特に大腸、肛門に病気がないことが判明したら、肛門のかゆみの治療は主に、「1時間に一度は立ち上がり最低10mほど歩く」「水圧で強く刺激しない」などの生活改善や、トウガラシを避けるなど食生活に気をつけ、よい排便習慣をつけることが中心になります。【解説】平田雅彦(平田肛門科医院院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

平田雅彦(ひらた・まさひこ)

平田肛門科医院院長。1953年東京生まれ。社会保険中央総合病院大腸肛門病センターを経て、現職。痔の約9割を手術なしで共存するという実績を上げている。『痔の9割は自分で治せる』(マキノ出版)ほか、著書多数。
▼平田肛門科医院(公式サイト)

かゆみの原因となる病気の有無を確認する

どんなかゆみもつらいものですが、とりわけつらいのは、お尻(肛門)のかゆみでしょう。場所が場所だけに、突然かゆくなっても、状況によってはすぐにかくことができず、ひたすら耐えなければなりません。

当院にもかゆみの患者さんが来院されますが、肛門やその周囲のかゆみは、医学的には「肛門掻痒症」といいます。

肛門は長さ3cmほどの器官で、腸から下に降りてきた部分と、皮膚のくぼみが上がってきた部分がドッキングしてできたものです。そのぶつかったところを歯状線といい、歯状線から上は腸と同じ粘膜、下は皮膚に似た肛門上皮という面白い構造をしています。

画像: かゆみの原因となる病気の有無を確認する

歯状線から上の部分は腸と同様に痛覚やかゆみはありませんが、下の肛門上皮は皮膚のように痛みやかゆみを感じます。厄介なことに、肛門はかゆみが起こりやすいところです。その理由は、以下の三つです。

蒸れやすい

肛門は分泌物が多く、汗をかきやすいところです。長く座って通気が悪くなると、蒸れてかゆくなります。

汚れやすい

便や排ガス(オナラ)が触れて大腸菌がついたり、アルカリ性の便がついたりすると、皮膚が刺激され、かゆみが起こりやすくなります。

血液循環が悪い

長く座っていると蒸れるだけでなく、循環障害が起こりやすくなります。そのため、肛門やその周辺の皮膚はただれやすく、かゆみが出やすいのです。

しかし、かゆみは体の異常を知らせる大事なサインでもあります。私たち肛門医は、かゆみを抑えるだけでなく、なぜかゆみが起こっているのかを、必ず突き止めます。

というのも、かゆみのある人は肛門に炎症を起こしていることが多く、痔核(いぼ痔)や痔ろう、カンジダ症、接触性皮膚炎などの病気があったり、まれですが、分泌物が増える特殊な直腸がんが見つかることがあるからです。

かゆみがあったら、まず他の病気が隠れていないか調べ、その治療を行います。

また、不安やストレスなど精神面からくるかゆみもありますから、かゆみが精神的なものではないことを確認した上で、かゆみの治療に入ります。

2ヵ月ごとに再生する皮膚の治癒力を信じる

特に大腸、肛門に病気がないことが判明したら、肛門のかゆみの治療は、主に以下のような生活改善が中心になります。

長く座らない

長く座っていると蒸れやすくなるだけではなく、血行が悪くなって、うっ血しやすくなります。1時間に一度は立ち上がり、最低10mほど歩きます。

水圧で強く刺激しない

排便後、水で洗うのはよいですが、シャワートイレで強い水圧をかけると、皮膚のただれがひどくなります。

やさしく拭き取る

排便後は、ゴシゴシこすらず、やさしく押し拭きします。

かゆくてもお尻をかかない

かくと気持ちいいのですが、その後、皮膚が傷ついて痛くなったり、かゆみが再発したりします。また、便の汚れを広げてしまうこともあります。

その他、食生活に気をつけて、よい排便習慣をつけることも大事です。

便秘でいきむと、肛門がうっ血したり、毛細血管が切れて粘膜に炎症を起こしたりします。また、下痢便でも、便の通過が刺激になって炎症を起こします。炎症があると分泌物が増えるので、皮膚のただれやかゆみの原因になるのです。

炎症を起こしやすい食品にも気をつけてください。その筆頭はトウガラシで、辛味成分のカプサイシンはほとんど吸収されずに排出されるため、お尻の粘膜に炎症を起こします。

幸いなことに、皮膚は再生します。今、ただれてかゆみがあっても、2〜3ヵ月すると次の皮膚が出てきますから、その間に生活を見直せば、セルフケアだけでも治ります。皮膚の治る力を信じることも大事です。

余談ですが、私は難病外来を開設し、余命数ヵ月と宣告された方の相談にも乗っています。その外来でわかったことは、病気に意識を留めず、何かに没頭している人は自己治癒力が強固になり、末期がんでも改善できる場合があるということです。

かゆみも同じで、何かに没頭してかゆみを忘れていれば、自己治癒力で自然に快方に向かっていきます。もちろん、その場合も、再発防止のために、生活改善は必要です。

肛門のかゆみには、こうして対処!
長く座らない
 1時間に1度は立ち上がり、少なくとも10mほど歩く。
水圧で強く刺激しない
 シャワートイレは弱い水圧にする。
やさしくふき取る
 排便後はゴシゴシこすらず、やさしく押し拭きする。
かゆくてもお尻をかかない
 かくと傷ついて痛みになるし、かゆみが再発しやすくなる。

画像: この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。

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