解説者のプロフィール

岡希太郎(おか・きたろう)
1941年東京都出身。東京薬科大学名誉教授。東京薬科大学卒業、薬学博士(東京大学)。スタンフォード大学医学部留学。定年間近にコーヒー研究にはまり、コーヒーの効果について精力的に発信を続ける「コーヒー博士」。著書に『珈琲一杯の薬理学』(医薬経済社)、『がんになりたくなければ、ボケたくなければ、毎日コーヒーを飲みなさい』(集英社)などがある。
「コーヒーは体に悪い」は大間違い
「コーヒーが好きで、習慣的に飲んでいる」という人は多いでしょう。
しかし、もしかすると、その中に「体にはあまりよくない」と思いながら飲み続けている人もいるかもしれません。
それは、とんでもない誤解です。コーヒーには、体によいさまざまな効果があります。そのことは、古くから知られてきたのに加え、近年は世界各地の研究でも明らかになっています。
もともと、コーヒーの起源は「薬」でした。アフリカからアラビアに持ち込まれたコーヒーは、元気の出る秘薬として珍重されたのです。
その後、ヨーロッパに広まり、胃の不調や痛風、浮腫(むくみ)などに効くと言われるようになりました。
近代になって、コーヒーからカフェインが分離され、利尿薬や眠気覚ましとして使われ始めました。そして最近では、カフェイン以外にも重要な成分が含まれることがわかってきています。
コーヒーには、ポリフェノールの仲間が多く含まれています。ポリフェノールが体によい働きをすることは、今では皆さん、よくご存じでしょう。
その主要な働きは、体内でできる有害な活性酸素を除去する「抗酸化作用」です。それを通じて、動脈硬化の抑制やがん予防などに効果を発揮します。
コーヒーのポリフェノールとして有名なのは「クロロゲン酸」です。特に、浅煎りのコーヒー豆にはクロロゲン酸が多く含まれ、それがコーヒーに抽出されます。
深く煎るほどクロロゲン酸は分解されますが、その結果、ピロカテコールという別のポリフェノールができます。ですから、浅煎りでも深煎りでも、コーヒーにはポリフェノールが豊富に含まれるのです。
コーヒーには、他にもポリフェノールの仲間が含まれ、それらを総称して「コーヒーポリフェノール」と呼んでいます。
また、コーヒーの成分として最も有名なカフェインにも、抗酸化作用がありますが、単独でとるよりも、コーヒーポリフェノールと一緒にとることで、相乗効果でその作用がぐんと高まることがわかっています。
健康維持に欠かせないコーヒーのニコチン酸
さて、コーヒーの有効成分といえば、カフェインとコーヒーポリフェノールがよく取り上げられますが、実は、もっと注目したい重要な成分が含まれています。それは「ニコチン酸」です。
ニコチン酸は、ビタミンB群の一種です(タバコのニコチンとは無関係です)。ニコチン酸と、その仲間の「ニコチンアミド」という成分を合わせて「ビタミンB3」、または「ナイアシン」とも呼ばれます。
ビタミンB3のうち、肉や魚などの動物性食品に含まれるのがニコチンアミド、コーヒーのような植物性食品に含まれるのがニコチン酸です。
ニコチン酸の多い食品は少なく、コーヒー以外では、キノコの一種のヒラタケや、ピーナッツくらいです。
ニコチン酸は、ビタミンAやビタミンCなどに比べ、ビタミンとして意識されることは少ないのですが、体内で非常に重要な働きをしています。
体内では、ニコチン酸から「NAD」という物質ができます。私たちの細胞内では、ミトコンドリアという器官で体のエネルギー(ATP)が作られていますが、そのエネルギーが作られるために不可欠なのが、NADです。
NADがないと、私たちは死んでしまいます。不足すると、死なないまでも元気がなくなり、物忘れがひどくなり、不眠、消化不良、肌荒れ、日焼けしやすい(紫外線に弱くなる)など、さまざまな不調が出てきます。

