解説者のプロフィール

今井一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長。1995年、山口大学医学部卒業。2006年に福岡市博多駅前にみらいクリニックを開業後、さまざまな方法を駆使しながら、薬を使わずに体を治す独自の治療を行う。日本病巣疾患研究会副会長。「あいうべ」による息育や「足指を伸ばす」ことによる足育の普及にも尽力する。著書に『自律神経を整えて病気を治す! 口の体操「あいうべ」』、『1日4分でやせる! ゆるHIIT』(いずれもマキノ出版)など多数。
新型コロナの感染や重症化を防ぐセルフケア
新型コロナウイルスは、今なお世界中に脅威を与え続けています。皆さん、ふだんから手洗いや換気は心がけていらっしることでしょう。それらの対策に加えて、私がもう一つ提案したいのが、「鼻うがい」です。
鼻うがいとは、一方の鼻の穴から生理食塩水を入れ、もう一方の鼻の穴から出して、鼻腔から上咽頭にかけて洗浄するものです。
口や鼻から侵入したウイルスは上咽頭で増殖するため、上咽頭をきれいに洗浄することは、新型コロナウイルスはもちろん、カゼやインフルエンザの予防にも役立ちます。
アメリカでは多くの家庭医が、上気道感染症の治療として、鼻うがいを勧めているという報告もあります。
薬が飲めない妊婦、そもそも薬にアレルギーがある人、新型コロナウイルスにかかると重篤になる可能性のある疾患を持つ人にも、鼻うがいは有効な予防法として、お勧めできるセルフケアなのです。
では、なぜ鼻うがいがよいのでしょうか。その理由は、主に三つあります。

一つめは、前述したとおり、ウイルスの震源地である上咽頭を直接洗い流せることです。もちろんウイルスだけでなく、ゴミやチリ、花粉やハウスダストなども洗い流されます。鼻の粘膜にこびりついた鼻くそも流れるので、鼻粘膜の異物除去能力も向上します。
さらに、カゼやインフルエンザウイルスは、常在菌の酵素を借りなければ人体に侵入することができません。また、新型コロナウイルスは、感染したときに防御反応として細胞から分泌されるサイトカインという物質が暴走して、重症化を招くといわれています。
鼻うがいは、こうした常在菌やサイトカインも洗い流し、感染症の発症や悪化を防ぐことができるのです。
二つめは、線毛の機能が維持されることです。線毛とは、鼻粘膜や気管支の上皮に密集している細かい毛で、これが1秒間に10〜15回くらい波打つことで、異物を排除しています。
しかし、温度や湿度の低下、喫煙などで線毛の機能に異常が生じると、副鼻腔炎や気管支炎などが起こりやすくなります。鼻うがいは、鼻粘膜や気管支上皮に湿度を与えて、線毛の機能を維持することに役立つのです。
三つめは、次亜塩素酸の産生が促されることです。消毒薬として知られる次亜塩素酸は、実は私たちの体の中でも産生され、抗ウイルス作用を発揮しています。
これまで次亜塩素酸を産生できるのは、白血球だけと考えられてきました。ところが、イギリスで行われた研究によると、粘膜の上皮細胞にも、次亜塩素酸を作る機能があることがわかったのです。
この次亜塩素酸による抗ウイルス作用は、塩素濃度を上げることで効果が高くなります。ですから、生理食塩水を使った鼻うがいは、粘膜上皮に塩素イオンを与え、次亜塩素酸の産生を促して抗ウイルス作用を高めることができるのです。
これら三つの作用により、鼻うがいには以下の疾患に対する予防および補助治療効果が期待できます。
❶花粉症、アレルギー性鼻炎
❷急性副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎、気管支炎
❸上気道感染症
特に、③の上気道感染症のなかでも新型コロナウイルスは、感染してから発症するまで、平均5日の潜伏期間があるといわれています。たとえウイルスを吸い込んでも、細胞に取り込まれる前に鼻うがいで洗い流せば、発症を予防できる可能性は高いといえるでしょう。
鼻水と同じ塩分濃度なら痛くない
私が所属する認定BPO法人日本病巣疾患研究会では、「みんなで鼻うがいプロジェクト」を立ち上げ、鼻うがいの啓発に努めています。
鼻うがいを行ったことのない人は、最初は「怖い」「痛そう」と不安に思うかもしれません。でも、鼻水と同じ塩分濃度(0.9%)の生理食塩水で行えば、全く痛くありません。
作り方は、1Lの水に9gの塩を加えるだけ。重曹を加えると線毛の動きがよくなるという研究結果が報告されているので、可能であればそこへ重曹0.5gを加えましょう。
洗浄液は冷たいと刺激になるので、人肌程度の温度に温めて使用するのがお勧めです。一度の鼻うがいで使う量は、200〜250ml。1L作った場合は、そのつど温め、2日くらいで使い切ってください。

【用意する物】
・洗浄液を入れる容器
(先端が細くなっているドレッシング容器など)
※薬局などで、鼻洗浄用の器具を購入してもよい
・ぬるま湯…1L ・塩…9g ・重曹…0.5g
【洗浄液の作り方】
ぬるま湯に塩と重曹を加え、よく混ぜて溶かす。
※1Lで約4回分。作ったら常温で保存し、使う前に軽く温める。2日くらいで使い切る。
鼻うがいは1日1〜2回を目安に、起床時、外出先から帰ってきたときなどに行いましょう。
やり方は、片方の鼻の穴から洗浄液を入れ、もう片方の鼻の穴から出します。市販されている鼻うがい専用の器具や、ドレッシングボトルのような細いノズルがついた容器を使うのがお勧めです。
鼻から出すのが難しければ、最初は鼻ですすって口から吐き出したり、スポイトで鼻の入り口に垂らしたりする程度でもかまいません。
ただし、上咽頭まできれいに洗うには、鼻から入れて鼻から出すやり方がベストです。下を向いて「あー」と声を出しながら行うとやりやすいので、少しずつ慣らしながら、行ってみてください。
鼻が詰まっている人は、詰まっているほうの鼻から行うと、安全に行えます。
【やり方】
❶洗面台に顔を突き出し、あごを引いて、洗浄液を入れた容器を片方の鼻の穴に当てる。
❷「あー」と声を出しながら、ボトルを押して水を出し、鼻腔内を洗う。このとき、口からではなく、もう片方の鼻から出すことを意識する。反対側の鼻の穴でも、同様に行う。
※鼻から出すのが難しい場合は、口から出してもOK。
※1日1~2回、起床時や外出からの帰宅時に行う。

鼻うがいを行ったあとは、周囲や使った器具を石けんできれいに洗うことも忘れずに。
副鼻腔炎の対策として、鼻うがいを取り入れている症例は多数あります。例えば、24歳男性の患者さん。鼻が詰まるだけでなく、首から上のじんましんがひどく、頭部にもかゆみがありました。
これらの原因は上咽頭の炎症にあったのです。治療だけでなく、私が提唱するあいうべ体操や鼻うがいを日常的に取り入れてもらうことで、2ヵ月ほどで病状が治まりました。
なお、急性中耳炎や滲出性中耳炎、声帯麻痺の人、誤嚥を起こしやすい人、副鼻腔炎の症状がひどいときや膿のような鼻水が多い人、鼻に腫瘍があったり鼻の通りが極端に悪かったりする人は、鼻うがいは行わないほうがよいでしょう。

この記事は『壮快』2021年4月号に掲載されています。
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