筋肉には赤筋と白筋の2種類があります。赤筋は持久力に優れた筋肉、白筋は瞬間的に大きな力を発揮する筋肉です。白筋は日常の動作では鍛えにくく、筋力トレーニングをしない限り年とともに衰えていきます。踏み台昇降ならば、大腰筋や大腿四頭筋の白筋を鍛えられ、転倒の防止にもなります。【解説】本山貢(和歌山大学教育学部教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

本山貢(もとやま・みつぎ)

1962年、岡山県生まれ。福岡大学体育学部卒業、福岡大学大学院修了後、福岡大学体育学部助手、同大学医学部研究生、九州大学非常勤講師などを経て、96年4月に国立大学(現・国立大学法人)和歌山大学教育学部に講師として赴任。97年に助教授。98年、「高齢者の高血圧症および高脂血症の運動療法に関する研究」で博士(体育学)を取得。2002年4月、和歌山大学教育学部教授となり、現在は学部長。専門は健康科学、運動医学。「介護予防に役立つトレーニング」に関する研究に力をそそいでいる。

自宅でも気軽にできる

私たち和歌山大学は和歌山県と協同で、中高齢者の生活習慣病の予防・改善、介護予防を目的とした「ワダイビクス(和歌山大学式トレーニング)」を開発しました。

その中でも特に重要な種目が、ここでご紹介する「踏み台昇降」です。適度な高さの台を用意し、その場で上り下りするだけなので、誰でもすぐに始められます。自宅で気軽にできるのは、大きな利点の一つです。

何より重要なのは「有酸素運動と筋力トレーニングを同時に行える」という点です。段差を利用して「ひざを持ち上げ、片足で自分の体重を支える」動きによって、下半身の筋力トレーニングになるのです。

筋肉には「赤筋」と「白筋」の2種類があります。赤筋は持久力に優れた筋肉、白筋は瞬間的に大きな力を発揮する筋肉です。赤筋はウォーキングなどの有酸素運動によって鍛えられますが、白筋は日常の動作では鍛えにくく、筋力トレーニングをしない限り、年とともにどんどん衰えていきます。

その影響は、歩行の動作に明確に現れます。

高齢になると多くの人は「すり足」の歩き方になります。大腰筋(腰の骨と太ももの骨をつなぐ筋肉)や大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)などの白筋が衰えるため、ひざを持ち上げにくくなります。それを補うために、股関節から振り子のように足全体を振って歩くのです。

この歩行は速度が遅くなるだけでなく、バランスが悪く、転倒しやすくなります。ウォーキングだけでは白筋は鍛えられませんから、高齢者の場合は皮肉なことに、歩けば歩くほど、転倒の危険性が増してしまいます。

でも、踏み台昇降ならば、大腰筋や大腿四頭筋の白筋を鍛えられ、継続すれば転倒の防止にもなるというわけです。

半年で筋肉量が10%増加

私たちは2004年からワダイビクスを普及してきました。延べ3万人以上が実践し、その効果を長期にわたって追跡調査しています。

まず特筆すべきは、筋肉量が増えることです。運動を開始する前の体力や年齢に関わらず、大腰筋の筋横断面積(筋肉を輪切りにした際の面積)が3ヵ月で平均7%、半年で10%増加することがわかりました。

大腰筋は何もしなければ1年に1%の割合で減少しますから、逆に言えば、3ヵ月で7歳、半年で10歳も筋肉が若返ったことになります。

内臓脂肪が平均11%も減少することもわかりました。ご存じのように内臓脂肪の蓄積はメタボリック症候群を招き、生活習慣病の要因となります。

他にも「血圧の低下」「動脈硬化の抑制効果」「腰痛やひざ痛の改善」「尿失禁の改善」などの効果があることを確認しています。

これらの結果を元に試算したところ、こうした運動に取り組むことで将来、要介護になる危険性が7割も減らせると判明しました。もちろん、医療費や介護費の削減にもつながります。

踏み台昇降のやり方は下項で紹介しますが、ここでいくつかポイントを述べます。

まず、動作は「ゆっくり」と行うのが効果的です。台に上って下りる一連の動作を1回として「1分間に15回」のリズムで行うことをお勧めしています。

テンポを上げると有酸素運動としての効果は高まりますが、筋力トレーニングの効果は下がってしまいます。

次に、踏み台の「高さ」に関しては、段差が大きいほど効果が出るというわけではありません。

30cmを超える高い台で行おうとする人もいますが、大切なのは、高くするのではなく、それよりも「ひざをしっかりと上げる」ことを意識して動くことです。ひざや腰、体力に不安のある人は、台を10cm程度の低めにしてください。

