解説者のプロフィール

小泉久仁弥(こいずみ・くにや)
医療法人社団さかもと会理事長・くにやクリニック院長。1985年、岩手医科大学医学部卒業。福島医科大学、国立療養所翠ヶ丘病院、北里研究所東洋医学総合研究所に勤務。95年、昭和大学より生薬(漢方薬)と肝臓の薬物代謝酵素関連の研究で医学博士号を受ける。その後、東京都立大塚病院東洋医学科勤務を経て、2000年に「くにやクリニック」を開業。診療科目は漢方内科・内科・アレルギー科。日本東洋医学会指導医、日本医師会認定産業医。
▼くにやクリニック(公式サイト)
生命力をためる働きが弱っている状態
私は、漢方内科のクリニックを開業しています。訪れる患者さんのさまざまな症状を、東洋医学的な見地から診断し、必要に応じて漢方薬を処方しながら治療に当たっています。
西洋医学では、科学的な診断で病名や症状名をつけ、それをもとに治療法を選択するので、頻尿と尿もれは、異なるものとされます。
しかし漢方では、頻尿と尿もれという症状は、だいたい同じものとして扱われます。その人の訴えや、現れている症状から体質を診断して、漢方的に分類し、治療するからです。
頻尿や尿もれは、多くの場合「腎虚(じんきょ)=腎が衰え弱っている状態」と考えられます。
といっても、腎は、西洋医学的な腎臓という意味そのままではありません。腎臓を含む泌尿器系、生殖器系や、内分泌系、免疫系、中枢神経系の一部の機能などを指す、もっと大きな概念です。腎には成長を支え、生命力をためる働きがあります。
頻尿や尿もれの場合、たいていは腎虚ですが、「気鬱(きうつ)」により起こるケースもあります。
気は、動きがあって形のない一種の生命エネルギーのこと。鬱は、滞りという意味です。つまり気鬱は「体内の巡りが停滞している状態」を指します。
頻尿や尿もれの症状があり、腎虚で泌尿器系の働きが低下している。気鬱で体内の巡りが悪い。そうした人は、ほぼ間違いなく、冷えも発症しています。
ですから、頻尿や尿もれの改善には、体の内から外から、冷えを取り除くことが肝心です。
「五行説」というのを、聞いたことがあるでしょうか。万物を五つの要素に分類し、その関係性を説いた、漢方の基本理論の一つです。
これによると、腎は、五行の「水」のグループに属します。膀胱とかかわりが深く、水の巡り(水分代謝)をつかさどります。病気になりやすい気候を示す五悪によれば、腎は寒(冬)に弱く、色を当てはめた五色にのっとると、黒が相関します。
漢方で「腎を補うには、黒い食べ物をとり、体を温めるのがよい」とされるのは、こうした説に基づく養生論なのです。
体の外からも温めれば改善がより早まる
「黒い食べ物」を具体的に挙げると、黒豆や黒米、小豆、黒ゴマ、黒キクラゲ、コンブなどの海藻。シイタケ、ゴボウ、ウナギやカキも含まれます。調味料なら、みそや黒砂糖も仲間です。
漢方的には、こうした黒い食べ物を積極的にとることが、腎を養うと考えられています。
特に中高年の頻尿や尿もれ、手足の冷えなど、主に腎の衰えからくる症状に効く漢方薬に、「八味地黄丸」があります。8種類の生薬(漢方薬の材料)を練り合わせた丸薬で、これも、色は真っ黒です。
そういえば、色こそ違いますが、ヤマイモもお勧めです。
というのも、ナガイモを含むヤマイモは、主要な生薬の一つであり、山薬(山で採れる薬の意)という名で八味地黄丸にも用いられているからです。滋養強壮作用に優れています。精がつくことから、日本でも「山のウナギ」と称されますね。
また、やはり五行説でいう五つの食性のうち、温性に当たる食材は、体を温めます。火を通した牛肉や羊肉、イワシ、クルミ、松の実やクコの実、ニラや春菊、ネギ・ニンニクなどの香味野菜をとると、冷えの解消に役立ちます。
漢方の概念は、先人たちの長年の経験から導き出された知恵を、理論化したものです。こうした食材を、意識して食生活に取り入れることで、腎が補われ冷えが解消し、頻尿や尿もれの改善に効果が現れるでしょう。

