歯を抜く前にまず知っていただきたいのは、抜歯には多くのリスクが伴うことです。「抜く」は、必要な歯を無理やり抜くので生体が納得していません。そのため体は準備ができておらず、残された歯を支えるためにある骨は吸収されて、大きくへこんでしまいます。【解説】橋本秀樹(はしもと歯科院長)

解説者のプロフィール

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橋本秀樹(はしもと・ひでき)

はしもと歯科院長。「歯は抜かない、麻酔はしない」をモットーに、従来の歯科治療の常識を覆す治療を行い、成果を上げている。完全自由診療制で、一人一人の患者さんに十分な時間をかけ、納得のいく治療を提供しているため、多くの患者から支持を受けており、全国各地から患者が来院している。
▼はしもと歯科(公式サイト)

抜歯には多くのリスクが伴う

「根の先に膿がたまっているので、歯を抜きましょう」
「早く抜かないと、隣の歯まで悪くなりますよ」
「骨があるうちに歯を抜いて、インプラントにした方がいいですよ」

歯科医院で、こんなことを言われたことはないでしょうか。しかし、抜歯を勧められても、「歯を抜きたくない」という人は多いでしょう。

ムシ歯や歯周病が悪化すると、ほとんどの歯科医は抜歯を勧めます。それは、悪い歯を取って新しい人工歯(入れ歯、ブリッジ、インプラントなど)を入れることが、歯科治療だと思っているからです。

しかし、それは「治療」ではなく「修理」です。

私が考える歯科治療は、悪くなった歯を治して、元の状態に近づけること。体の理にかなった治療を行えば、歯を抜かなくても、骨が溶けることも、隣の歯が悪くなることもないのです。

歯を抜く前にまず知っていただきたいのは、抜歯には多くのリスクが伴うことです。抜歯の前には麻酔をしますが、麻酔自体にリスクがあります。また、麻酔が効きにくい人は、麻酔の量が増えることもあります。

抜歯時も、もちろんリスクはあります。抜くときに歯根が上顎洞(頬の骨の裏側で、鼻の左右にある空洞)の中に入ってしまったり、抜歯の処置で神経や血管が損傷されたりすることがあります。抜歯後には、出血、痛み、腫れが出たり、しびれやマヒが残ったりします。

また、抜歯を決めても、「抜歯後どうするか」という新たな問題が出てきます。

抜けたところに入れる歯は、いずれも人工物です。人工物は生体にとって異物。それを口の中に入れるのは、医学生物学的には、有害無益の極みです。

抜歯をすれば、ムシ歯や歯周病はなくなり、痛みは消えるかもしれません。一方で、こうしたリスクがあることを知り、それを受け止める覚悟が必要です。

ムシ歯の治療は本当は痛くない

歯を抜く原因の一つが、ムシ歯です。ムシ歯が進行すると、歯の奥にある歯髄(神経)がムシ歯菌に侵され、炎症が起こります。ムシ歯が痛いのはそのためで、歯髄炎が起こったら、神経を取る処置(抜髄)を行います。

しかし、神経を取った歯は死んだことになり、やがては抜歯への道を進みます。

私は、麻酔をして神経を取る処置はしません。神経が自然に死んでしまうまで残す努力と治療をします。神経が死んでしまった歯や根管治療のやり直しを、顕微鏡(マイクロスコープ)を使い、肉眼では見えない根管の奥まできれいにする、精度の高い治療を行っています。

ちなみに、「ムシ歯の治療は痛い」と思っている人は多いと思いますが、ムシ歯の治療は、本当は痛くありません

ムシ歯は歯の脱灰(ミネラルが溶けていくこと)ですから、痛みはありません。治療で痛みがあるのは、痛みが起こるようなことを、歯科医がしたからです。そうした痛みをなくすために、麻酔をするのです。

私は、麻酔もしません。する必要がないからです。痛みは生体の防御反応で、「それ以上したら危険だ」という体からのメッセージです。麻酔をしたら、そのメッセージが聞こえなくなってしまいます。患者さんの体からの声を聞きながら、痛くない治療をしていれば、自然に麻酔はいらなくなります。

