解説者のプロフィール

平田真知子(ひらた・まちこ)
昭和45年より独学で薬草の研究を始め、その後、長崎市の植物学者・高橋貞夫先生に師事し、薬草研究を行う。昭和60年より各地の薬草会の指導を始め、自治体の健康づくり大会で健康相談や、保健所、公民館、老人会や農協などで講演などを行う。主宰する「薬草の会」には数百名もの会員が40~100歳という幅広い年齢で在籍している。会員は皆、声にハリがあって大きく、肌ツヤよく、認知症やがんとは無縁で過ごしている。
▼マチコばあちゃんの薬草歳時記(You Tube)
今が摘みどき、作りどき!
「ハマボウフウ」
【効果・効能】発汗、解熱、鎮痛、強壮、セキ止め、タン切り
乾いた砂浜でたくましく根を伸ばす
ハマボウフウは、海岸の砂浜に自生しているセリ科の植物です。日本全国で見ることができます。中国の薬草として知られるボウフウと似ていることから、ハマボウフウと呼ばれるようになりました。
葉は先が丸く、やや肉厚でツヤがあり、地面を這うようにして低く広がります。夏にはたくさんの白い小花をつけ、ゴボウに似た長い根を地中深くに伸ばします。
このハマボウフウについては、ちょっと面白い話があるので紹介しましょう。
私が「薬草の会」の会員20人ばかりと一緒に、ある海岸の砂地を歩いていたときのことです。ガタガタに削れた階段状の段差がありました。おそらく、波風や業者による砂の大量採集によってできたものでしょう。その段差の一部から、ロープが何十本もブラブラとぶら下がっているではありませんか。
不思議に思って、皆で近付いてみると、ロープに見えたのは、なんとハマボウフウの長い“根”だったのです。
水を求めて長い根を伸ばしたハマボウフウは、根がむき出しになっても力強く生息していたのです。「おお! すごい生命力やねぇ」と、皆で感激したものです。
私がまだ長崎市在住の植物学者・高橋貞夫先生のところへ勉強に通っていたときでしたから、私はこの根をたぐって持ち帰り、先生に見ていただくことにしました。
なわ跳びができるくらい立派な根に、「これは面白いねぇ」と、先生もひどく興味をそそられたようでした。そして、急きょ、その場にいた人たちと、ハマボウフウの勉強会をすることになったのです。
ハマボウフウの根は、すでに半乾きの状態でしたから、それを削って小さく刻み、30〜40分ほど煮出して煎液を作りました。もし根が乾いていない場合は、天日で1週間ほど干して、半乾き(※)にするとよいでしょう。
※ 半乾きの目安は、手で曲げたときに「くの字型」にしなること。パキッと折れるようなら乾き過ぎで、フニャフニャなら水分が余っている。
この煎液を湯飲みに注ぎ分け、皆で飲んでみました。煎液の色はほぼ透明で、味に癖はなく、セリ科の爽やかな香りがしました。
その勉強会のメンバーの中に、カゼのひき始めで、体調が優れないという人が一人いました。同じ煎液を、同じ量飲んでいたのに、その人だけ、髪の毛がびっしょりするほど大量の汗をかき始めたのです。ハマボウフウを飲んで、わずか30〜40分くらいしかたっていません。
同じときに同量の煎液を飲んだ私は、ちょっとポカポカするかもといった程度。面白いことに、どこも悪くない人が飲んでも、けろっとして、どこもなんともないのです。
高橋先生も、「薬効は、それを必要とする人にだけ作用して、不要な人には作用しないのだな」と感心しておられました。ですから、薬草というのは、効くことを喜び、効かないことも喜びなさいというのです。効かないのは健康である証拠なのですから。
さて、早春の海岸で、ハマボウフウを探し当てたら、大いに新芽を摘み取ってください。新芽を採取するコツは、花が咲く夏の間に、ハマボウフウの自生する場所を見つけておくことです。寒い時期のハマボウフウは、花が咲きませんから、いきなり探し当てるのは大変です。
新芽は、そのまま刺し身のつまにして食べます。また、さっとゆでて甘酢漬けにすると、鮮やかなピンク色になり、そのシャキッとした歯応えは、まさに春の味というべきものでたまりません。八百屋に並ぶこともあるので、手に入れるのが難しい人は買い求めてみるとよいでしょう。
薬酒にすると発熱の際に便利
春の新芽だけでなく、根も欲しいという人は、シャベルを持参し、自然薯を掘る要領で、根から離れた部分から掘り起こしてください。
採取した根は、薬酒にしておくと、いつでも使えます。半乾きの根200gを、35度の焼酎1.8L(ホワイトリカーでも可)に漬け、3ヵ月おけば完成です。
1日にさかずき1杯を飲むと、発熱、解熱、鎮痛、セキ止め、タン切りに効果があります。
なお、ハマボウフウは採取禁止の地区もあるので、摘む前には必ず確認するようにしましょう。

摘む前には必ず確認!
薬酒の作り方
【用意するもの】
・ハマボウフウの根……200g
・35度の焼酎(ホワイトリカーでも可)……1.8L

【作り方】
①ハマボウフウの根を天日で1週間ほど乾かして半乾きにする。
②大きい保存容器に保半乾きのハマボウフウの根と焼酎を入れ、3ヵ月おくと完成。

この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。
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