孤独は、心臓病、高血圧、認知症、精神疾患など多くの病気を招く「万病のもと」なのです。しかし日本では、「孤独を楽しむ」「孤独はかっこいい」という趣旨の本が、書店にズラリと並んでいます。孤独の危険性が知られていないどころか、孤独が礼賛されているのです。【解説】岡本純子(コミュニケーション・ストラテジスト、「オジサン」(の孤独)研究家)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

岡本純子(おかもと・じゅんこ)

「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。新聞記者やPRコンサルタントを経て、株式会社グローコムを設立。1000人以上の社長や企業幹部に秘伝のコミュニケーション術を指導している。数多くの「オジサン」を観察してきた経験から、オジサンのコミュニケーション力改善や、「孤独にならない生き方」の探求をライフワークとする。著書に『世界一孤独な日本のオジサン』(KADOKAWA)、『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)がある。

医学的に見ても孤独は万病のもと

読者の方は、健康には日々気をつけていらっしゃることと思います。しかし、不摂生な食事や運動不足よりも、もっとあなたの健康を損ねるものがあることは、ご存じでしょうか。 

それは、「孤独」。

オバマ政権下のアメリカで、公衆衛生局の長官を務めたビベック・マーシー氏は、「病気になる人を観察し続けてきてわかったが、その共通した病理は、心臓病でも糖尿病でもなく、孤独だった」と語っています。

このことは、数多くの医学的研究でも証明されています。その中から、いくつかご紹介しましょう。

心疾患が起こりやすくなる

孤独な人は、そうでない人よりも、冠動脈性の心疾患(狭心症や心筋梗塞など、心筋に栄養を送る血管が狭まり起こる病気)のリスクが29%、心臓発作のリスクが32%高まることが判明しています。

認知症になりやすくなる

孤独な人は、孤独を感じない人より20%早いペースで、認知機能が衰えます。また、アルツハイマー型認知症になるリスクは、2.1倍にも上ります。

血圧が上がりやすくなる

体重減少や運動は、血圧を低下させる効果がありますが、孤独にはその効果を打ち消す作用があることが確認されました。

運動機能の衰えが早まる

孤独な人は、入浴、着替え、階段の上り下り、歩行などの日常動作に支障をきたしやすくなることがわかっています。

このように孤独は、心臓病、高血圧、認知症、精神疾患など多くの病気を招く「万病のもと」なのです。

・・・

これらのデータを、総合的に分析した研究があります。

アメリカで、148の研究と30万人以上のデータを分析したところ「社会的なつながりを持つ人は、持たない人に比べて早期死亡リスクが50%低下する」という結論が得られました。

孤独の危険性は、運動しないことや肥満よりも高く、「たばこを1日15本吸う」「アルコール依存症である」ことに匹敵する、というから驚きます。

ちなみに、ここでいう孤独に家族の有無は関係ありません。研究により、「子どもや親戚との関係は、長寿とは無関係である」と示されているためです。

その一方、「友だちが多い人はほとんどいない人より長生き」という結果も出ています。

つまり、1人暮らしであっても、人とのつながりがあり、そこから幸福感を得ているなら大丈夫。反対に、家庭や職場で人と接していても、「誰ともつながっていない」と感じるなら危険。問題となるのは、精神的な孤独なのです。

「自分が孤独かわからない」という人は、下のチェックシートに答えてみましょう。これはイギリスの孤独対策キャンペーン団体の指標で、個人の主観を判断基準にしたものです。

【チェックシート】
三つの質問に当てはまる答えの合計を計算してください。
非常に当てはまる……0
当てはまる……………1
どちらでもない………2
当てはまらない………3
全く当てはまらない…4

質問
1.私は自分の友人関係、人間関係に満足している。
2.いつでも助けを求められるような関係を、十分な数の人と築いている。
3.自分が満足するレベルの人間関係を築けている。

結果
0~4……全く問題なし
5~8……要注意
9~12……孤独の可能性が高い

出典:『世界一孤独な日本のオジサン』より抜粋(岡本純子著、KADOKAWA刊)

高齢者の幸福度が低く孤独な人が多い日本

では、孤独はなぜ、健康にこれほどの悪影響を与えるのでしょうか。それは、人間が古代から他者と助け合って暮らしてきた「社会的動物」だからだと考えられます。

人類が誕生した当初は、孤独は「死」に直結する出来事でした。他者と離れて孤立すれば、敵にやられたり、食料が得られなくなったりという、多くの危険が発生します。

そのため、孤独になると、ストレス時に分泌されるホルモン「コルチゾール」が増加するようになりました。このホルモンの増加は、血圧の上昇や炎症の促進、免疫力(病気に対する抵抗力)の低下などを招くので、病気のリスクが高まります。

欧米では、こうした孤独についての研究が、6年ほど前から進んでいました。私がアメリカにいた頃は、毎日のように「孤独は現代の伝染病」と報道されていたものです。

特に、孤独対策で先進的な取り組みをしているのが、イギリスです。民間団体による孤独な人に対する支援が盛んな上、2018年には政府が「孤独担当相」を新設するなど、国を挙げての対策がなされています。

しかし日本では、「孤独を楽しむ」「孤独はかっこいい」という趣旨の本が、書店にズラリと並んでいます。孤独の危険性が知られていないどころか、孤独が礼賛されているのです。

これは、日本には孤独な人が多いからこその現象かもしれません。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、友人などの他者と「ほとんど付き合いがない」と答えた日本人の割合は、15.3%。これは、加盟国の中でもトップでした。

また、数々の研究で、人は年を重ねるほど穏やかになり、他者を信頼する結果、幸福感が高くなるとわかっています。ところが、日本人はその逆。年を取れば取るほど幸福度が下がると調査で明らかになっています。

