解説者のプロフィール

今井一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長。1995年、山口大学医学部卒業。2006年に福岡市博多駅前にみらいクリニックを開業後、さまざまな方法を駆使しながら、薬を使わずに体を治す独自の治療を行う。日本病巣疾患研究会副会長。「あいうべ」による息育や「足指を伸ばす」ことによる足育の普及にも尽力する。著書に『自律神経を整えて病気を治す! 口の体操「あいうべ」』、『1日4分でやせる! ゆるHIIT』(いずれもマキノ出版)など多数。
塩分濃度を上げればさらに効果がアップ
カゼやインフルエンザ、花粉症、副鼻腔炎などに有効な「鼻うがい」。最近は新型コロナウイルス対策としても、多くの研究結果が報告されています。
そこで、別記事で紹介した通常の鼻うがいに続き、ここでは新型コロナウイルスに対して、より効果的な鼻うがいのやり方を紹介しましょう。
[別記事:感染症、花粉症、副鼻腔炎に特効の鼻うがい→]
まず一つめは、「高張食塩水を使った鼻うがい」です。高張食塩水とは、生理食塩水よりも濃度が高い食塩水を指します。
昨年、イギリスから、従来のコロナを含むウイルス性のカゼ症状に関する研究が報告されました。
それによると、カゼ症状が発現してから、高張食塩水による鼻うがいを1日最大12回行った群は、鼻うがいをしなかった群と比較して、家庭内での感染が明らかに減少したというのです。数値で見ると、鼻うがいをしなかった群の家庭内感染率が66%だったのに対し、鼻うがいをした群は31%と約半分でした。
さらにセキや声がれ、鼻づまりなどの症状も、鼻うがいをした群のほうが早く改善。カゼ症状の期間は1.9日短縮、従来のコロナウイルス感染症に絞ると2.6日短縮したという結果が出ています。
これらは、上記別記事で触れた、次亜塩素酸の抗ウイルス作用が関係していると考えられます。
イギリスの別の研究では、コロナウイルスを感染させた細胞を培養したとき、食塩の濃度を高くすればするほど、増殖が抑えられるという結果が出ました。一方で、次亜塩素酸の阻害薬を入れると、増殖は抑制されないこともわかりました。
要するに、高張食塩水で鼻うがいをすれば、上皮細胞で次亜塩素酸が産生されるのを助け、ウイルスの増殖を抑制する効果が高まるということです。
濃度の高い食塩水で鼻うがいをする場合も、塩分濃度3%以下であれば、痛みは全くありません。0.9%の生理食塩水を作るときの3倍の食塩量、つまり水1Lに対し、食塩27gで作れば、塩分濃度が2.7%になってちょうどいいでしょう。
とはいえ、0.9%の生理食塩水による鼻うがいでも、効果は十分にあります。ふだんは通常の鼻うがいを行い、カゼの症状があるときや新型コロナウイルスの濃厚接触者になったときなどは高張食塩水による鼻うがいを行うのがよいと、私は考えます。
なお、高張食塩水による鼻うがいは塩分のとり過ぎになる可能性があるため、高血圧のかたは注意が必要です。

医師も毎日実践!
ベビーシャンプーなら鼻に入れても痛くない
そしてもう一つ、より短時間でウイルスを不活性化させる方法が、「ベビーシャンプー鼻うがい」です。
2020年9月、アメリカから驚きの論文が発表されました。コロナウイルスを感染させた細胞を、「食塩だけを入れた鼻うがい溶液」「マウスウォッシュ」「1%のベビーシャンプー溶液」に、それぞれ30秒〜2分間浸して、ウイルスがどれくらい死滅するかを観察した研究です。
結果は、食塩だけを入れた鼻うがい溶液は2分間浸してもウイルスが死滅しなかったのに対し、マウスウォッシュは30秒で99%死滅、1%のベビーシャンプー溶液でも30秒で90%、1分間で99%死滅したのです。
この理由は、コロナウイルスが脂肪の膜で包まれたエンベロープウイルスだからです。脂を溶かす界面活性剤やアルコールは、この脂肪の膜を壊してウイルスを死滅させます。石けんを使った手洗いやアルコール消毒がコロナウイルスに有効といわれるのは、そのためです。
この研究結果をもとに考えられるのは、鼻うがいにベビーシャンプーを使えば、コロナウイルスを死滅させることが可能だということ。
アルコールやマウスウォッシュを鼻に入れるわけにはいきません。でも、ベビーシャンプーなら、鼻に入れても痛くありません。これは、やらない手はないでしょう。
なお、一時期話題になったうがい薬のイソジンは、鼻うがいに使用するべきではありません。味覚障害や甲状腺異常を引き起こす可能性があるからです。
では、ベビーシャンプー鼻うがいのやり方を紹介しましょう。

香りの少ないベビーシャンプーがお勧め。
ベビーシャンプーは泡で出るボトルではなく、詰め替え用を購入し液体のまま使用します。
0.9%の生理食塩水200mlに、ベビーシャンプー2mlを加えたら、あとは通常と同じように鼻うがいをするだけ。
最後に0.9%の生理食塩水で「追い鼻うがい」をすると、においも残らずスッキリします。
これだけで上咽頭に付着したウイルスを90%不活化させる可能性がありますし、菌の増殖を抑制し、鼻の中を清潔に保つことにも役立ちます。
鼻うがいを多くの人が習慣化すれば、家庭内感染の抑制も、ウイルス撃退も実現可能です。くり返しますが、正しく行えば痛みは全くありません。怖がらずにぜひ実践してください。

この記事は『壮快』2021年4月号に掲載されています。
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