大脳の内側には、注意力や認知力が働くために重要な帯状回という部分がありますが、カフェインはここを活性化することがわかっています。やる気や意欲を高めるドーパミンという神経伝達物質の量を増やしたり、働きを高めたりする作用もあり、脳の活性化に役立つと考えられています。【解説】篠浦伸禎(東京都立駒込病院脳神経外科部長)

解説者のプロフィール

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篠浦伸禎(しのうら・のぶさだ)

東京都立駒込病院脳神経外科部長。1958年生まれ。東京大学医学部卒業後、富士脳障害研究所、都立荏原病院を経て、2009年より現職。脳の覚醒下手術では、日本トップクラスの成績。新刊『統合医療の真実』(きれい・ねっと)好評発売中。

脳の働きを助け活性化に役立つ

近年では、科学的な研究により、コーヒーにさまざまな健康効果があることがわかってきています。私の専門である、脳に対する効果を中心にお話ししましょう。

コーヒーが眠気覚ましに役立つことは広く知られています。この覚醒作用は、コーヒーに含まれるカフェインが、脳の働きを助けることで得られます。

カフェインは、他にもさまざまな脳への効果をもたらします。まず、カフェインには、脳の注意力や認知力を高める作用があります。大脳の内側には、注意力や認知力が働くために重要な帯状回という部分がありますが、カフェインはここを活性化することがわかっています。

カフェインには、やる気や意欲を高めるドーパミンという神経伝達物質の量を増やしたり、働きを高めたりする作用もあります。この働きも、脳の活性化に役立つと考えられています。

こうしたカフェインの働きが中心となって、コーヒーがいくつかの病気の予防効果をもたらすことがわかってきました。

2010年に発表された論文では、大規模な比較試験の結果、コーヒーがパーキンソン病の予防に役立つと結論づけています。約100万人を約10年間追跡したところ、1日に4杯以上コーヒーを飲む人は、コーヒーを全く飲まない人に比べて、パーキンソン病になりにくいという結果が出たのです。

パーキンソン病は、脳内のドーパミンの減少がきっかけとなって発症します。コーヒーのパーキンソン病予防効果は、カフェインがドーパミンの減少を抑えたり、働きをよくしたりすることによって発揮されると考えられます。

同年に発表された別の論文では、コーヒーを飲む人と飲まない人を比較した大規模試験により、コーヒーの飲用がアルツハイマー病を含む認知症の予防につながると述べています。

ラットを使った動物実験でも、カフェインを与えた群は与えない群に比べ、認知症の発症に深く関わる「アミロイドベータ」という物質が減ったと報告されています。

ストレスの軽減や動脈硬化の抑制にも

さて私は、カフェインが脳の血流に与える影響を調べてみました。18人の被験者に250mgのカフェインを服用してもらい、その5分後に2分間、迷路のクイズをやってもらいます。

その間に、脳の前頭葉(思考や行動などをつかさどる部分)の毛細血管の血流と、酸素飽和度(血液に含まれる酸素濃度の程度)を調べたのです。比較のため、水の飲用後も同様に計測しました。

その結果、18人中15人の血流や酸素飽和度が、水のときと比べて明らかに上昇しました。つまり、カフェインによって、前頭葉の働きがよくなるという結果が出たのです。

画像: コーヒーは脳のリフレッシュにも最適。

コーヒーは脳のリフレッシュにも最適。

カフェインの作用を中心に述べてきましたが、他にもコーヒーには、動脈硬化の抑制に役立つ「コーヒーポリフェノール」と呼ばれる有効成分が含まれています。コーヒーを飲めば、カフェインとポリフェノールの両方の効果が得られるわけです。

コーヒーには、ストレスを軽減する効果や、糖尿病や肝臓がんの予防効果、脳卒中(特に女性)や神経膠腫という脳腫瘍の発症を減らす効果などもあることがわかっています。

2012年、世界的に有名な医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に、コーヒーを飲むことでさまざまな病気が1〜2割減少するという論文も出ました。コーヒーの飲用は、脳をはじめ、全身の健康のために役立つといえるでしょう。

さまざまな論文には、1日4杯程度のコーヒーを飲んだ場合の結果が報告されていますが、無理にそれだけ飲む必要はないでしょう。これまで飲んでいなかった人は、まずは1〜2杯から、コーヒーが好きな人は3〜4杯程度を目安に、日々の習慣にしてはいかがでしょうか。

コーヒーで目がさえる人や頻尿になる人は、夜は避けた方がよいでしょう。胃が弱い人は、空腹時に多く飲むのは避けるとよいかもしれません。

なお、少量のミルクを入れるのは差し支えないでしょうが、健康のため、砂糖は入れないで飲むことをお勧めします。

私もコーヒーは好きで、毎日3杯程度飲んでいます。朝食時と昼食後に飲むほか、午後3〜4時のちょっと脳が疲れたときにも飲みます。すると、脳が活性化するので、その後も活動的に仕事をすることができます。

コーヒーをおいしく飲みながら、脳のリフレッシュに、また病気予防に役立ててはいかがでしょうか。

画像: この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。

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