黒豆やコンブ、ゴボウなど「黒い食べ物」がおすすめ。
体を外側から温めるなら、カイロを貼るのもお勧めです。位置は腎臓がある腰の少し上や、膀胱がある、へその下が最も適しています。
「腎を養い体を温める」といった漢方的なセルフケアに加え、運動療法も行うと、より早い改善が期待できます。お勧めは、膀胱を支えたり尿道を締めたりする筋肉群・骨盤底筋を鍛える体操です。
ただ、患者さんに「尿道を締めるイメージで」と話しても、なかなか伝わりません。そこで私は、実際にトイレで排尿している最中に、尿を止めてみるよう勧めています。何回か試すと感覚がつかめるようです。
[別記事:尿もれや頻尿におすすめの骨盤底筋体操→]
頻尿や尿もれの患者さんにはこれまで述べたような指導に加え、必要に応じて漢方薬を処方します。ほとんどのかたは、よくなっていると思われます。というのも治ると、話題にするのが恥ずかしくなるのか、症状について触れなくなるからです。
頻尿や尿もれの症状がある人はぜひ、できることから始めてください。続ければ、いい効果が現れるでしょう。
一つ付け加えると、夜間頻尿があり、泌尿器科で診てもらっても治らない場合、まれに、心臓の病気が隠れていることがあります。そうしたかたは、一度循環器科も受診してみることをお勧めします。
黒い食材で体ポカポカ!
頻尿・尿もれ解消レシピ
監修/小泉久仁弥(くにやクリニック院長)
料理/竹内ひろみ(料理家・栄養士・国際中医薬膳師)
スタイリング/北舘明美 栄養計算/平野信子(管理栄養士)
黒豆としらすの混ぜご飯

エネルギー:381kcal 塩分:1.1g(各1人分)
水分代謝をよくする黒豆がぎっしり!
【材料】(2人分)
黒豆…30g
しらす干し…40g
米…1合
水…200ml
塩…少々
酒…大さじ1
ゴマ油…小さじ1
【作り方】
❶黒豆は弱火で2~3分乾炒りする。
❷炊飯器の内釜に①と、といだ米を入れ、30分ほど浸水し、塩と酒を加えて普通に炊く。
❸フライパンにゴマ油を入れ、しらす干しを軽く炒めて②に加え混ぜ、器に盛る。
黒米のみそ雑炊

エネルギー:207kcal 塩分:2.6g(各1人分)
色鮮やかで赤飯のよう!胃に優しいおいしさ
【材料】(2人分)
黒米ご飯…200g
※白米1合に対し黒米大さじ1と200mlの水を入れ、普通に炊く。
シイタケ…2個
ネギ…1/2本
春菊…1本
だし…600ml
みそ…大さじ2
松の実(あれば)…適宜
【作り方】
❶シイタケは石突きを取り粗みじんに切る。ネギも粗みじん切り。春菊は1cm幅に切る。
❷鍋に、①の春菊以外と黒米ご飯、だしを入れ、弱火で10分ほど煮る。
❸みそを入れて混ぜ、ひと煮したら春菊を加え、さっと混ぜて火を止める。
❹器に盛り、松の実を散らす。
コンブと豚肉の煮物

エネルギー:235kcal 塩分:1.6g(各1人分)
だし用コンブが大変身!むくみ取りに効く
【材料】(2人分)
コンブ(乾・15×7cm程度)…2枚
豚もも肉(薄切り)…200g
ショウガ…1/2片(5g)
クコの実(あれば)…適宜
Ⓐ酒、しょうゆ、みりん…各大さじ1
砂糖…小さじ1と1/2
【作り方】
❶コンブは水で戻して細切りにする(戻し汁は取っておく)。豚肉は食べやすい大きさに切り、ショウガはせん切りにする。
❷鍋に①と、コンブの戻し汁100ml、Ⓐを入れ、落し蓋をする。アクを取りつつ弱火で10~15分煮たら、火を止める。
❸余熱で味を染み込ませ、器に盛り、クコの実を散らす。
黒キクラゲ入り和風ハンバーグ

エネルギー:266kcal 塩分:1.3g(各1人分)
優秀食材キクラゲがふんわり肉だねにたっぷり!
【材料】(2人分)
黒キクラゲ(乾)…12g
タマネギ…1/2個(100g)
ピーマン…1個
ゴマ油…小さじ2
塩…小さじ1/2弱
コショウ…適量
グリーンリーフ(あれば)、ポン酢(好みで)…各適宜
Ⓐ鶏ひき肉…140g
木綿豆腐…100g
パン粉…大さじ1
溶き卵…大さじ2
【作り方】
❶黒キクラゲはぬるま湯で戻し、タマネギ、ピーマンとともに粗みじんに切る。
❷フライパンにゴマ油を入れ、①を炒め、分量の半分ほどの塩を振る。
❸ボウルに②とⒶを入れてよく混ぜ、残りの塩と、コショウを加えてさらに混ぜる。
❹③を6等分し円盤型に成形して、②のフライパンで、両面を焼く。
❺焼き色がついたら、グリーンリーフとともに器に盛る。好みでポン酢を添える。
蒸しカキのキノコあんかけ