▲浅煎りのコーヒー。ライトロースト、またはシナモンローストといわれる焙煎段階のものが、クロロゲン酸を多く含む。

▲深煎りのコーヒー。フルシティロースト、フレンチローストといわれる焙煎段階のものが、ニコチン酸を多く含む。
●コーヒーポリフェノール
抗酸化作用が強く、動脈硬化の抑制やがん予防などに役立つ。有名なものはクロロゲン酸で、コレステロール値の低下作用や食後血糖値の上昇を抑える作用などが報告されている。クロロゲン酸は浅煎りのコーヒーに多く含まれる。
●カフェイン
眠気覚まし作用があることで有名な成分。利尿作用や脂肪燃焼作用がある。また、コーヒーポリフェノールと共同して働くことで、抗酸化作用を強め、体の炎症を鎮める。焙煎による量の変化はない。
●ニコチン酸
ビタミンB3、ナイアシンとも呼ばれる。体内でエネルギーを作り出すのに必要な物質「NAD」の元となる成分。また、脂肪代謝を改善し、動脈硬化を防ぐアディポネクチンというホルモンや、善玉コレステロールを増やす働きもある。免疫力の維持にも役立つので、コロナ禍の現在、積極的にとりたい成分。深煎りのコーヒーに多く含まれる。
ニコチン酸もニコチンアミドも、同じビタミンB3なので、「肉や魚をとっていればNADはできる」と考える人もいます。しかし、ここに落とし穴があります。
高齢になるほど、体内ではニコチンアミドが使えなくなり、ニコチン酸しか役立たなくなります。前述の通り、ニコチン酸が含まれる食品は限られるので、お年寄りはニコチン酸不足になりやすいのです。
特に、現代のような超高齢社会では、ニコチン酸不足の人が増加する一方と考えられます。現在、老化や認知症と思っている症状が、実はニコチン酸不足というケースもかなり多いのではないかと、私は疑っています。
ニコチン酸は、免疫力(病気に対する抵抗力)維持のためにも必要です。高齢者が、新型コロナ感染症で重症化しやすい理由はたくさんあるでしょうが、その中の一つはビタミンB3不足とも考えられます。
歴史をさかのぼれば、抗生物質が普及する前には、感染性の肺疾患に、ニコチン酸を投与していました。そこで最近は、「ニコチン酸などのビタミンB3には、新型コロナ感染症の治療薬としての可能性がある」とする論文も出ています。
「そんなに重要な成分なら、ビタミン剤で補えばいい」と思う人もいるでしょう。しかし、経済的な事情(あまりお金にならない)のため、臨床現場や市場から、ニコチン酸は消えつつあります。
一般的な総合ビタミン剤などには、ビタミンB3は入っていないか、入っていたとしてもニコチンアミドです。
この状況の中で、手軽に効果的にニコチン酸がとれるほぼ唯一の手段が、コーヒーです。
もともとコーヒー豆に含まれるトリゴネリンという成分が、焙煎の過程でニコチン酸に変わります。そのため、深煎りコーヒーの方が、ニコチン酸を多く含みます。
条件にもよりますが、深煎りコーヒー1杯には、最大5mgのニコチン酸が含まれます。同じ量をとるのに、ヒラタケなら半パック、ピーナッツなら大粒30粒が必要です。
いい条件で入れたコーヒーなら、成人男性は3杯、女性は2杯で1日に必要なニコチン酸がとれます。これほど手軽でおいしいビタミン補給法はないでしょう。
深煎りコーヒーは苦手という人は、浅煎りでも構いません。手間をかけたくない人は、インスタントコーヒーでもよいでしょう。これらの場合、ニコチン酸の量は3分の1から5分の1程度になりますが、補給には役立ちます。
動脈硬化を予防しダイエットにも役立つ
他にもコーヒーには、カフェイン、ポリフェノール、ニコチン酸などの働きを通じて、以下のような効用があることがわかっています。
●がんの予防・悪化防止
コーヒーは、特に肝臓がんに対する高い予防効果を発揮します。他のがんも、治療後にコーヒーを飲み続けた場合のほうが再発や転移のリスクが抑えられるという論文があります。
●肝臓病の予防・悪化防止
アルコール性肝炎、非アルコール性肝炎、肝硬変などの予防や悪化防止、ウイルス性肝炎の進行抑制などにコーヒーが役立つことがわかっています。
●動脈硬化予防
コレステロールには、動脈硬化を進める悪玉と抑制する善玉があります。動脈硬化対策としては、後者を増やすことが重要ですが、そういう働きを持つことがわかっている成分は、現在、ニコチン酸だけです。ですから、ニコチン酸のとれるコーヒーは、動脈硬化予防にも効果的です。
●ダイエット
コーヒーポリフェノールは、糖の吸収を遅くし、脂肪の燃焼を促します。カフェインも脂肪燃焼を促進します。ダイエット目的の場合、食後でなく食前にコーヒーを飲むと効果的です。
この他、コーヒーは、糖尿病の予防や改善、認知症のリスク低下、シミ予防、腸内細菌の調整や活性化などにも役立つことがわかっています。