周囲にキレる「暴走老人」も話題に上りますが、これこそ、幸せでない高齢者が多いことの表れではないでしょうか。

私はこのようなところに、日本ならではの「他者とのつながりのなさ」が関わっている気がしてなりません。

孤独が美化されるのも、孤独を「よいもの」と捉えることで寂しさをごまかしたい、という意識が働いているように感じるのです。

長年仕事一筋の寡黙な男性は特に注意

そんな日本人の中でも、特に孤独に陥りやすいのが、いわゆる「オジサン」世代です。仕事一筋で、人付き合いも仕事を通じてのものばかり。そういう方は退職したとたんに、社会とのつながりが断たれます。

また、仕事など共通の目的があれば会話できても、雑談は苦手という男性は多いもの。見知らぬ人との会話をなるべく避けたい、と考える人も多いのではないでしょうか。

その結果、趣味や地域の集まりからも足が遠のき、引きこもり状態に陥りやすくなります。

さらに、「男は黙って耐える」ことをよしとする風潮も根強く、「寂しい」と思っても、なかなか助けを求められません。

しかし、コロナ禍で人付き合いが制限される今、そのようなオジサン世代をはじめ、多くの方がつながりの大切さを痛感しているのではないでしょうか。

次の項からは、個人でできる孤独解消法をいくつか紹介しています。できることからで構いませんので、ぜひ実践してみてください。

伝説の家庭教師直伝
社会的孤立を防ぐポイント

孤独を解消する最も効果的な方法は、社会的なつながりを持つこと。そうは言っても、人間関係の幅を広げるのはなかなか大変です。そこで今回は、今日からできるプチコミュニケーション術をご紹介。買い物に出かける際や、散歩に出かける際など、さっそく実践してみましょう!

「スジコ型」より「クモの巣型」の人間関係を作ろう

スジコ型の人間関係とは、スジコの粒のように、少ない居場所で人と密接に関わること。いわゆる、「狭く深い」お付き合いのことです。この関わりがあるうちは、孤独を感じにくいでしょう。

しかし、この世は諸行無常。人間関係も家庭環境の変化や入院などで、だんだん変わってしまいます。そうして、その人たちとの関わりが薄れてしまったとき、イクラの粒のように、ポツン……と取り残されてしまう危険があるのです。

そこでお勧めしたいのが、クモの巣のような「広く浅い」人間関係を作ること。今は新型コロナで難しいかもしれませんが、地域の集まりや行きつけのお店などに行き、新たなコミュニティを作ってみてもいいと思います。

「いろんな人と話すのは大変」と思う方もいるかもしれません。しかし、1人1人と特別仲良くなる必要はないのです。気軽にあいさつをしたり、ひと言ふた言会話を交わしたりするだけでも構いません。このようなちょっとしたやり取りが、実は幸福度を大きく上げ、生きる支えとなるのです。

画像: 「スジコ型」より「クモの巣型」の人間関係を作ろう

趣味を見つけてみよう

私は、人が孤独とうまく付き合うには、個人として徹底的に自立することが大事だと考えています。

その自立の一歩として有効なのが、趣味を見つけることではないでしょうか。好きなことをやっている時間は、余計なことを考えませんし、趣味によって新たなつながりが生まれることもあります。

特に中高年の男性には、「おしゃべりの楽しみ方がわからない」と悩む方が少なくありません。その理由は、男性にとっての会話は、仕事で合意を伝えるときや自分の意志を伝えるときなど、目的を達成するための手段でしかない、という考えが強くあるからです。

趣味があれば、もっと情報を得たい、誰かと共有したいという気持ちが自然に芽生え、会話のハードルも下がるでしょう。なお、誰かを応援したり、何かに夢中になったりする「推し活」もお勧めです。

画像: 趣味を見つけてみよう

会話の「あいうえお」を大事に

「コミュニケーションの家庭教師」として、私がお勧めしているのが、「あいうえおの法則」。いずれも会話の超基本、と言えることですが、これを実践すれば、人生は必ず上向きになります。身近な人とのつながりを感じる機会も増え、孤独感の解消にも役立ちます。

あいさつをする

あいさつには、人との関係性を深める多くの効用があります。スーパーの店員さんやご近所さんにちょっと声をかけるだけでも、幸福度がアップします。

画像1: 会話の「あいうえお」を大事に

「いいね!」と、人をほめる(ほめ上手になる)

いばったり、ダメ出しばかりしたりする人は、孤独街道まっしぐら。身近な人をよく観察して、小さなことでも、「それ、いいね!」とほめてみましょう。

画像2: 会話の「あいうえお」を大事に

「うん、そうだね」と、人の話に耳を傾ける

人がコミュニケーションに使う時間の45%は、話を聞くことだそう。聞く80:話す20を頭に浮かべて、まずは人の話を聞いてみましょう。人の話を聞いていれば、自分の話も聞いてくれるはずです。

画像: う 「うん、そうだね」と、人の話に耳を傾ける

笑顔を忘れずに

人に笑顔を向けられると、心がホッコリしませんか?笑顔は周りの人だけでなく、自分自身にもポジティブな影響があります。日本人は笑顔が苦手、とよく言われますが、まずは鏡の前に立ち、5分だけでも練習してみましょう。

画像: え 笑顔を忘れずに

お礼を言おう

何かに感謝する癖をつけると、心はぐんと軽くなります。その癖を身に着けるには、次の3つを試してみましょう。
①「感謝の気持ち」を日記につける
② 感謝の手紙を書く
③「ありがとう」と口に出してみる

画像: お お礼を言おう
画像: この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。

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