭できるのです。退屈を楽しむことは、孤独を楽しむことと、ほぼ同義ではないでしょうか。ただし、孤独には深入りしないことが肝要。孤独であることが心地よくなってきたら、危険を知らせるサインです。【解説】石川恭三(杏林大学名誉教授)

解説者のプロフィール

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石川恭三(いしかわ・きょうぞう)

1936年、東京生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。同大学院修了後、ジョージタウン大学留学や杏林大学医学部付属病院副院長などを経て、同大学名誉教授に就任。循環器・心臓病の分野を専門とし、日本の名医の1人として知られる。テレビやラジオなど、メディアにも多数出演。『老いのトリセツ』『百歳を生きる処方箋』(ともに河出書房新社)など、著書は70冊以上にも及ぶ。近著『老いの孤独は冒険の時間』(河合出書房新社)が好評発売中。

孤独は自分と向き合うチャンス

人は本来、年齢に関わらず、誰でも孤独な存在です。

しかし、その中でも孤独に陥りやすいのが、中高年者。なぜなら、定年退職、解雇、自身や家族の病気、配偶者の死、離婚など、人生の後半で起こるさまざまな出来事に、うまく順応できなくなってくるからです。

とりわけ孤独の入り口になりやすいのが、定年退職です。

私も経験しましたが、仕事がなくなった喪失感は想像以上。まさに、荒野に一人置き去りにされたような、ひっそりとした孤独感に苛まれました。

その上、これからは、それまでとは社会構造が全く異なる地域社会の中に入っていかねばなりません。そこは、今までのキャリアや地位が通用しない、言ってみれば、地位格差のないフラットな社会です。

周囲の人とのつながりも、今までとは量的にも質的にも変化しています。そんなところで、過去の肩書きをひけらかすような行動をとれば、自ら孤立を招いてしまいます。

さらに今、中高年の孤独に追い打ちをかけているのが、現在のコロナ禍。

自粛などの影響で、退職後にようやく築いた社会や人とのつながりがプツリと途切れ、孤独感がさらに深まってしまう……。そんなことが、近頃増えています。

しかし、孤独は決して悪いことではありません。むしろ、この孤独を前向きに捉え、利用することが大事です。

孤独になるということは、自分と向き合う機会を手にするということです。

私も含めたほとんどの人は、普段は雑事にかまけて、漠然と過ごしていることと思います。そんな日々の中で、「自分が何者か」など、考えたこともないでしょう。

しかし、孤独という、精神的に周囲から切り離された状態にあると、目の前にいるのは自分だけです。

そのため、自分がどういう存在なのか、どういう立ち位置にいるのか、じっくり考えることができます。

孤独から逃げるのではなく、孤独を利用して自分と向き合う。そういう時間を楽しめることが、孤独であることの最大のメリットです。

そして、孤独の裏側には、退屈があります。私は、この退屈な時間を、もっぱら思索と執筆に当てています。

退屈だからこそ、何かしようと考える時間があり、今までしたくてもできなかった思索に没頭できるのです。

このように、退屈を楽しむことも必要です。退屈を楽しむことは、孤独を楽しむことと、ほぼ同義ではないでしょうか。

心地よくなっても、孤独に長居は無用

ただし、孤独には深入りしないことが肝要です。

私は孤独を楽しんでも、孤独の入り口のすぐ近くか、そこより少し奥に入ったところまでしか行かないようにしています。

それ以上奥に入ると、もう、戻ってこられないような不安を感じるからです。

孤独でいると、ある時点から孤独であることが心地よくなってきます。実はそれが、危険を知らせるサイン。そこから先に行くと、本当の孤独が待っていて、孤独でいることが苦痛ではなくなってくるのです。

孤独が深まり、そこから抜け出せなくなると、人との交流がなくなっていきます。そして、だんだん引きこもり状態になり社会から隔絶していくのです。

そして、ついにはうつのような病的状態になったり、最悪の場合、孤独死に至ったりすることもあります。

孤独に、長居は無用です。深入りせず、余裕を持って引き返せる時点で切り上げて、現実に戻ってくること。その引き返すべき地点を、よく見極める必要があります。

私自身は、孤独が心地よくなったときに孤独から抜け出すよう、自分を戒めています。

孤独は「小毒」のうちにとどめておき、さらに「小得」に変える心がけが必要です。そうすれば、孤独のメリットだけを享受することができます。

画像: 孤独でいることに心地よさを感じたら引き返すのがベスト。

孤独でいることに心地よさを感じたら引き返すのがベスト。

自分の人生をほめ、人に感謝する

とは言え、高齢になると「何をしていても孤独を感じて、胸にぽっかり穴が開いたような心持ちになる」という人が、少なくありません。

そういった人には、「日頃からポジティブに物事を受け止める訓練をすること」をお勧めします。その上で、自分を肯定的に評価してみましょう。

やり方は、とても簡単です。自分の人生を振り返って、「いろいろあったけれどここまでがんばれた、よくやった、たいしたものだ」と、自分をほめるだけ。元気でここまで生きてこられただけでも、あなたの人生は大成功なのです。

ここまで来る間には、多くの人との出会いがあり、その人たちのおかげで、今の自分があります。そういう人たちを思い出して、感謝の念を持つことも大事です。

高齢者にとって、思い出は人生の宝物です。その宝物の世界に、ときどき自分を置いてみるのも、孤独から離れるよい手段になります。

古いアルバムを開いて当時を思い出すことや、懐かしい音楽を聴き、いっときは昔の世界に戻るのも、心地よいものではないでしょうか。

もう一つ私が提案したいのは、体を動かすことです。

新型コロナの影響は、高齢者ほど深刻です。何日間も家に引きこもっていると、肉体的にも精神的にも、リカバリーが難しくなります。

今は人に会うのもはばかられる状況ですが、外に出て近所をぐるっと一回りし、世の中の様子を眺めるだけでもいいのです。そういう形で外の世界に触れて、少しでも外とのつながりを持つことが、今の状況では大事です。

石川先生流「孤独との付き合い方」

孤独を利用して、自分自身と向き合う

孤独は、決して悪いことではありません。「自分はどういう存在なのか」「自分はどういう立ち位置なのか」など、自分と向き合う時間を取ってみましょう。

退屈な時間を有意義に楽しむ

孤独の裏側にあるのは、退屈。この時間を①のような思考に当てるもよし、文章を書いたり、俳句にチャレンジしたりするもよし。退屈を制する者が、孤独を制するのです。

「孤独でいるのが心地いい」と感じたら、現実に戻る

「孤独な時間が心地いいな」と感じたら、それは危険を知らせるサイン。その先には本当の孤独があり、そこまで行くと引き返すのが難しくなります。外に出かけるなどして、現実に戻りましょう。

前向き思考の訓練をする

自分の人生を振り返って、「自分はここまでよくやった!」と、肯定的に評価してみましょう。思い出という宝物の中に自分を置くのは、孤独から離れるよい手段です。

体を動かす

新型コロナで自粛が余儀なくされている今こそお勧めしたいのが、体を動かすこと。激しい運動をする必要はないので、家の周りを一周してみたり、買い物がてら散歩してみたりして、外とのつながりを持ちましょう。

画像: この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。

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