解説者のプロフィール

川嶋朗(かわしま・あきら)
東京有明医療大学保健医療学部教授。1957年、東京都生まれ。83年北海道大学医学部卒業。医学博士。東京女子医科大学附属青山女性・自然医療研究所クリニック所長、同大学附属青山女性・自然医療研究所自然医療部門准教授などを経て、現職。西洋医学と代替・相補・伝統医療を統合した医療を行う。『心もからだも「冷え」が万病のもと』(集英社)、『冷えとりの教科書』(マイナビ)など著書多数。
体温が低くなるほど免疫力も下がる
「冷えは万病の元」とよく言われる通り、体温が低くなるほど、体の免疫力(病気に対する抵抗力)は下がっていきます。
そこには、内臓や血管の働きを無意識のうちに調節している自律神経の働きが大きく関わっています。
自律神経には、活動時に優位に働く交感神経と、休息時に優位に働く副交感神経の2種類があり、それぞれがバランスよく働いていることが大切です。
免疫系では、交感神経が優位になると、ノルアドレナリンという神経伝達物質が出て、白血球のうちの顆粒球が増えます。その逆に、副交感神経が優位になると、アセチルコリンという神経伝達物質が出て、白血球のうちのリンパ球が増えます。
顆粒球もリンパ球も免疫を担う免疫細胞ですが、対応する相手が異なります。リンパ球は特に、体に侵入したウイルスに感染した細胞や、がん細胞などを攻撃する役割を持っています。
交感神経はストレスがかかると優位になります。低体温による冷えは一種のストレスなので、常に交感神経側にスイッチが入っている状態になり、リンパ球の割合が減るために、がんなどのリスクが高くなってしまうのです。
また、低体温というのは、血流が悪い状態です。すると、全身に免疫細胞を運ぶ効率も下がってしまいます。おまけに血流が低下すれば、体に必要な栄養や酸素も十分に行き渡らなくなり、老廃物もたまりやすくなります。
がん細胞は酸素を使わずに育つので、酸素が十分届かず、攻撃してくるリンパ球もあまり巡ってこない環境は、がん細胞にとっては非常に都合がよいわけです。
そして、体温が下がると、酵素(化学反応を促す物質)の働きも悪くなります。
細菌などを食べて分解する顆粒球は、自分の顆粒内のたんぱく分解酵素を用いて、細菌などを分解しています。
また、細胞の修復や再生、遺伝子の修復、活性酸素の除去などにも酵素が関わっています。つまり、酵素の働きが低下すれば、免疫力が落ちて病気にかかりやすくなる上に、治りにくくもなるということです。
酵素が生き生きと働くのは、体内温度が37~38℃のときです。となると、腋窩体温(わきの下で測る体温)で、36.5℃以上はほしいところです。
体の冷えが免疫力を下げる理由
①冷えによるストレスで、ウイルスやがん細胞を攻撃するリンパ球の働きが悪くなる。
②血流が減少するために、免疫細胞のパトロール効率が落ちる。
③免疫細胞がウイルスや病原菌などの異物を分解するための酵素が働きにくくなる。
60年前より0.7℃も平熱が下がった
あるメーカーの調査で、現代人の平均体温は36.1~2℃であることがわかっています。
実は、ほぼ60年前に行われた調査によれば、当時の日本人の平均体温は36.9℃でした。今、36.9℃もあったら、微熱があるのではないかと心配する人もいることでしょう。
では、60年間の間に、どうしてこんなにも体温が低くなってしまったのでしょうか。
一つの原因として考えられるのは、冷蔵庫の普及です。60年前は、電気冷蔵庫がある家庭はまだ少数でした。現在はほぼ100%普及しており、いつでも4℃以下に冷えた食べ物や飲み物をとれるようになり、体が冷えやすくなっています。
また、60年前にはエアコンもありませんでした。そのため、夏に暑ければ汗をかいて、自分で体温調節をしていました。
しかし、エアコンによりいつでも過ごしやすい環境にいる現代人は、暑さ寒さに負けないように体温を調節する力が育ちません。変温動物のように、冬場に外気が下がれば、体温も下がり、体が冷えてしまうのです。
そして、農耕生活が主体だった昔の人に比べて、体を動かして労働することが少なくなりました。電化製品の普及や交通手段が便利になったことも手伝って、運動不足になり、エネルギーを燃やし、熱を生み出すための筋肉が減っていることも関係しているでしょう。
ストレスフルな社会にも起因していると考えられます。ストレスを受けると、血管が締まって血流が悪くなり、十分に熱を循環させられずに体温が下がってしまうのです。
多くの熱を生む太ももの筋肉
体の中で多くの熱を生む場所といえば、筋肉です。特に太ももなど下半身の大きな筋肉を鍛えるのが効果的です。
ただし、あまり激しい運動だと活性酸素が増えて、かえって免疫力が下がります。「苦しくないが、少しだけきつい動き」を継続して行うのがコツです。
いつもより大股で速足に歩く。階段を使う。電車やバスの揺れる車内でバランスを取りながら立つ。掃除機やモップを使わずに雑巾がけをし、洗濯物を干すときには1枚ごとにしゃがんで取る。
こうした日常動作で、筋肉が多い下半身をよく使うように意識するだけで、体が温まりやすくなります。
また、筋肉は6秒以上の負荷をかけることで鍛えられます。入浴中に浴槽の壁を足で押し込んだり、両手を押し合ったり引き合ったりといった、簡単なレジスタンストレーニング(筋肉に抵抗をかける筋トレ)を行うのもよいでしょう。
デスクワーク中など、筋肉を動かせない間は、湯たんぽを血液が多く流れる太ももに乗せておくと、効率的に血液を温めることができます。
冬の外出時は、体の熱を逃がさないことも重要です。できるだけ空気の層を作るように重ね着をすると、保温効果が高まります。
特に、首、手首、足首は動脈が体表近くを通っており、外気の影響を受けやすいところです。この「3首」は、マフラーやリストバンド、レッグウォーマーなどでしっかり保温しましょう。
冷えを解消するためには太ももの筋肉がポイント
❶ゆっくり10秒数えながら浴槽の壁を足の裏で押し続ける。両足交互に3回ずつ行う。

❷胸の前で指を組み、ゆっくり10秒数えながら両手を引っ張り合う。

❸胸の前で手のひらを合わせ、ゆっくり10秒数えながら両手で押し合う。

②③を交互に3回ずつ行う。

デスクワーク中は、太ももに湯たんぽを乗せておくと、血液を効率的に温められる。

この記事は『安心』2021年3月号に掲載されています。
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