美容鍼では、細い鍼で皮膚に小さな傷をつけ、自身の治癒力で修復する際に、皮膚のターンオーバーが促されます。しかし鍼は誰でも打てるわけではありません。そこでセルフケアとしてお勧めしているのが、複数のつまようじを使って行う、つまようじ療法です。【解説】栗本夏帆(グラン治療院東京副院長・鍼灸師・温活士)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

栗本夏帆(くりもと・かほ)

グラン治療院東京副院長。鍼灸師・温活士。(社)日本鍼灸協会理事。(社)日本温活協会会員、(社)国際抗老化再生医療学会会員、北海道科学大学サプリメント概論特別講師のほか、鍼灸や理容・美容の専門学校でも講師として、健康・美容技術者の育成に努める。近年、“食べるお灸”の研究開発に携わる。テレビやラジオ、新聞、雑誌などでの鍼灸情報の解説も積極的に行う。

重症ニキビが鍼治療とつまようじ療法で改善

2020年4月、NHKのテレビ番組『あさイチ』で、自宅で手軽にできる「つまようじ療法(美容鍼)」を紹介させていただきました。そのときは、顔のたるみを取ってリフトアップする方法をご紹介しましたが、番組を見た人からは「確かにフェイスラインがスッキリする」と大好評でした。

つまようじ療法についてお話する前に、少し「美容鍼」のことに触れておきましょう。

私たちの治療院では、美容鍼といって美容効果を高める鍼治療に力を入れています。鍼治療は体の不調や痛みの改善だけでなく、美容にも優れた効果を発揮するのです。

美容鍼に期待する効果は患者さんの年齢によって異なります。20~30代はニキビや肌荒れが多く、40代以降はほうれい線や顔のたるみ、シミ、シワ、肌のくすみといった加齢に伴う肌トラブルが多くなります。

実は私も、重度のニキビを鍼で克服した経験があります。中学生のころから増え始め、皮膚科にも通いましたが、処方してもらった薬を使うと肌が赤く腫れ、かえって悪化していました。

鍼灸師になってもニキビは治まらず、患者さんに鍼治療(美容鍼)を行う私がこんな肌では説得力がないと、一念発起。鍼治療と、今回ご紹介する、つまようじ療法でケアしたところ、半年ほどで徐々にニキビが治まりました。ニキビ跡が消えるまで1年以上かかりましたが、私のように重症でも、キレイに治ったのです。

画像: 栗本夏帆先生の治療経過:2018年3月▶︎2018年10月▶︎2019年6月

栗本夏帆先生の治療経過:2018年3月▶︎2018年10月▶︎2019年6月

美容鍼はニキビだけでなく、先にご紹介した肌のトラブル全般に効果が期待できます。

細い鍼で皮膚に小さな傷をつけると、体はその傷を自分自身の治癒力で修復します。その際に、肌に弾力やハリをもたらすコラーゲンやエラスチンといった成分が生成され、皮膚のターンオーバー(生まれ変わり)が促されます。

また、鍼の刺激は血流や水分代謝を促すので、顔色がよくなったり、むくみが取れたりして顔がスッキリします。鍼で指先を刺激したあと、血流スコープという器械で指先の毛細血管の状態を調べると、血流が改善しているのがわかります。

さらに、顔にはツボがたくさんあります。そのツボ刺激を介して、体調がよくなったり、肌質が改善したりします。

しかし、鍼は誰でも打てるわけではありません。そこでセルフケアとしてお勧めしているのが、複数のつまようじを使って行う、つまようじ療法です。

くすみやむくみが消え若々しい肌に

鍼の種類の一つに「集毛鍼」といって、皮膚に刺さない接触鍼があります。ペンのような形状で、その先端には複数の短い鍼が集合しています。

その鍼にはスプリングがついており、皮膚に当たると引っ込むので、まず刺さることはありません。皮膚の弱い赤ちゃんや高齢者の治療に使われてきました。つまようじ療法は、この集毛鍼をセルフケアとして応用したものです。

画像: 皮膚に刺さない集毛鍼

皮膚に刺さない集毛鍼

つまようじ鍼の作り方は、つまようじ20本の先端をそろえ、輪ゴムでしっかり止めるだけ。

つまようじ療法では、美容に効果的なツボや皮膚表面を、つまようじ鍼でトントンとたたいて刺激します。軽く弾ませる感じで、強さは痛気持ちいいくらいです。1ヵ所につき、1分程度でいいでしょう。特に目の近くを刺激する際は、鏡で位置を確認しながら行ってください。

