解説者のプロフィール

小島理恵(こじま・りえ)
1966年、大阪生まれ。大阪歯科大学卒業後、1993年、小島歯科医院の副院長に就任。2児の母として子育てをしながら、第一線に立ち診療を行う。長年の臨床経験から、口の周りの筋肉を整え、全身を健康に導く「歯ヨガ」を考案し、患者さんたちに指導。自身のメソッドをまとめた著書『歯科医が教える歯ヨガ 歯と口から免疫力を上げる』(KADOKAWA)が好評発売中。
正しい呼吸をするために口の筋肉を鍛えよう
皆さんは、呼吸の正しい方法・間違った方法や、舌の正しい位置をご存じでしょうか。そして、それが健康に直結していると考えたことがありますか。
人間にとっての正しい呼吸法は、「鼻呼吸」です。鼻呼吸は、息を吸った際に鼻毛がフィルターとなり、ウイルスの侵入を防いでくれます。その上、乾燥した空気も、鼻を通ることで温められて加湿され、酸素が取り込みやすくなります。
実は肺は、湿った温かい空気でなければ、酸素と二酸化炭素をうまく分けられません。口呼吸でカラカラの冷えた空気が直接肺に流れ込むと、十分な酸素が取り込めず、肺に負担がかかります。それが原因で、病気になりやすくなるのです。
その鼻呼吸をするために必要なのが、口周りの筋肉(口腔周囲筋)を整えること。口腔周囲筋が整い、バランスがよくなると、首や肩、背中などの全身の筋肉の動きもよくなります。
そうして全身の筋肉の動きが整えば、 人間の元々持っている免疫力(病気に対する抵抗力)や、自然治癒力が高まります。
舌の垂れ下がりや口の半開き、食いしばりに注意
しかし現代は、悪い姿勢や筋肉の弱りが原因で、口腔周囲筋が衰えている人が増えました。こういう人は、舌が上がらない「低位舌」になっています。
舌が上あごについていないと、鼻呼吸ができない上、滑舌が悪くなったり、咀嚼嚥下(ものをかみ砕いたり飲み込んだりすること)がうまくできなかったりします。そのため、低位舌の人はよくむせてしまい、誤嚥性肺炎のリスクも高まります。
また、口もしっかり閉じることができず、半開きになってしまいがちです。
さらに、ストレス社会の表れか、無意識で上下の歯をかみ締める「食いしばり」も増えました。歯と歯が当たっているだけで、筋肉がこわばって顎関節のずれが生じる上、刺激であごの骨が溶け、バランスがくずれて体の負担になります。
これらは全て、間違った口の状態。正しい口は舌の図のようになっており、これが守れていないと、体に悪影響を及ぼします。それが原因で、ムシ歯や歯周病、口呼吸になりやすくなったり、頭痛や肩こり、誤嚥性肺炎、アレルギー疾患を引き起こしやすくなったりするのです。
■正しい口の状態

口の周りの筋肉をバランスよく動かす
この関係性に気づいた私は、口腔周囲筋をバランスよく動かし、本来の働きができるようにするマッサージやストレッチを患者さんに指導するようになりました。それが、今回紹介する「歯ヨガ」です。
下項で紹介しているのは「りーえーワーク」と「ポッピング・舌吸い上げ」の2種。まずは、りーえーワークで下がっていた舌を持ち上げ、鼻呼吸を促します。その次にポッピング・舌吸い上げで、正しい口の状態を体に覚えさせます。
口腔周囲筋を整えるには、りーえーワークの前に「頬すぼめ・膨らませ」も効果的です。これは、鼻呼吸をしながら3秒ずつ頬を膨らませたりすぼませたりする方法。口周りの使わない筋肉を動かして動きをよくし誤嚥を防ぐ効果があります。
効果を出すためのポイントは、正しい姿勢で行うことと、普段から正しい口の状態を意識すること。これら二つは、必ず注意するようにしてください。
歯ヨガを行った患者さんからは「唾液が増え、口がカラカラしなくなった」「食べ物や薬が飲み込みやすくなり、むせる回数が減った」などの声をいただいています。
また、意外な症状にも効果がありました。20代の女性は、口が勝手にアワアワ震える症状に悩まされていました。人前では歯を食いしばり、口の動きを抑えていたそうです。
神経系の病気を疑い薬も飲みましたが、効果がないということで来院。歯ヨガを指導したところ、次の来院時には症状が軽くなっていました。
その他に、お子さまのぜんそくや鼻炎が軽快する症例も多く見られます。鼻呼吸ができるようになり、免疫機能の働きがよくなったのだと考えられます。
「舌圧(舌が上あごを押す力)が下がると、死期が近づく」といわれています。正しい舌の位置を維持し、歯も体も元気で生きていくために、ぜひ歯ヨガを習慣にしてください。
歯ヨガのやり方
今回は、こわばった筋肉をほぐして鍛える「歯ヨガ」の中から、手軽にできる2つをご紹介。「いつでも・どこでも・誰でも」できるトレーニング、ぜひお試しください。
・歯ヨガは、毎日最低でも1回は行うようにする。
・歯ヨガは、いつ行っても構わない。より効果を高めたいなら、筋肉がほぐれて血行がよくなっている入浴後がお勧め。
・歯ヨガを行う際は、必ず以下のことを意識する。
1.正しい姿勢で行う。
2.歯ヨガを行っているとき以外にも、正しい口の状態を意識する(正しい口の状態は前項の図を参照)。
立って行う場合
目線は遠くをまっすぐ見る。あごを軽く引いて、両足を肩幅に開き、耳・肩・骨盤・ひざ・くるぶしが一直線になるよう立つ。
座って行う場合
目線は遠くをまっすぐ見る。あごを軽く引いて、背もたれに寄りかからないようにして座る。ひざよりお尻が高く、ひざよりつま先が後ろ(いす側)の状態にする。かかとが浮く場合は、踏み台などを使って足がつくようにする。

りーえーワーク
❶「りー」と発音しながら、歯と歯がつかないようにして、口をできるだけ大きく横に開く。

❷「えー」と発音しながら、舌をまっすぐ前に出す。舌が下くちびるや歯につかないように意識する。

❸①と②を10回程度くり返す。
ポッピング・舌吸い上げ
ポッピング
上あごに舌をぴったりつけた状態で、舌をポンと弾く。音が鳴らなくても問題ない。10回程度行う。

舌吸い上げ
上あごに舌をぴったりつけた状態で口を閉じ、舌を吸い上げたまま100秒キープ。舌が上あごから離れたら、1からやり直す。呼吸は鼻で行う。

※どちらも、舌が歯につかないようにする。
歯ヨガと一緒に行うと効果アップ!
江戸時代の長寿健康法・歯ぐきたたき(叩歯)
叩歯とは?
歯に刺激を与える健康法。「人生50年」とされた江戸時代に73歳まで生きたお坊さん・良寛が実践していた方法で、これを習慣にすれば、気力があふれてムシ歯にならない、とまで言われていたそう。
叩歯のやり方
4本程度の指で、口の上から歯ぐきの周りを、痛気持ちいいくらいの強さでたたく。軽くたたくのではなく、歯ぐきに振動が伝わるくらいの強さで行うのがポイント。


この記事は『安心』2021年3月号に掲載されています。
www.makino-g.jp