「気血の不足」を補うスープ
中国では昔から、病後や産後など、体が弱っているときに、鶏1羽を丸ごと煮込んだスープを飲む習慣があります。
小さな鶏を1羽丸ごと大きな鍋に入れ、ショウガと一緒にコトコト煮込みます。出来上がったスープには、鶏肉から出たうま味が凝縮して、スッキリと滋味あふれる味。飲むとスープがスーッと体の中に染み込んでいくのがわかります。
中国の伝統医学である「中医学」では、「気」が不足すると病気になると考えられています。「気」とは、生命活動を行うエネルギーのことです。
「気」が足りないと、内臓の働きが低下して、食べ物から栄養を十分に吸収できません。すると、血液の材料が不足して、体に栄養が行き渡らなくなり、疲れやすく、やる気が出なくなるという悪循環になります。
この状態を放置したまま過ごすことで、「気」と「血」(血液)の不足はますますひどくなっていきます。内臓は弱り、老化が進み、ついには病気になってしまうのです。
そんな万病の元である「気血」の不足を補うのに役立つのが、先ほどご紹介した丸鶏のスープです。しかし、忙しい毎日、鶏をコトコト煮込む暇はない、というのが実情でしょう。
そこで今回、ご紹介するのが、「ゼラチンと鶏ガラスープの素を使ったスープ」です。この二つを沸騰した湯に振り入れるだけで、簡単においしいスープが出来上がります。手間も時間もかかりません。
筋膜の衰えを防ぐ
このスープを考案したきっかけは、中医学を学んだ英国人医師、ダニエル・キーオン氏の本を読んだことでした。
それによると「気の通り道である経絡は、筋膜上にある」とのこと。筋膜とは、筋肉や骨、血管、内臓などを覆っている、薄い膜状の組織のことです。
加齢によって筋膜が衰えると、気の巡りが悪くなり、内臓の働きも落ちていきます。それを防ぐには、「筋膜の材料であるコラーゲンペプチドをとるといい」と、記されていました。
これを読み、私の頭に浮かんだのが、「丸鶏のスープ」でした。現代の栄養学でも、骨つき肉や鶏皮を煮込んだスープは、コラーゲンペプチドがたっぷり。加えて、良質のたんぱく質、ビタミン、カルシウムが豊富に含まれています。
丸鶏のスープほどの威力はないものの、鶏ガラ粉末とゼラチンを利用したスープでコラーゲンペプチドを補充すれば、老化を招く筋膜の衰えを防ぐことができます。そうすれば、気の巡りも改善すると考えられます。
また、中医学では「内臓の気が充実していると、肌にツヤが出てくる」といわれています。飲み続けるうちに、骨や関節が強くしなやかになるだけでなく、肌や髪にもいい影響があると期待できます。
後述のレシピでは、4種類のスープをご紹介します。身近な食材をプラスすることで、疲れが取れてやる気が出てきたり、粘膜を強化してウイルスを予防したりするなど、野菜やお肉、魚からの効能も期待できます。そういった健康効果も期待しつつ、スープのおいしさを味わっていただければと思います。
なお、コラーゲンペプチドは、ビタミンCと合わせてとると、吸収がよくなります。スープの出来上がり直前に青菜を加えて、余熱で火を通すとよいでしょう。
老化のスピードは緩やかにできる
また、レシピでは、骨や皮つきの鶏肉を煮込んで作るスープもご紹介しています。週1回でも、月1回でもいいので、骨つきの鶏肉から、だしを取ったスープを作ってみてはいかがでしょうか。
スープは多めに作って、保存バッグなどに小分けにして冷凍しておくことができます。疲れがたまっているとき、カゼをひきそうなとき、重宝することでしょう。
以前、雑誌で紹介されていた中華料理の先生は、80代のご高齢でありながら、シワもなく、ツヤツヤの肌をされていました。その秘訣は、「週に1回飲む、鶏を丸ごと煮込んだスープ」とのこと。鶏のトサカや足まで入れて煮込むそうです。さすがに日本では、そういった丸鶏の入手は困難ですが……。
私がこの話をした知人は、その日から80代の母親に、鶏ガラ粉末とゼラチンのスープ、ときどき鶏のスープを出すようにしたそうです。するとあるとき、お母さまが不思議そうに、「最近、肌ツヤがいいのよね」とおっしゃったといいます。
最後になりますが、体の不調や老化は、誰にでも訪れます。ですが、普段の食事や生活習慣を見直すことで、老化のスピードをゆるやかにし、いつまでも若々しくいることはできます。その一助として、鶏ガラ粉末とゼラチンのスープを、ぜひお役立てください。
基本の鶏ガラ&ゼラチン薬膳スープ

【材料】(2〜3人分)
鶏ガラスープの素(顆粒)……小さじ2
粉末ゼラチン……1~2袋(5~10g)
ショウガ(薄切り)……3~4枚
タラ……2切れ
白菜……200g
マイタケ……60g(約1/2パック)
酒……大さじ2強
塩……小さじ1強
※タラのない季節は、鶏肉で代用してOK!

