解説者のプロフィール

河野春奈(かわの・はるな)
順天堂大学医学部泌尿器外科学講座特任准教授。2004年、順天堂大学医学部卒業。順天堂大学医学部泌尿器外科学講座、順天堂大学医学部附属浦安病院、江東高齢者医療センターを経て、10年、日本泌尿器科学会専門医。14年、医学博士。15年、順天堂大学医学部泌尿器外科学講座助教、日本泌尿器科学会指導医。2019年より現職。
頻尿・尿もれの原因はさまざま
トイレが近くなった、夜中に何度もトイレで起きる、トイレに行く前にもれてしまうなど、中高年になると排尿トラブルに悩まされる人が増えてきます。日本排尿機能学会の調査によると、60歳以上の男女の実に78%が、なんらかの排尿の問題を抱えていると報告されています。
排尿トラブルで代表的なのは、頻尿と尿もれです。一般的に、朝起きてから就寝までの排尿回数が8回以上、夜間は1回以上で、生活に支障が出る症状が頻尿といわれています。
原因はさまざまですが、頻尿を招く泌尿器系の病気で男女ともに多いのが、過活動膀胱です。
これは、膀胱が過敏になり、膀胱に尿が十分にたまっていないのに、自分の意志とは関係なく膀胱が勝手に収縮するという病気です。急に尿がしたくなって我慢ができず、トイレに何回も行くようになります。トイレに間に合わず、尿がもれてしまうこともあります。
また、膀胱炎などの尿路感染が起こると、膀胱の知覚神経が刺激され頻尿になります。
そのほか、数は少ないですが、膀胱の中に石ができる膀胱結石の一症状として頻尿が現れることもあります。
泌尿器以外の病気が頻尿の原因となるケースとして、まず挙げられるのが、腎機能障害(腎不全)です。腎機能が低下すると、水分を再吸収する腎臓の働きが悪くなるため、薄い尿が多量に出るようになります。
心不全の初期症状として、夜間頻尿が現れることもあります。
心臓が弱ると全身の血の巡りが悪くなり、血液の滞留やむくみが生じます。夜、横になって寝ると、全身に分布した血液や体液が体幹部に戻ります。腎臓への血流が増加するため、就寝後の尿量が増えるのです。
ホルモンの影響で頻尿を招くこともあります。尿崩症など、尿量を調節する抗利尿ホルモンが欠乏すると、薄い尿が過剰に作られて頻尿になります。
そのほか、脳梗塞、パーキンソン病、認知症など、脳や神経系の病気や、前立腺がん、膀胱がんなど重篤な病気が頻尿にかかわっているケースがあります。
また、薬が原因の頻尿もあります。利尿剤のほか、一部の降圧剤も、副作用として頻尿が現れることがあるので、持病の薬をチェックしてみましょう。

一方、尿もれは意図していないのに尿が出てしまう症状で、泌尿器系の疾患として挙げられるのは次のとおりです。
まず、尿道が緩み尿がもれる腹圧性尿失禁。骨盤底筋が加齢や出産などの影響で緩むと、くしゃみやセキ、階段の上り下り、重い荷物を持つなど、おなかに強い圧がかかったとき、耐え切れず尿もれが起こりまです。
次に、尿が出にくくなって膀胱がパンパンになり、たまった尿が少しずつもれる溢流性尿失禁があります。膀胱から尿が腎臓に逆流しダメージを及ぼすので、早急に治療が必要です。数は多くありませんが、病院で検査を受けないとわからないので、「たかが尿もれ」と軽く考えないことが重要です。
そのほか、前立腺肥大症、骨盤臓器脱などが原因で、急に尿がしたくなり、我慢できずにもれてしまう切迫性尿失禁や、運動機能の低下や認知症が原因の機能性尿失禁があります。
生活習慣が原因のケースも多い
中高年の頻尿や尿もれの原因の大半は、加齢による影響です。膀胱は尿の量に応じて毎日伸び縮みし、膀胱の周囲の排尿筋と尿道の周囲の括約筋が、それぞれ収縮と弛緩をすることで排尿を調整します。
年を重ねると、これらの筋力が衰え尿をたくさん蓄えられず、尿がもれたり排尿回数が増えたりするのです。
また、生活習慣が原因のケースも多いものです。特に多いのは、水分のとり過ぎです。利尿作用のあるカフェインを含む飲料やアルコールを多く飲む人も、排尿回数が増えます。
塩分のとり過ぎも、むくみやすくなり、特に夜間の頻尿につながります。
頻尿や尿もれの診察では、問診に加え、患者さんの排尿状況を知るために「排尿日誌」をつけてもらったり、尿の勢いや1回の排尿量・排尿時間などを測定する尿流量測定などを行ったりします。
治療は病気の種類や原因によって異なりますが、症状に応じた薬物療法が基本です。そして、生活指導も行います。
前述のとおり、生活習慣が影響していることも多いので、受診はもちろん、自身の習慣を見直すことはとてもたいせつです。
頻尿・尿もれの症状が現れる主な原因
疾患
【頻尿】
・過活動膀胱 ・前立腺肥大症 ・膀胱炎などの尿路感染 ・膀胱結石 ・腎不全、心不全 ・尿崩症 ・前立腺がん、膀胱がん ・脳梗塞、パーキンソン病、認知症
【尿もれ】
・腹圧性尿失禁 ・溢流性尿失禁 ・切迫性尿失禁 ・機能性尿失禁
疾患以外の原因
・薬(利尿剤や副作用) ・加齢 ・水分、カフェインやアルコール、塩分のとり過ぎ

この記事は『壮快』2021年4月号に掲載されています。
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