中医学では「歯は骨の余り」といわれています。そして、骨をつかさどるのは腎(腎臓)とされています。基本的には腎がつかさどっていますが、肝(肝臓)に深く関係するツボも効果を示します。特に、奥歯の不調は肝と深く関わっており、肝経のツボが、高い効果を示します。【解説】田中勝(田中鍼灸指圧治療院院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

田中 勝(たなか・まさる)

田中鍼灸指圧治療院院長。1948年北海道出身。鍼・灸・あんまマッサージ指圧師。治療にとどまらず、鍼温灸や経絡あんま、関節運動法講習会を開催するなど、精力的に活動している。DVD『よくある症状への手技療法』(医道の日本社)が好評発売中。
▼田中鍼灸指圧治療院(公式サイト)

肝臓に関連するツボがよく効く

「急に歯が痛みだした」「歯をかみ締めると痛む」「歯が浮いた感じがする」

こういった歯の痛みや不快症状に悩まされた経験は、誰しもお持ちでしょう。ムシ歯や歯周病があれば、言うまでもなく、歯科できちんと治療を受けることが大切です。しかし、治療中にもこうした症状が起こることがあります。

また、歯や歯ぐきに問題がなくても、体調によって歯の症状が出る場合もあります。あるいは、「まだ大丈夫だろう」と思っているうちに、痛みなどが出てきて焦ることもあるでしょう。

そんなときに、知っておくと便利なのが「歯に効果的なツボ刺激」です。

歯の痛みや不快症状に効果をもたらすツボはいろいろありますが、ここでは、一般の人でも簡単に見つけることができて、刺激しやすく、効果の高いツボをご紹介します。

歯の症状が出て困るのは、ほとんどの場合、奥歯ですので、今回は、特に奥歯に効くツボをご紹介します。

ご紹介の前に、まずは「中医学で歯をどのように捉えているか」について、簡単にお話ししましょう。

中医学では「歯は骨の余り」といわれています。そして、骨をつかさどるのは(腎臓)とされています。

歯が実際に骨の余りでできているわけではありませんが、骨と同じく腎の支配を受けており、骨が丈夫であれば、歯も強く丈夫であることを、このように表現していると考えられます。逆に、歯の不調が起こりやすい人は、骨も弱っている恐れがあるので、注意が必要です。

さて、骨も歯も、基本的には腎がつかさどっていますが、実際に歯の症状が出たときに効くツボを細かく見ていくと、腎だけでなく、(肝臓)に深く関係するツボも効果を示します。

特に、奥歯の不調は肝と深く関わっており、肝経(肝をつかさどるエネルギーの通り道)のツボが、高い効果を示します。

これは、私が日頃の診療や研究会で、実験・研究を重ねてたどり着いた治療法です。鍼灸の世界では珍しい方法ですが、実践に基づいていますので、大変よく効きます。

痛みや不調のある側のツボを押す

そのうち、奥歯の痛みや不調に最もお勧めなのが、足にある「太衝(たいしょう)」「蠡溝(れいこう)」「中都(ちゅうと)」という、肝経に属する三つのツボです。

太衝は、足の第一指(親指)と第二指(人さし指)の骨の間を、指の股から足首方向にたどると突き当たるところです。人さし指を差し込むようにして、じっくり押します。

画像: 足の第一指(親指)と第二指(人さし指)の骨の間をたどっていき、指が止まるところ。

足の第一指(親指)と第二指(人さし指)の骨の間をたどっていき、指が止まるところ。

画像: 人さし指の先を当て、差し込むようにして押す。痛みが和らいでくるまで押し続ける(30秒~1分ほど)。

人さし指の先を当て、差し込むようにして押す。痛みが和らいでくるまで押し続ける(30秒~1分ほど)。

蠡溝は、足の内くるぶしの上端から、指の幅5本分(手のひらの幅分)ひざ方向に行った骨の上です。押すと強い痛みがあります。

中都は、蠡溝から指の幅2本分上で、やはり骨の上です。

蠡溝と中都は、いすに座り、刺激する足を他方のひざに乗せ、それぞれ人さし指で押すとよいでしょう。人さし指・中指・薬指をそろえて当てて、同時に押しても構いません。

画像: 蠡溝:すねの骨の上で、内くるぶしの上端から、指幅5本分上に行ったところ。 中都:すねの骨の上で、蠡溝から指幅2本分上に行ったところ。

蠡溝:すねの骨の上で、内くるぶしの上端から、指幅5本分上に行ったところ。
中都:すねの骨の上で、蠡溝から指幅2本分上に行ったところ。

画像: 痛みや不調のある側のツボを押す
画像: 人さし指の先を当て、強く押す。痛みが和らいでくるまで押し続ける(30秒~1分ほど)。両方のツボを同時に刺激してもよい。

人さし指の先を当て、強く押す。痛みが和らいでくるまで押し続ける(30秒~1分ほど)。両方のツボを同時に刺激してもよい。

この後に出てくるツボも同じですが、基本的には、歯の痛みや不調のある側を刺激します。もしも効果が薄いと感じたら、逆側を試すとよいでしょう。

30秒〜1分ほど持続的に押していると、圧痛が和らいできます。それとともに、歯の痛みや不調も軽減してくるはずですが、もし1分で効果が不足していたら、2〜3回くり返してください。

なお、これらのツボへの刺激は、歯だけでなく、肝臓にも効くので、お酒好きな方にもお勧めです。普段からお酒をよく飲まれる方は、刺激すると、飛び上がるほど痛いはずですので、一度試してみてください。

新発見の特効ツボ「上完骨」

後頭部にある「上完骨(かみかんこつ)」というツボも、奥歯の痛みや不調によく効きます。場所は、以下のようにして探してください。 

耳の後ろにある骨の出っ張りの後ろで、下端近くを探ると、くぼみがあります。これは完骨というツボで、ここから指の幅1本分上に行ったところが、上完骨です。私が診療しながら、患者さんの反応によって見つけたツボですが、完骨より優れた効果が得られます。

 このツボも、前述と同じ要領で、人さし指を当てて、30秒〜1分じっくり押します。効果が不足していたら、2〜3回くり返しましょう。

画像: 耳の後ろにある骨の出っ張りの後ろの下端近くに、完骨というツボがある。そのツボから、上に指幅1本分行ったところ。

耳の後ろにある骨の出っ張りの後ろの下端近くに、完骨というツボがある。そのツボから、上に指幅1本分行ったところ。

画像: 人さし指の先を当て、強く押す。痛みが和らいでくるまで押し続ける(30秒~1分ほど)。

人さし指の先を当て、強く押す。痛みが和らいでくるまで押し続ける(30秒~1分ほど)。

当院では、「歯が痛い」という患者さんが駆け込んできたり、他の症状での治療中に「実は歯の調子が悪くて……」と相談されたりすることが、よくあります。そういうときに、これらのツボ刺激を行うと、速やかによくなることを何度も経験しています。

これらのツボ刺激は、歯の痛みや不調の改善・解消に加え、予防にも効きます。ですから、日頃から刺激しておけば、歯の痛みや不調を防ぐのにも役立ちます。

また、普段からツボ刺激で歯の健康を保つことは、歯とともに骨を健康に保つことにもつながります。ぜひ、お役立てください。 

画像: この記事は『安心』2021年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年3月号に掲載されています。

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