最後に、行う時間です。「1日に10分」が目安です。最初は10分続けるのもきついかもしれません。それなら、3分を3回でも構いません。長く続けた方が有効と思われるかもしれませんが、実は合計時間が同じなら、運動の効果は変わりません。

1日10分なんて大したことないと思うかもしれませんが、毎日続けると、4ヵ月で富士山を登って降りた計算になります。ぜひ取り組んでみてください。

踏み台昇降のやり方

ゆっくりとしたリズムが理想(1分間に15回行うのが目安)
ゆっくり動くことで有酸素運動と筋力トレーニングを混合させた動きになるので、ダイエット効果が高まる。慣れてくると、リズムがどんどん速くなりがちだが、意識してゆっくりとしたテンポを守ること。

全ての動作を同じ速さで行う
はずみをつけて台に上ったり、ストンと勢いよく下りたりしないよう、心掛ける。

ひざを高く上げる意識を持つ
ひざを高く上げることで、大腰筋、太もも前面と後面の筋肉(大腿四頭筋、ハムストリング)への刺激が強くなって、筋力の向上効果が高まる。

1日合計10分以上行うこと
慣れたらテレビを観ながら行ってもOK!

複数回に分けて合計10分でもOK
朝3分、昼3分、夜4分などで合計10分でも効果は落ちない。

画像1: 【踏み台昇降の効果】有酸素運動と筋トレのW効果で転倒リスクを防止 1日10分ゆっくり行うのがコツ

台の正面にまっすぐ立つ。

画像2: 【踏み台昇降の効果】有酸素運動と筋トレのW効果で転倒リスクを防止 1日10分ゆっくり行うのがコツ

片ひざを高く上げ、台に乗せる。

画像3: 【踏み台昇降の効果】有酸素運動と筋トレのW効果で転倒リスクを防止 1日10分ゆっくり行うのがコツ

反対の足も、高く上げて台に乗せる。

画像4: 【踏み台昇降の効果】有酸素運動と筋トレのW効果で転倒リスクを防止 1日10分ゆっくり行うのがコツ

②で台に乗せた足と同じ側のひざを高く上げてから床に下ろす。

画像5: 【踏み台昇降の効果】有酸素運動と筋トレのW効果で転倒リスクを防止 1日10分ゆっくり行うのがコツ

反対の足も同様にして床に下ろす。①~⑤をくり返す。

 
①~⑤で1回。1分間に15回のリズムで行うようにする。途中で足を上げ下げする順番を、左右で入れ替えること。

使用する踏み台は10~20cmに設定する。踏み台昇降専用の台を使うのがお勧め。階段、玄関口など、手頃な高さの段差があれば、それを利用してもよい。自作も可能(お勧めの作り方は下項参照)。

踏み台の作り方

専用の踏み台を購入しなくても、自宅にあるもので簡単に長持ちする踏み台を作ることができます。

雑誌で作る場合

画像1: 踏み台の作り方

用意するもの
雑誌(A4サイズ以上の大判のもの)
ビニールひも

画像2: 踏み台の作り方

できるだけ縦横が同じサイズの雑誌を、10~20cmの間で好みの高さになるように積み重ねて、ビニールひもで固く結ぶ。

画像3: 踏み台の作り方

①を2つ分作って並べ、上、中央、下の3ヵ所をビニールひもで一つに結んでまとめる。結び方がゆるいと踏み台が崩れやすくなるので、たゆまないように固く結束すること。踏み台昇降を行うときは、結び目を床側にする。

 
新聞で作る場合

画像4: 踏み台の作り方

用意するもの
新聞
ビニールひも

画像5: 踏み台の作り方
画像6: 踏み台の作り方

新聞を二つ折りにして、10~20cmの間で好みの高さになるように積み重ねて、ビニールひもで固く結ぶ(約40~50部)。ビニールひもがゆるいと踏み台が崩れやすくなるので、たゆまないように固く結束すること。踏み台昇降を行うときは、結び目を床側にする。

画像7: 踏み台の作り方

雑誌、新聞で作った踏み台は、何度も使用するとくたびれてくるので、その際は新しく作り直すようにすること。

 
ポイント

画像8: 踏み台の作り方

100円ショップで売られている雑誌用の収納袋の中に新聞か雑誌を入れても、踏み台になる。

 
自宅の段差でも踏み台昇降ができる!

画像9: 踏み台の作り方

高さ約10cmの段差であれば、階段や駐車場の車止めなどで踏み台昇降を行っても構わない。

画像: この記事は『安心』2021年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年3月号に掲載されています。

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