解説者のプロフィール

小田原雅人(おだわら・まさと)
1980年、東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部第三内科入局後、90年に附属病院助手。筑波大学講師を経て、96年に英国オックスフォード大学医学部に講師として赴任。2000年に虎の門病院内分泌代謝科部長に着任。04年に東京医科大学内科学第三講座主任教授。同大学病院副病院長を経て、20年より現職。日本内科学会指導医、日本糖尿病学会専門医・指導医。日本成人病(生活習慣病)学会理事長。
糖尿病治療薬としても活用されるGLP-1
サバ缶とキャベツは、ともに健康によい有効成分を豊富に含んだ食材です。その二つを組み合わせた「サバ缶キャベツ」は、糖尿病が気になるかたや、肥満ぎみのかた、また、高血圧で悩んでいらっしゃるかたに、特に勧められる物といっていいでしょう。
では、サバ缶キャベツのどんな点が優れているのでしょうか。まず、ふれておきたいのが、サバに含まれる、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)という二つの必須脂肪酸(ヒトの体内で作れないので外から摂取する必要がある脂肪酸)の働きです。
EPAやDHAは、近年、注目を集めている「GLP-1」というホルモンの分泌を促すことがわかっています。
GLP-1は、主に小腸の消化管から分泌されるホルモンで、このホルモンには大きく三つの作用があります。
❶ 脳の食欲中枢に働きかけて、食欲を抑制し過食を防ぎます。
❷ 胃に働きかけて、消化物をゆっくり送り出します。栄養分を吸収する小腸にすばやく食物が送られると、血糖値が急上昇し、太りやすくなります。GLP-1は、そのスピードを遅らせて、血糖値の急上昇を防ぐのです。
❸ すい臓に働きかけて、インスリンの分泌を促し、血糖値を下げます。
これらの複合的な作用によって、GLP-1は、血糖値を下げて、太りにくい体をつくるため、「やせホルモン」とも呼ばれています。
GLP-1は既に、糖尿病の治療薬として、実際の治療に使われています。また、欧米では、GLP-1は肥満の治療薬としても認可されています。このやせホルモンの分泌を、サバのEPAとDHAが促すのです。

そして実は、キャベツの食物繊維にも、このGLP-1の分泌を促す働きがあることがわかっています。つまり、サバ缶キャベツの場合、サバとキャベツの二つの食材が、ともにやせホルモンの分泌をより促してくれるわけです。
加えて、キャベツの食物繊維には、糖質の吸収を緩やかにし、食後血糖値の急上昇を抑える働きがあります。それにより太りにくくなるとともに、血圧の上昇も防ぎます。
また、サバのEPAやDHAには、高血圧や、動脈硬化の予防に役立つ作用があります。EPAやDHAが、血液中の中性脂肪を減らす一方で、HDL、いわゆる善玉コレステロールを増やすのです。
その結果、動脈硬化や高血圧の予防・改善に効果を発揮します。実際にEPAは、脂質異常症や、閉塞性動脈硬化症(主に足に起こる動脈硬化)の治療薬として使われています。
このように、糖尿病の予防・改善のため、また高血圧予防やダイエットのために、サバ缶キャベツは、いくつもの相乗作用をもたらしてくれるのです。

筋力アップや骨粗鬆症の予防にも役立つ
高齢者にとっては、たんぱく質補給源としてのサバ缶の役割も重要です。たんぱく質が不足すると、免疫力が低下し、元気で長生きすることが難しくなってきます。
筋力が落ち、身体機能が全般的に低下した状態を「サルコペニア」といいます。65歳以上のお年寄りでは、サルコペニアが進行すればするほど、寿命が短くなるというデータが出ています。
高齢になると、食事の摂取量自体が少なくなり、食事が偏って、たんぱく質の摂取不足が目立つようになります。しかも、現在のように、コロナ禍で高齢者が長期間家にこもりきりになると、運動不足から、サルコぺニアがいっそう進みやすくなるのではないかと懸念されています。
高齢になったからこそ、積極的に良質のたんぱく質をとっていくことが重要で、そのたんぱく質摂取源として、サバ缶は役立つと考えられるのです。
また、サルコペニア予防と関連して、サバ缶キャベツは骨粗鬆症予防にもよいといえます。サバもキャベツも、カルシウムが豊富だからです。
そのほかサバには、ビタミンB群や、ビタミンD、Eなどが含まれていますが、残念ながらビタミンCは含まれていません。
一方、キャベツは、食物繊維以外では、血液凝固に関与するビタミンK、胃の粘膜を保護するビタミンU、カリウムなど、多くの有効成分に加え、ビタミンCが豊富です。
ビタミンCのないサバと、Cの豊富なキャベツといっしょにとるのは、いい組み合わせといえるでしょう。

サバ缶キャベツの健康効果
●ダイエット効果&糖尿病の予防・改善
やせホルモン「GLP-1」が血糖値を下げ、太りにくい体をつくる。
●高血圧の予防・改善
食後血糖値の急上昇を防ぐ、血液中の中性脂肪を減らす、などの作用がある。
●骨粗鬆症の予防
サバ缶と、キャベツは、ともにカルシウムが豊富!
●筋力アップ、免疫アップ
高齢者が積極的にとりたい良質なたんぱく質がたっぷり。サルコペニア予防にもなる。
市販のカットキャベツを使ってもよい
ちなみに、サバ缶キャベツの食べ方には、いろいろなバリエーションがあります。
生のキャベツをサラダ風にする物。あるいは、キャベツとサバを蒸したり、煮込んだりして加熱調理する物。それぞれに長所・短所があります。
キャベツを生でとるなら、加熱によって壊されてしまうビタミンCなどをそのまま摂取できます。ただ、生の場合、かさが増えてしまうため、一度にたくさんは食べられないという短所があります。
一方、キャベツをサバと合わせて加熱すると、熱に弱いビタミンは減ってしまいますが、キャベツのかさが減り、たくさん摂取できるようになります。大事な食物繊維もしっかり補給ができるわけです。
ちなみに、汁物やスープなどにした場合、水分中にEPAなどの有効成分が溶け出してしまいますから、汁もいっしょにとるといいでしょう。サバ缶キャベツは、サラダ風にしたり、加熱したり、両方の食べ方を取り混ぜて食べていくのがいいでしょう。
いろいろな食べ方を楽しみながら、糖尿病、高血圧の予防・改善や、ダイエット、健康維持に、サバ缶キャベツを役立ててください。
サバ缶キャベツの作り方
【材料】(1度に食べる量)
キャベツ······好みの量(切った状態で50gほどが目安)
サバ水煮缶······1/2缶(約100g)

【作り方】
❶キャベツを食べやすい大きさに切る。

❷缶汁を軽く切ったサバをキャベツに添えて完成!


市販のカットキャベツなどを使うのも便利!

この記事は『壮快』2021年4月号に掲載されています。
www.makino-g.jp