夜間頻尿は原因が複合的ですが、大きく、膀胱蓄尿障害、夜間多尿、睡眠障害に分けられます。しかし、生活習慣を変えれば改善できることも多いものです。夜間頻尿で悩む人には、自身で夜間頻尿の原因が見つけられ、対策も取れる「排尿日誌」をつけることをお勧めします。【解説】髙橋悟(日本大学医学部附属板橋病院副病院長・泌尿器科部長)

解説者のプロフィール

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髙橋悟(たかはし・さとる)

日本大学医学部附属板橋病院副病院長・泌尿器科部長。1985年、群馬大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院、米国メイヨークリニックなどに勤務。帰国後、東京大学医学部助教授を経て、2005年より日本大学医学部附属板橋病院にて現職。日本大学医学部泌尿器科学分野主任教授。年間約200症例・完治率93%と全国でトップクラスの症例数と治療成績を誇る。テレビ出演なども多く、主な著書に『よくわかる前立腺の病気』(岩波アクティブ新書)などがある。

夜間頻尿の原因は主に3つ

「夜間頻尿」は、夜間に1回以上、排尿のために起きてしまい、日常生活に支障を来している状態です。高齢になるほど、夜間頻尿になる人の割合は高くなります。頻尿や尿もれよりも悩んでいる人が多いという疫学調査のデータもあります。

夜間頻尿の原因は、大きく三つに分けられます。それぞれ解説しましょう。

膀胱蓄尿障害

膀胱蓄尿障害は、膀胱が尿をためられない状態です。尿意切迫感に襲われる過活動膀胱や、前立腺肥大症などがあります。1回の尿量が少なく、昼間も頻尿症状が現れます。

夜間多尿

夜間多尿は、夜間の尿量が多い状態を指します。まず、水の飲み過ぎが考えられます。

体内に余分な水分があると、昼間は重力に従って下半身に集まり、足がむくみます。夜に横になって寝ると、下半身の水分が心臓のほうに戻り、体外に排出するように促されます。そのため、夜間に尿量が増えるのです。

また、ホルモンが原因のこともあります。本来、睡眠中は抗利尿ホルモンの働きで、尿を作る量が制限されます。このホルモンの分泌量が加齢に伴って低下することで、寝ている間にも尿が多く作られるのです。

睡眠障害

不眠症や睡眠時無呼吸症候群など、睡眠障害を抱えると、眠りが浅くなると同時に、抗利尿ホルモンが分泌されにくくなります。そのため、夜に尿意が起こりやすくなります。

また、眠りが浅くてすぐ目が覚めてしまうため、目覚めるごとに気になってトイレに行きがちになります。睡眠障害の場合、昼間はしっかり尿をためられるのに、夜間だけ1回当たりの尿量が少なくなります。

飲み水は1.5L以内にし塩分摂取も控えめに

夜間頻尿で悩む人には、「排尿日誌」をつけることをお勧めします。排尿日誌は診断のもととなりますが、患者さん自身で夜間頻尿の原因が見つけられ、対策も取れるのです。

まず、量がわかるように目盛りをつけた容器(紙コップなど)を用意し、排尿時に毎回、尿量を量って時刻とともに記録します。できれば3日つけるのが望ましいのですが、難しいなら1日(起床後~翌朝の1回めまで)でもかまいません。

そして、起床後2回め~翌朝の起床後1回めまでの尿量合計「1日の尿量」と、夜間~翌朝の起床後1回めの尿量合計「夜間尿量」を計算します。これらと毎回の尿量から、各症状の特徴が浮かび上がるわけです。

1回の尿量がたびたび200ml以下になっていたら、①の膀胱蓄尿障害が考えられます。この場合は、骨盤底筋を鍛える体操が効果的です。

夜間尿量が1日の尿量の3分の1以上ならば、②の夜間多尿が考えられます。対策には、適度な運動が有効です。下半身のむくみが解消し、夜間尿量を減らすのに役立ちます。特に、下半身の筋肉を動かす30分程度のウォーキングがお勧めです。

水分摂取量の見直しもたいせつです。健康のためにたくさん水を飲む人もいますが、夜間頻尿で困っているなら、考え直す必要があるでしょう。

標準的な1日の尿量は、体重1kg当たり20~30mlです。例えば、体重が60kgなら1日の尿量は1200~1800mlが標準です。それ以上ならば、水分のとり過ぎです。

実は、食事からの水分摂取量は意外と多いものです。お茶や水を飲む量は1日1500ml以内に収めましょう。ただし、暑い時期にのどが渇いたら、我慢する必要はありません。

また、塩分を控えるのも有効です。塩分摂取量が多ければ、血液にたくさんの水分が引き込まれます。余分な水分を出そうとするため、尿が増えるのです。

高血圧の治療では、食塩を1日6g未満に制限するように指導されます。夜間頻尿でも同様に控えるといいでしょう。

夜間多尿ではなく夜間の排尿回数が多い場合は、③の睡眠障害の可能性が高くなります。睡眠障害自体を改善する必要がありますが、先に述べた運動も役立ちます。疲労感を抱えることで、眠りが深くなるのです。

夜間頻尿は原因が複合的であり、冒頭で解説した原因のほか、糖尿病や高血圧、腎機能低下などが関係していることもあります。しかし、生活習慣を変えれば改善できることも多いものです。

「年のせい」とあきらめず、排尿日誌をつけて生活習慣を見直しましょう。

排尿の特徴で考えられる原因と対策

1回の尿量が200ml以下のことが多い
 →膀胱蓄尿障害:骨盤底筋体操が有効

夜間尿量が1日の尿量の3分の1以上
 →夜間多尿:ウォーキング、水分調節、減塩が有効

夜間多尿ではないが夜間の排尿回数が多い
 →睡眠障害:適度な運動が有効

画像: 排尿日誌をつければ、原因と対策がわかる!

排尿日誌をつければ、原因と対策がわかる!

画像: この記事は『壮快』2021年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年4月号に掲載されています。

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