コーヒーにはうれしい効果がいっぱい
●がんの予防・悪化防止
●肝臓病の予防・悪化防止
●動脈硬化を予防
●ダイエット
●糖尿病の予防・改善
●認知症のリスクを下げる
●シミを予防する
●腸内細菌を調整し、活性化する
体によくておいしい淹れ方
このように体によいコーヒーを、効果的においしく飲むには、どうすればよいでしょうか。お勧めしたいのは、「濃く淹れて薄める」方法です(淹れ方は後述)。
ちょっともったいなく感じるかもしれませんが、こうすると、手間をかけずに、雑味のないおいしいコーヒーが飲めます。しかも、コーヒーに含まれるよい成分だけを、抽出できます。
実はコーヒーには、ジテルペン類などの体によくない成分もいくつか入っていますが、この方法だと、それらをかなり取り除くことができます。
こうして入れたコーヒーをそのまま飲む、アイスクリームにかける、水や氷で薄めてアイスコーヒーにするなど、自由に楽しんでみてください。
もちろん、他の好きな方法で飲んだり、インスタントコーヒーを飲んだりしても結構です。ただ、砂糖やミルクはできるだけ入れないようにしましょう。
コーヒーを健康づくりに役立てるための1日量は、特に決まっていませんが、目安は1〜3杯と考えればよいでしょう。
お子さんも、コーヒーを飲んでいけないことはありませんが、量は大人の半量を目安にしてください。妊婦さんは、カフェインの影響を考えて、コーヒーは控えるか、デカフェ(カフェイン抜き)にしましょう。
寝る前に飲むと眠れなくなる人や、夜間頻尿になる人には、早い時間に飲むことをお勧めします。
ぜひコーヒーをおいしく楽しんで、健康の維持・増進、病気の予防・改善、アンチエイジングなどにお役立てください。
コーヒーのホントにおいしい淹れ方
【用意するもの】
・コーヒー粉……10g
・お湯(80~90℃)……100ml程度
・ペーパーフィルター、ドリッパー、カップ
※数杯分をまとめて入れてもOK。その場合はコーヒー粉やお湯の量を杯数分増やす。その日のうちに飲み切れば、味は変わらない。

❶コーヒー粉をペーパーフィルターに入れ、ドリッパーにセットし、カップに乗せる。

❷お湯を10ml(湯がカップに少し落ち始めるくらい)注ぎ、そのまま少し蒸らす。
※蒸らし時間はお好みで。数秒でもOK。

❸②にさらにお湯を30ml程度注ぎ、抽出する。

❹③にお湯を加え、好みの濃さに薄める(お湯の量は60mlが目安)。

◎出来上がり!
アイスコーヒーにしたい場合は、氷で薄めてください。
〝ちょい足し〟コーヒーレシピ
いずれも、インスタントコーヒーで作っても構いません。ぜひお試しを!
■■ シナモンコーヒー ■■

毛細血管を強化し肌や髪を若返らせる。

●材料(1杯分)
コーヒー……1杯
シナモンパウダー……適量
●作り方
コーヒーにシナモンパウダーを振り入れる。混ぜながら飲む。
※シナモンパウダーは入れ過ぎないように。1日の摂取量は、ティースプーン半分(0.5g)以内で。
■■ 緑茶コーヒー ■■

ダイエットに最適!マイルドな味わい。

●材料(1杯分・250~300ml)
コーヒー……125~150ml
緑茶……125~150ml
※コーヒー、緑茶はホットでもアイスでもOK。
●作り方
コーヒーと緑茶を混ぜる。
■■ おからコーヒー ■■

やせホルモンの分泌を高める。

●材料(1杯分)
コーヒー……1杯
おからパウダー……小さじ1
●作り方
コーヒーにおからパウダーを入れ、よく混ぜる。混ぜながら飲む。

よく混ぜるとこんな感じに!
■■ オメガ3コーヒー ■■

コレステロール値や血圧を下げる。

●材料(1杯分)
コーヒー(濃いめに入れたもの)……30ml
無脂肪乳または低脂肪乳(温めたもの)……150ml
オリゴ糖……小さじ1~2(入れなくても可)
オメガ3オイル(アマニ油、エゴマ油など)……小さじ1
●作り方
全ての材料を合わせる。好みでシナモンパウダーを振る。
■調理・スタイリング/古澤靖子

この記事は『安心』2021年4月号に掲載されています。
www.makino-g.jp