解説者のプロフィール

髙倉伸幸(たかくら・のぶゆき)
大阪大学微生物病研究所情報伝達分野教授、医学博士。1988年三重大学医学部卒業後、京都大学大学院医学研究科博士課程修了。専門は血管形成、幹細胞など。毛細血管と組織形成の関係について着目し、研究に従事している。著書に『ゴースト血管をつくらない33のメソッド』(毎日新聞出版)などがある。
毛細血管が傷むと血圧が上がる
コーヒーはお好きですか?
「好きで毎日飲んでいる」という方は、ぜひそのうちの1杯に、シナモンパウダーをプラスしてみてください。
これだけで、血管の若返り効果が、ぐんとパワーアップするからです。
私は、血管について20年以上研究していますが、中でも特に注目しているのは「毛細血管」についてです。
毛細血管は、髪の毛の約10分の1程度の太さしかありませんが、全血管の95~99%を占めており、全身の細胞に酸素や栄養分を届け、老廃物を回収して静脈へ送る重要な働きを担っています。
毛細血管は「血管内皮細胞」というごく薄い細胞の層と、その外側を取り囲む壁細胞(ペリサイト)から成っています。
しかし、この毛細血管の構造は、生活習慣などによって、すぐに劣化します。
例えば、高血糖の状態が続くと、内皮細胞から活性酸素(体内で増え過ぎると細胞を傷つけ老化の一因となる物質)が発生して、壁細胞がはがれます。すると、内皮細胞同士の接着がゆるくなって、血管に隙間ができ、そこから血液がもれだしてしまいます。

劣化すると壁細胞がはがれ、内皮細胞同士の接着がゆるくなり、隙間ができてしまう。
加齢によっても、毛細血管は劣化します。
壁細胞は、「アンジオポエチン1」というたんぱく質を分泌しています。アンジオポエチン1は、内皮細胞のタイツー(Tie2)という分子を活性化させて、細胞同士の接着を促しています。
しかし、アンジオポエジン1の分泌は、加齢とともに減ってきます。すると、やはり壁細胞がはがれ、血管に隙間ができやすくなるのです。
こうして毛細血管が傷んでしまうと、全身の細胞に酸素や栄養素が十分行き渡らなくなります。
毛細血管の内部は、外部よりも圧力が高くなっており、その圧力差によって、毛細血管から酸素や栄養素が飛び出し、組織の深部にまで届けられます。
毛細血管の隙間が広がれば、当然、血管内外の圧力差も小さくなります。その状態で、組織に酸素や栄養素を行き渡らせなくてはいけなくなるため、血圧も上がります。また、隙間から余分な水分がもれ出るため、むくみやすくもなります。
血管を若返らせる最高の組み合わせ
シナモンは、この毛細血管の劣化の予防・改善に有効です。
シナモンの成分である「βシリンガレシノール」は、アンジオポエチン1と同様、タイツーを活性化させる働きがあることが報告されています。
タイツーが活性化すると、まず内皮細胞の隙間が狭まります。その後、離れてしまっていた壁細胞も隙間へ足を延ばして、細胞間の接着を強固にし、傷ついていた毛細血管が復活するのです。

シナモンをとるとタイツーが活性化し、内皮細胞同士の接着が強固になり、壁細胞も内皮細胞に密着して、毛細血管が復活する。
また、コーヒーに含まれるクロロゲン酸などのポリフェノールは、活性酸素の体への悪影響を防ぎ、毛細血管を強化する働きが期待できます。ですから、シナモンとあわせてとることで、より毛細血管の若返りに役立つというわけです。
毛細血管が若返ると、肌や髪の状態もよくなり、むくみも改善します。さらに、肝臓や腎臓などの臓器の機能の向上が期待できます。
また、近年の研究では、毛細血管の状態は、骨粗鬆症や認知症などの病気と深い関連があることがわかっています。
シナモンコーヒーは、1日に1~2杯程度、食間に飲むとよいでしょう。コーヒーにシナモンパウダーを振り入れるだけなので、とても簡単に作れます。
シナモンパウダーの量は、好みで構いません。ただ、シナモンは、一度に大量にとり過ぎると、肝機能へ悪影響を及ぼす恐れがあるので、1日にティースプーン半分弱(0.5g)以下にとどめてください。
シナモンにアレルギーのある人や、妊娠中の人、肝臓に疾患のある人は避けた方がよいでしょう。
なお、シナモンのタイツー活性化効果は、比較的長く持続します。ですから、シナモンコーヒーは、2~3日に1杯飲む程度でも、十分効果が期待できます。仕事や家事の合間などに、楽しみながら飲んでください。

この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。
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