基本のゼラチンスープの場合、必ず使用するのがゼラチン、鶏ガラスープの素、あればショウガの薄切りの3品。具は、旬の野菜や魚を使うとよい。
【作り方】
❶タラは流水で洗い、水気を拭いて3cm大に切り、酒大さじ1強と塩少々(分量外)を振っておく。
❷白菜は白い部分と葉に分け、白い部分は5cm幅に切ってから、さらに1cm幅に細長く切る。葉はざく切りにする。マイタケはほぐして根元は薄切りにする。

❸鍋にショウガの薄切りと水500ml(分量外)を入れて火にかける。

❹沸騰したら白菜の白い部分を加えて3~4分煮て、鶏ガラスープの素を加える。ひと煮立ちしたら、タラと酒大さじ1を加える。

❺タラの色が変わったらマイタケを加える。

❻⑤に白菜の葉を加えてひと混ぜして、塩で調味する。ゼラチンを振り入れてよく混ぜて火を止める。
ニラとエビのスープ

【材料】(2人分)
鶏ガラスープの素(顆粒)……小さじ2
粉末ゼラチン……1袋(5g)
ショウガ(薄切り)……3~4枚
エビ……8尾
ニラ……50g
酒……大さじ2強
塩……小さじ1
【作り方】
❶エビは背わたを取り除き、塩(分量外)でもんで流水で洗い、水気を拭いて2cmに切って酒大さじ1強を振りかけておく。ニラは2cmのざく切りにする。
❷鍋にショウガ、水500mlを入れて火にかける。
❸②が沸騰したら、鶏ガラスープの素、酒大さじ1を入れてひと混ぜして、エビを加える。
❹エビの色が変わったらゼラチンを加えて混ぜ、塩で味を調え、ニラも入れてひと混ぜする。
春菊とヤマイモのゼラチンスープ

【材料】(2人分)
鶏ガラスープの素(顆粒)……小さじ2
粉末ゼラチン……1袋(5g)
豚もも肉切り落とし……80g
タマネギすりおろし……大さじ1
ヤマイモ……150g
ショウガ(薄切り)……4~5枚
春菊……5本
酒……大さじ2強
塩……小さじ1/2
【作り方】
❶豚肉は3cm長さに切り、酒大さじ1強と塩少々(分量外)を振りかけ、タマネギのすりおろしを混ぜておく。ヤマイモは皮をむいて酢水(分量外)につける。春菊は葉は摘んで1~2cmのざく切りに、軸は斜め薄切りにする。
❷鍋にショウガと水500ml(分量外)を入れ、火にかける。沸騰したら、鶏ガラスープの素を入れてひと混ぜする。
❸鍋に①の豚肉の汁気を切ってから入れ、酒大さじ1を加える。ひと混ぜして再沸騰したら、あくを取り除き、春菊の軸を加える。
❹③にゼラチンを入れてよく混ぜてから、すりおろしたヤマイモを加えてそっと混ぜ、春菊の葉を加え、塩で味を調えて火を止める。
サトイモのゼラチンみそ汁

【材料】(2人分)
粉末ゼラチン……1袋(5g)
鶏むね肉……120g(1/2枚)
サトイモ……2個
長ネギ……1/2本
ニンジン……100g
酒……大さじ2強
みそ……大さじ1強
【作り方】
❶鶏肉は流水で洗い、水気を拭く。酒大さじ1強を振りかけ、塩少々(分量外)を振り、5分ほどおいたら一口大のそぎ切りにする。
❶サトイモは皮をむき、2cm大の乱切りにする。長ネギは斜め薄切にする。ニンジンはすりおろす(※イチョウ切りでもOK)。
❶鍋に水500ml(分量外)、サトイモを入れ、火にかける。
❶沸騰したら、ニンジンのすりおろしを加えてひと混ぜして、①と酒大さじ1を加えてよく混ぜる。
❶鶏肉の色が変わったら、みそで味を調え、ゼラチンを入れて混ぜる。最後に、長ネギを加えて軽く混ぜる。
本格的ゼラチンスープ

【材料】(作りやすい分量)
水炊き用鶏もも肉(骨付き)……3~4本
手羽(先でも元でもどちらでも)……3~4本
鶏むね肉……1枚
ショウガ(薄切り)……5~6枚
酒……50ml
【作り方】
❶鶏肉は全て流水でよく洗い、水気を拭き、酒大さじ3(分量外)を振りかけて5分ほど置く。

❷鍋に水1L、ショウガと①を入れて、酒を注ぎ、中火にかける。

❸②が沸騰したらあくを取り除き、弱めの中火にして50~60分コトコト煮る。このとき、水面にあく取りシートをのせるか、こまめにあくと脂を取り除く。

1時間ほど煮ると透明なスープができる

先に鶏肉をよけておくとよい。

❹ざるにペーパータオルを2枚重ねておき、③のスープをこす。

❺④が室温まで冷めたら、保存袋などに入れて、小分けにして保存する。
セリのスープ&ゆでた鶏肉の活用サラダ

セリのスープ(2人分)
鶏のスープ……300ml
塩……少々
セリ……1/2束
❶鶏のスープに塩を加えて、火にかける。セリはみじん切りにする。
❷沸騰したら、セリを加えてすぐに火を止め、器によそう。
※セリがない季節は、小松菜、三つ葉、パクチーなど、季節の緑色の葉野菜を使う。
ゆでた鶏肉の活用サラダ(作りやすい分量)
ゆでた鶏むね肉……1枚分
ブロッコリー……5~6房
酢……大さじ1
塩……小さじ1/2
ゴマ油……大さじ1
白ゴマ……大さじ1
❶ゆでた鶏むね肉は手でほぐす。ブロッコリーは塩ゆでにして、ざるに上げておく。
❷ボウルに酢,塩、ゴマ油、白ゴマを加えてよく混ぜる。
❸②に①を加えてよく混ぜたら、器に盛る。
※その他、ゆでた手羽先、鶏もも肉は、しょうゆと酢、砂糖などで甘辛く煮てもおいしい。
■レシピ・料理/植木もも子(管理栄養士)スタイリング/古澤靖子

この記事は『安心』2021年3月号に掲載されています。
www.makino-g.jp