解説者のプロフィール

鳴海理恵(なるみ・りえ)
VE&BI治療院院長。鍼灸師。あんまマッサージ師。成城大学文芸学部英文学科卒業。 アメリカのクシインスティテュートにてマクロビオティクスを修得。「免疫力こそ人間が持つ本当の薬」をかかげ、これを生かす治療で、薬いらずの体づくりを目指す。食事、運動、治療をモットーに体の自然治癒力を引き出すアプローチで効果を上げている。著書『効く!爪もみ』(河出書房新社)が発売中。
自律神経が免疫力を変化させる
「爪もみ」は、 病気を治すためのセルフケアとして、誰でも簡単に実践できるようにと、私の父で外科医だった福田稔(故人)が考案した方法です。
父は、免疫学の世界的権威であった安保徹先生(新潟大学名誉教授。故人)との共同研究で、 「白血球の数や働きは、自律神経の影響を受けること(自律神経の白血球支配の法則)」を解明しました。
そして、「自律神経の変化に連動して免疫機能も変化する」という「福田‐安保理論」をもとに、自律神経のバランスを整えて免疫を正常化し、病気を治していく「自律神経免疫療法(現在の気血免疫療法)」を開発していったのです。
まずは「福田‐安保理論」で明らかになった、免疫力と自律神経の関係についてご説明します。
自律神経には、主に日中の活動時の緊張や興奮しているときに働く「交感神経」と、主に夜間の休息時、リラックスしているときに働く「副交感神経」があります。
この二つの神経がシーソーのようにバランスよく、意思とは無関係に適時切り替わりながら、内臓の働きや血流、体温などあらゆる生命活動を調節しています。
病気から身を守る免疫力の中心的役割を担っているのが、血液中の「白血球」で、通常、全体の95%以上を「顆粒球」と「リンパ球」が占めています。
顆粒球は主に細菌を処理する働きを持ち、リンパ球はがんなどの異常細胞や体内に侵入したウイルスを排除する働きがあります。顆粒球が白血球全体の54~60%、リンパ球が35~41%の割合を保っているのが、最も免疫力が高い正常な状態です。
この白血球のバランスが非常に重要で、どちらが過剰になっても免疫力は下がります。さらには自らの正常な細胞まで攻撃して、病気を作り出す元凶にもなってしまうのです。
顆粒球が増え過ぎると、その攻撃の弊害で体内に炎症が起こったり、臓器や血管の粘膜が傷ついたりします。その結果、体の痛みやしびれ、がん、胃潰瘍、白内障、糖尿病、腎炎、高血圧、脳梗塞など、さまざまな病気につながります。
一方、リンパ球が増え過ぎると、本来は無害な物質にまで過剰に反応して、アレルギーが起こります。結果、気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎などが発生。ほかにも知覚神経が過敏になり、痛みやかゆみが強まったりします。
この顆粒球とリンパ球の数や働きを調整しているのが、自律神経です。交感神経が優位になると顆粒球が増えて、副交感神経が優位になるとリンパ球が増えて活性化します。
自律神経のバランスを乱す最大要因は、ストレスです。過度のストレスが心身にかかると、交感神経が優位な状態が続き、顆粒球が過剰になります。
間違えやすいのは、ストレスは「適度にあるべきで、なさ過ぎるのもよくない」ということです。
過度のリラックス(ストレスがなさ過ぎる状態)によっても、副交感神経が優位な状態が続き、リンパ球が過剰になってしまうからです。普段から副交感神経が優位過ぎる人はストレスに弱く、いざストレスがかかると反応が強く現れます。

爪もみは自分でできる免疫療法
自律神経のバランスを中庸に戻し、免疫力を最大限に引き出すための方法が「爪もみ」です。気血免疫療法を、ご家庭向けにアレンジした方法です。
やり方は簡単で、指の爪の生え際のやや下を、反対の手の親指と人さし指で両側からつまみ、「少し痛いけれども気持ちがいい」くらいの力で押しもみます。
爪の生え際のやや下にあるツボ「井穴(せいけつ)」の付近は、体表近くを多くの末梢神経や血管が密集して通っています。
そのため、位置に厳密にこだわらずとも、この付近をもめば、自律神経に十分な刺激が伝わりますから、誰でも簡単に実践できるのです。
爪もみをすると、指先の毛細血管が刺激され、そこから全身の血流がよくなるので、多くの人が「手足がポカポカする」と実感されます。
自律神経の乱れや血行不良によって、現代人は首から上がのぼせやすく、手足が冷えやすい人が多くいます。病気になる方は、ほとんどがこの「頭熱足寒」状態です。
爪もみを継続すると、理想的な頭寒足熱の状態にどんどん近づき、現代人に多い低体温も解消します。体温が上がると白血球が活性化し、免疫力が上がると言われています。
また、食品添加物や大気中の汚染物質など、現代人は多くの有害物質にさらされています。これらの「毒」も、自律神経の乱れを招く原因となります。
指先は、体内に蓄積した毒の出口でもあり、爪もみをすると、そうした毒の排出も促されます。
爪もみは交感神経が優位過ぎる人、副交感神経が優位過ぎる人、どちらにも有効です。自律神経が整えば、体に備わる本来の免疫力が発揮され、病気を遠ざけてくれます。
ぜひ爪もみを行い、免疫力を高めてください。
爪もみのやり方
刺激する位置

爪の生え際から、2mm指の付け根側に下がったところを刺激する。

× 爪そのものをもむ

× 指の先をもむ
もみ方

1. 親指から小指までを順番にもむ
親指から小指までを順番に、もまれる指と反対側の手の人さし指と親指で両側からつまんで痛気持ちいい力加減で押しもむ。ギュッギュッとつまむイメージでもむとやりやすい。各指10秒ずつ。終わったら、反対側の指も同様に刺激する。

2. 最もつらい症状に対応する指を20秒もむ
下記の症状に対応する指を左右20秒ずつ、追加でもむ。気になる症状がない方は、1だけでもよい。1日3回を目安に毎日続ける。
症状に対応する指

親指
●アトピー ●セキ ●ぜんそく ●リウマチ ●ドライマウス
人差し指
●痔 ●胃弱 ●美肌 ●潰瘍性大腸炎 ●クローン病 ●過敏性腸症候群 ●胃潰瘍
中指
●耳鳴り ●難聴
薬指
●低血圧 ●低血糖 ●眠さ ●だるさ
小指
●脳梗塞 ●物忘れ ●高血圧 ●糖尿病 ●痛風 ●椎間板ヘルニア ●子宮筋腫 ●頻尿 ●尿もれ ●肥満

この記事は『安心』2021年3月号に掲載されています。
www.makino-g.jp