一般的な鍼治療(美容鍼)と違って皮膚に刺さないので、肌の修復力を引き出す効果は劣るかもしれません。しかし、こっている筋肉をほぐして血流を促したり、ツボを刺激したりする効果は十分に期待できます。

実際、次項のような肌トラブルには効果的です。

画像: くすみやむくみが消え若々しい肌に

つまようじ療法のやり方

顔のたるみ・ほうれい線

顔のたるみの特効ツボは、「顴髎(けんりょう)」と「頬車(きょうしゃ)」。

顴髎は目尻からまっすぐに下ろした線と、ほお骨の下端の高さの線が交わるところ。頬車は下あごの角(エラ)より少しほおに入ったところで、かみしめると筋肉が盛り上がります。

これらのツボをつまようじ鍼で軽く刺激すると、ほおの筋肉がほぐれ、リフトアップ効果が高まり、フェイスラインがスッキリします。

ほうれい線のシワは、ほおの筋肉がかたくなってたるむと深くなります。ですから、顴髎への刺激は、ほうれい線の予防・改善にも役立ちます。また、ほうれい線のシワの上を直接刺激すると、血流がよくなりシワの改善につながります。

画像1: ❶顔のたるみ・ほうれい線
画像: かみしめると筋肉が盛り上がるところ。

かみしめると筋肉が盛り上がるところ。

【顔のたるみ】

画像2: ❶顔のたるみ・ほうれい線
画像3: ❶顔のたるみ・ほうれい線

顴髎と頬車の2つのツボを、左右ともそれぞれ1分ずつ、軽くトントンとたたく。

【ほうれい線】

画像4: ❶顔のたるみ・ほうれい線

左右の顴髎のツボと、ほうれい線のシワの上を直接、1分ずつ、軽くトントンとたたく。

額のシワ

頭皮がかたいと、額にシワができやすくなります。髪の生え際に沿ってたたくと、頭皮が緩み、シワの改善に役立ちます。

画像1: ❷額のシワ
画像2: ❷額のシワ

ニキビ・顔のくすみ

東洋医学では、胃が荒れて熱がこもると、それが顔に出てニキビをつくるといわれます。胃を整える「巨髎(こりょう)」のツボを刺激すると、ニキビが治まります。

巨髎は瞳の中心からまっすぐに下ろした線と、鼻の下端の高さの線が交わるところ。また、ニキビの周囲を刺激すると、血流がよくなり、治りが早くなります。しかし、ニキビ自体は直接刺激しないよう、注意してください。

巨髎を刺激すると栄養の吸収がよくなり、血流も促され、くすみの改善にもつながります。

画像1: ❸ニキビ・顔のくすみ
画像2: ❸ニキビ・顔のくすみ

左右の巨髎のツボを、1分ずつ軽くトントンとたたく。

画像3: ❸ニキビ・顔のくすみ

ニキビの場合、その周囲も同様にたたく(ニキビ自体は刺激しない)。

顔のむくみ

あごの先端と下くちびるの真ん中にある「承漿(しょうしょう)」というツボは水分代謝をよくするツボ。ここを刺激すると、顔のむくみ取りに役立ちます。

画像1: ❹顔のむくみ
画像2: ❹顔のむくみ

承漿のツボを1分ほど、軽くトントンとたたく。

二重あご

日本人はあごを下に動かして話す人が多く、くちびるをあまり動かしません。そのため口角が上がらず、あごの下がたるんで二重あごになります。

④の承漿から左右それぞれ1.5cmほど外側にある「夾承漿(きょうしょうしょう)」のツボを刺激すると、下くちびるを下に引っ張る筋肉がほぐれます。その結果、あごの下が引き上げられ、二重あごも改善します。

画像1: ❺二重あご
画像2: ❺二重あご

左右の夾承漿のツボを、1分ずつ軽くトントンとたたく。

このようにつまようじ療法は、多くの肌トラブルに対応できます。これを自宅で熱心に実践されているAさん(53歳・女性)の例を紹介しましょう。

Aさんは、3年前に多くの肌の悩みを抱えて来院。額や口のわきのシワ、ほおのたるみのほか、肌はどす黒く、ほうれい線も目立っていました。

そこで、美容鍼を受ける以外に自宅でつまようじ療法を行うよう勧めたところ、まず、ほおのたるみや肌のくすみがなくなりました。1年で、シワやほうれい線も気にならないほど改善。顔色も明るくなり、若々しい健康的な肌に変わりました。

つまようじ療法は、1ヵ所1分で十分です。一度に長く行うより、短時間でも毎日行うほうが効果的です。刺激に弱い人は、つまようじではなく、綿棒を5〜6本束ねた物で行ってもいいでしょう。

画像: この記事は『壮快』2021年4月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年4月号に掲載されています。

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