解説者のプロフィール

溝口徹(みぞぐち・とおる)
医療法人回生會みぞぐちクリニック院長。1964年神奈川県生まれ。福島県立医科大学卒業。1996年、痛みや内科系疾患を扱う辻堂クリニックを開設。2003年には日本初の栄養療法専門クリニックである新宿溝口クリニックを開設。2021年4月、東京都中央区にみぞぐちクリニックを開設。『2週間で体が変わるグルテンフリー健康法』(青春出版社)ほか著書多数。
▼みぞぐちクリニック(公式サイト)
花粉症対策で重要なのは「腸内環境」
アトピー性皮膚炎の人は、アレルギー体質ですから、花粉症にも悩まされがちではないでしょうか。
私自身がそうでした。子どもの頃、春先になると、あふれ出る鼻水と涙でグシャグシャ。当時は「花粉症」という名前がなく、「春季カタル」と病名がついたことを鮮明に覚えています。
医師になってからも、有効な治療法は見い出せず、点鼻薬などで症状を緩和していました。それでも春にうっかりゴルフに行くと、目のかゆみや鼻水で、とてもプレイどころではないありさまでした。
しかし、今はこれらの症状は一切ありません。栄養療法によって克服できたのです。
花粉症に対する栄養療法で重要なのは、①腸内環境を整える、②粘膜の免疫機能を正常にする、の二点です。順に説明しましょう。
①腸内環境を整える
「腸内環境」というと、たいていの人が腸内細菌のことを思い浮かべるようです。しかし、私が最も重要と考えるのは、腸の壁を丈夫にすること。
腸壁に持続的な炎症などの異常があると、腸の粘膜に穴が開きます。すると、本来は通過できないはずの有害な物質が、その穴から体内に侵入してきます。これがアレルギー疾患を引き起こす原因となります。
では、なぜ炎症が起こるのでしょうか。
主な要因の一つが、カビの一種である「カンジダ」です。カンジダは、健康な腸にも存在する常在菌ですが、増え過ぎると、腸内細菌のバランスがくずれ、その刺激で腸壁に炎症が起こります。そこで、増え過ぎをどう抑えるかですが、これは別記事の「カンジダ膣炎」への対処法で取り上げます。
二つ目の要因は、小麦と乳製品です。小麦には「グルテン」、乳製品には「カゼイン」というたんぱく質が含まれています。これらは腸粘膜を刺激して、炎症を誘発しやすいのです。
当院では、花粉症などアレルギー疾患がある患者さんには、小麦製品と乳製品の除去を提案しています。「腸にいい」とされているヨーグルトも例外ではありません。2週間ほど続けると、確実に体調が改善していくのを感じられるでしょう。
ちなみに、バターにはカゼインはほぼ含まれず、先に述べたオメガ3とオメガ6の比にも影響しない油脂ですから、食べても問題ありません。
ところで、ヨーグルトの除去を勧めると、患者さんからは決まって、「善玉菌はどうやってとればいいのか?」と尋ねられます。
その答えになるのが、納豆やみそ、野沢菜などの漬物。これらの食材からさまざまな種類の善玉菌が摂取できるので、積極的に食べましょう。
花粉症改善の中心となる栄養素は「ビタミンD」
②粘膜免疫を正常にする
免疫というと、体内に侵入した病原菌に対する抗体などを思い浮かべる人が多いようです。しかし、実は、鼻などの粘膜にも病原菌を排除する働きがあります。これを粘膜免疫といいます。
粘膜の細胞は正常であれば、隣同士で強固に結びついています。これを「タイトジャンクション」といいます。
このおかげで、花粉や病原菌、ウイルスは、粘膜についたとしても、すぐにはそれ以上侵入できません。そのまま粘膜上で排除されれば、アレルギー反応は起こらず、感染症にかかることもないのです。
このタイトジャンクションを作る指令を出しているのが、ビタミンDです。不足すると、粘膜細胞の結合がゆるむので、花粉や病原菌が侵入し放題となってしまいます。
ビタミンDは別の観点から見ても、花粉症改善の中心となる栄養素です。
まず、ビタミンDは免疫反応のコントロールに関わっています。不足すると、免疫システムに異常が生じ、体に悪くない花粉に反応したり、逆に病原菌に正常に反応しなかったり、といったことが起こります。
さらに、ビタミンDは、腸粘膜を正常化するのにも役立ちます。腸は、全身の粘膜免疫の司令塔でもあります。腸内環境が悪化すると、全身の粘膜に過剰反応が起こりやすくなりますから、ここでもビタミンDが有効なのです。
このように、ビタミンDは免疫機能の正常化に必要不可欠の栄養素ですから、積極的に摂取しましょう。
ビタミンDは日光に当たると、体内で産生されます。食材ではサケ、イクラ、ウナギ、干しシイタケ、キクラゲなどに豊富に含まれています。
ただ、これらだけでは治療に必要なビタミンDの量には、圧倒的に不足しています。サプリメントでの補給も検討することをお勧めします。
粘膜免疫を働かせる栄養素と食べ物、行動
❶ビタミンD
サケ、イクラ、ウナギ、干しシイタケ、キクラゲなど
❷日光浴をする


この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。
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