不要な歯は抜けるべきときに自然に抜ける

画像: ❶抜歯せず、自然に任せている部分。適切な処理をすれば、抜けるべきときに痛みなく自然に抜け、歯ぐきも下がらない。 ❷抜歯した部分。歯ぐきが下がり、骨が陥没している

❶抜歯せず、自然に任せている部分。適切な処理をすれば、抜けるべきときに痛みなく自然に抜け、歯ぐきも下がらない。
❷抜歯した部分。歯ぐきが下がり、骨が陥没している

ムシ歯がさらに進行して根っこだけになった歯や、破折や治療で根っこが残った歯も、私は抜きません。顕微鏡による根管治療を行って、根っこを残します。

歯周病でグラグラになった歯は、自然に抜けるまで待ちます。歯ぐきの腫れや炎症が強いときは、抗生剤を使うこともありますが、抗生剤を使いたくない場合はそのまま見守ります。

炎症は、体の中に細菌という異物を入れないための反応です。膿が出るのも、体内の悪い物を排出する反応で、体が勝手に自分の体を治しているのです。親知らずも同じように、歯周組織の炎症を抗生剤で抑えた後、自然に抜けるのを待ちます。

自然に「抜ける」のと、人の手で「抜く」のは全く違います。「抜ける」のは、それが生体にとって不必要になったからです。

体は、歯が抜けるための準備をしており、骨を作りながら抜けていきます。ですから、抜けるべきときに自然に抜けて、抜けた後に顎骨が吸収されることはありません。

一方の「抜く」は、必要な歯を無理やり抜くので、生体が納得していません。そのため、体は抜く準備ができておらず、残された骨は吸収されて、大きくへこんでしまいます。骨(歯槽骨)は歯を支えるためにあるので、歯を失えば不要の物になるからです。

また、自然に歯が抜けるときは痛みはありませんが、抜かれるときは痛みがあります。ブラッシングして抜けた髪の毛は痛くないのに、引っ張って抜いた髪の毛が痛いのと同じです。生体にとって不自然なことは、痛みを伴うのです。

画像: 炎症が起こっている歯でも、抜かずに根っこを残して自然に抜けるのを待つと、写真のようにきれいによくなる。他の歯への影響もない。

炎症が起こっている歯でも、抜かずに根っこを残して自然に抜けるのを待つと、写真のようにきれいによくなる。他の歯への影響もない。

根っこだけでも残したほうがよい

歯を抜かず、根っこだけでも残すのにはメリットがあります。歯を抜いた場合よりも歯ぐきが下がりにくくなり、人工歯を入れる場合も、入れやすくなる点です。

Aさん(30代女性)は歯が折れて、根っこが埋まった状態で来院されました。

この場合、通常は麻酔をして歯ぐきを切開し、根っこを抜きます。しかし私は、丁寧に、痛みを与えずに、根っこの頭を出して上にふたをし、歯ぐきを圧迫しました。

こうすると、まだ歯があると歯肉が認識して、歯肉が回復していきます。そして、歯を残す根管治療を行い、そこに土台を立てて型を取り、歯を入れました。こういった場合も、根っこを取ってしまったら、入れ歯を入れても安定せず、痛くてかめなくなってしまいます。

歯を入れなくてもいいという人は、根っこが伸びてきたら、そのままにしておきます。その処置で、20年以上歯ぐきが下がらなかった人もいました。

根っこさえ残っていれば、歯はなんとかなるもので、歯ぐきがやせたり、他の歯に影響することはないのです。

このように、体が痛がることをしないで、生まれたときに近い状態に戻してやると、体は自分で自分の体を治していきます。私がしているのは、そのしくみを働かせるための治療です。

ですから、抜歯をする前に一度立ち止まって、よく考えてください。その上で、「抜歯をする」「しない」を決めるのは、患者さん自身です。

画像: この記事は『安心』2021年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年3月号に掲載されています。

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