解説者のプロフィール

今井一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長。内科医、東洋医学会漢方専門医。NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長。2006年みらいクリニック開院。息育、口呼吸問題の第一人者として全国を講演で回る日々。あいうべ体操、ゆびのば体操の考案者でもある。
かゆみの大きな原因は口呼吸にあり
「かゆみは痛みよりつらい」といわれます。ついかいてしまい、かくと気持ちがいいので、掻破行為(皮膚をかき壊す)は習慣化しやすく、皮膚の状態はさらに悪くなります。
ステロイド剤などの治療薬もありますが、根治を目指すなら、かゆみが起こる原因から探っていかねばなりません。
私は、その原因の一つに「口呼吸」があるとみています。
事実、私のクリニックでは、「口閉じテープ」(以下、口テープ)を使い、口呼吸を鼻呼吸に変えるだけで、かゆみが治まるケースが続出しています。
その理由を説明しましょう。
現代人の多くは、無意識のうちに口で呼吸をしています。哺乳類で口呼吸をするのは、実は人間だけ。人間は言葉を獲得したことで、口でも呼吸ができるようになったのです。
同じ呼吸でも、口と鼻では大きく異なります。
口をポカンと開けて呼吸をすると、空気中に漂う細菌やウイルス、かゆみの原因となる花粉や化学物質などが、直接、体内に取り込まれます。
すると、気管支が炎症を起こすことがあり、IgEというアレルギー物質が放出されます。それが全身を巡り、かゆみを生じさせるのです。
その対極にあるのが、口を閉じて行う鼻呼吸です。
鼻には線毛があり、異物や有害物質を吸い込んでも、多くは捕捉され害になりません。例えば、花粉程度の大きさなら、8割以上は鼻で捕捉され、タンとして排出されたり、飲み込まれたりして無害化されます。
「よし、それなら鼻呼吸にしよう」と決心しても、事はそう簡単ではありません。
特に問題は、意思でコントロールできない夜間です。就寝中は筋肉がゆるみ、寝具やアルコールなどの影響もあって、昼間より、口呼吸になりやすいのです。
人生の3分の1は睡眠です。その間、口呼吸だと、体への影響は大です。
唾液が減ってドライマウスになると、口臭や歯周病などのリスクが上がります。そして、歯周病などの口の炎症が、やがて体の炎症につながることがあります。
歯周病菌が心筋梗塞や脳卒中、糖尿病などに関わることは、すでにご存じの通り。また、口呼吸だと、睡眠時無呼吸性症候群になりやすいので、睡眠の質が低下し、体の修復機能も下がります。
そこで私のクリニックでは、就寝前に口テープをはることを勧めています(やり方は下項参照)。
この方法は、私が発見したわけではありません。事実、テープが発明される20世紀以前に、革のバンドで頭全体を縛るようにして、寝ているときに口を物理的に閉じるという治療法があったとの文献もあります。
昔から、口を開けていることの弊害は経験的に知られていたのでしょう。
口テープのやり方
※はるのが怖い人は、無理せずに、起きているときにはって過ごして、問題ないか試してください。
※5歳未満のお子さんには、口テープをはってはいけません。
※肌が荒れやすい人は、はる位置を日々変えて下さい。
●用意するもの
薬局などで売られている医療用のテープ(サージカルテープやばんそうこう)を使用します。幅は12mm前後が使いやすいです。

医療用テープ。幅は12mm前後がお勧め。
●やり方
テープを5cmほどに切る。くちびるの中央に縦にはり、そのまま眠る。
【基本】

【2本】

縦1本だと空気が横からもれる人は、くちびるの中央は開けて、左右に2本はる。
【ミッフィー】

くちびるの上に×印を描くようにはる。明らかに口が開いている人に。
アトピーや湿疹が改善
私は、口呼吸こそがさまざまな病気の根源だと考え、口呼吸を鼻呼吸に導く「あいうべ体操」を考案しました。
1日30回、「あ、い、う、べー」と、口と舌を動かすことで舌力を鍛え、自然と鼻呼吸ができるようにする体操です(やり方は下項参照)。
同時に、しっかり舌力がつくまで、就寝前に口テープをはるよう勧めたところ、症状がよくなる人がどんどん出てきました。
A子さん(34)はリンパマッサージを行うアロマセラピストです。かゆみがひどい手湿疹で来院されました。ステロイド剤をぬっていましたが、お客さんについてしまうし、ぬり続けるのに不安があると言います。
そこで、あいうべ体操と口テープを指導すると、それきり来なくなり、気になっていたところ、「先生、私の手も治してください」と、A子さんの友人が来院。聞けばA子さんはすでに完治したそうです。
就職活動をしていたB夫さん(22)は、久しぶりに会ったいとこがイケメンになっていたのを見て来院。肌のかゆみと湿疹が消え、口元も引き締まり、何をしたのか尋ねると、「みらいクリニックに行った」とのこと。B夫さんも、顔のかゆみと湿疹に悩んでいましたが、あいうべ体操と口テープでよくなり、就職もできました。
C美さん(50代)は、一度もお会いしたことのない奈良県在住の女性です。ある歯科医院で、「話しても仕方ないけど……」と、主婦湿疹のかゆみとつらさを歯科衛生士さんに打ち明けたところ、その歯科衛生士さんが、たまたま私の講演を見たばかり。
すぐ口テープを教えてあげると、湿疹はきれいによくなり、それに感激した歯科衛生士さんがわざわざ画像を送ってくれました。
あいうべ体操のやり方
・声を出して行う。
・大げさなくらい口を大きく動かす。
・1回を4秒前後かけてゆっくり行う。
・できれば朝昼晩と、1日3度行う。
❶「あー」と、口を大きく開く。

❷「いー」と、口を大きく横に広げる。

❸「うー」と、口を前に突き出す。

❹「べー」と、舌を突き出して下に伸ばす。

※①~④を1回として、1日30回を目安に毎日行う。
カゼ予防や夜間頻尿の軽減にも
最近は、コロナ禍でリモートワークが増え、日中も口テープをする人がおられます。パソコンで下を向くと口が開きやすいので、それもよいでしょう。
空気が乾燥している機内やホテルも、口テープを勧めたい場所です。
また、ぜひやっていただきたいのが、人工透析の患者さんです。透析の患者さんは、皮膚への水分供給が低下し、乾燥して、かゆみが生じやすくなっています。
そこへきて、透析中に口呼吸になっていると、口の中がますます乾き、免疫力も低下します。口テープの導入で透析患者のかゆみが軽減したとの話も、病院関係者から聞きました。
口テープをすると、口からアレルギー物質が取り込まれるのを防げる上、ぐっすり眠れて体の修復機能も高まるので、かゆみが治まり、症状が改善するのでしょう。ほかにも、カゼをひきにくくなる、美肌になる、夜間頻尿が減る、血圧が改善する、などの効果があります。
テープは、肌への刺激が少ないばんそうこうがお勧めですが、基本、なんでもいいです。幅は12mmほどがベストです。ぜひお試しください。

この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。
www.makino-g.jp