エネルギー:75kcal 塩分:2.1g(各1人分)
黒い食材の仲間のカキは肌も整える
【材料】(2人分)
カキ(生食用)…80g
片栗粉(下処理用)…適量
干しシイタケ…2個
シメジ…1/2株(80g)
マイタケ…1/2株(50g)
片栗粉(とろみつけ用)…小さじ1
大根おろし…1/8本分
Ⓐ酒…大さじ1
塩、コショウ…各適量
Ⓑ塩…ひとつまみ
しょうゆ…小さじ2
【作り方】
❶カキに下処理用の片栗粉をまぶし、軽くもみ、流水でよく洗う。干しシイタケはぬるま湯で戻して石突きを取り、細切りにする(戻し汁は取っておく)。
❷シメジは石突きを取り、マイタケとともに小房に分ける。
❸鍋に①のカキとⒶを入れ、弱火で2~3分煮たら、カキを取り出す。
❹③の鍋に、キノコ類と、①の戻し汁100ml、Ⓑを入れ、5分ほど煮る。片栗粉を同量の水で溶き入れ、とろみをつける。
❺③で取り出したカキを器に盛り、④をかけ、軽く絞った大根おろしを添える。
ワカメとエビのナムル

エネルギー:78kcal 塩分:2.1g(各1人分)
ワカメをふんだんに食べられる一品
【材料】(2人分)
ワカメ(塩蔵)…20g
むきエビ…80g
キャベツの葉…1~2枚
すり黒ゴマ…適量
Ⓐ酒、水…各大さじ1
塩…少々
Ⓑオイスターソース…大さじ1弱
酢…大さじ1
コチュジャン、しょうゆ…各小さじ1
【作り方】
❶ワカメは水で戻し、食べやすい長さに切る。キャベツも食べやすく切る。
❷フライパンに、①のキャベツとエビ、Ⓐを入れて蒸し煮にする。
❸ボウルに①のワカメと②を入れ、Ⓑで和える。
❹器に盛り、すり黒ゴマを振る。
ノリの具だくさんスープ

エネルギー:47kcal 塩分:1.9g(各1人分)
体の巡りを促すミネラルが豊富!
【材料】(2人分)
ノリ…全形(21×19cm)の1/2枚
油揚げ…1/2枚
ネギ…1/2本
エノキダケ…1/2株(50g)
豆苗…1/3袋(30g)
だし…400ml
Ⓐしょうゆ…小さじ1
塩…小さじ1/2
みりん…少々
【作り方】
❶油揚げは熱湯で油抜きして、せん切りにする。ネギは斜め薄切り、エノキダケは石突きを取ってほぐし長さ半分に、豆苗は食べやすい長さに切る。
❷鍋に、①の豆苗以外と、だし、Ⓐを入れ、10分ほど煮たら豆苗を加えて火を通す。
❸器に盛り、ちぎったノリを散らす。
ゴボウのポタージュ

エネルギー:135kcal 塩分:1.0g(各1人分)
体を温める根菜は冷えに著効
【材料】(2人分)
ゴボウ…1/2本
タマネギ…1/4個(50g)
マッシュルーム(生・ブラウン)…4個
ジャガイモ…1/2個(50g)
オリーブオイル…大さじ1 塩…少々
スープ(コンソメなど好みで)…300ml
牛乳…50ml(好みで調整)
塩、コショウ…各少々
刻みパセリ(あれば)…適宜
【作り方】
❶ゴボウ、タマネギ、マッシュルーム、ジャガイモは薄切りにする。
❷鍋にオリーブオイルを熱し、①のゴボウとタマネギを入れ、塩を振りながらよく炒める。
❸①のマッシュルームとジャガイモを加えて炒め合わせ、スープを加え、15分ほど煮る。
❹③の粗熱を取りミキサーにかけ、牛乳を加えてとろみをつける。塩、コショウで調味して器に盛り、刻みパセリを散らす。
ミックスナッツの黒糖衣

エネルギー:251kcal 塩分:0.0g(各1人分)
老化予防にお勧め!あとをひくおいしさ
【材料】(2人分)
ミックスナッツ(無塩)…60g
黒砂糖…大さじ4
水…小さじ1
シナモン(好みで)…適宜
【作り方】
❶ミックスナッツはフライパンで軽く炒る。
❷小鍋に黒砂糖と水を入れて中火にかけ、よく混ぜつつ、ふつふつするまで加熱する。
❸弱火にして①を入れてかき混ぜ、鍋底から少し離れるくらい固まってきたら火を止める。
❹クッキングシートの上に③を広げ、シナモンを振り、冷めたら器に盛る。
白玉入り黒ゴマ汁粉

エネルギー:348kcal 塩分:0.1g(各1人分)
薬効高い黒ゴマ&小豆とココナッツミルクが好相性
【材料】(2人分)
●汁粉
黒練りゴマ…大さじ1
つぶあん(加糖・市販品)…120g
ココナッツミルク、水…各100ml
黒砂糖…大さじ2
●白玉
白玉粉…20g
水…20ml弱
チャービル(あれば)…適宜
【作り方】
❶小鍋に汁粉の材料をすべて入れ、中火にかけ、よく混ぜつつ、ふつふつするまで加熱する。
❷白玉粉に分量の水を加えて練り、だんごを作る。沸騰した湯に入れ、浮いてきてからさらに1分ほどゆで、水に取る。
❸器に①と②を合わせて盛り、チャービルを飾る。

この記事は『壮快』2021年4月号に掲載されています。
www.makino-g.jp