解説者のプロフィール

今井一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長。NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長。1995年、山口大学医学部卒業。2006年に福岡市博多駅前にみらいクリニックを開業後、さまざまな方法を駆使しながら、薬を使わずに体を治す独自の治療を行う。「あいうべ」による息育や「足指を伸ばす」ことによる足育の普及にも力を入れている。著書に『免疫を高めて病気を治す 口の体操「あいうべ」』、『マンガ 医師が教える足指のばし』『1日4分でやせる!ゆるHIIT』(いずれもマキノ出版)など多数。
▼みらいクリニック
「べ」は舌を正しい位置に引き上げるために重要
口の体操「あいうべ」は、どうして「あいうえ」ではないのでしょう。
「あ」「い」「う」という口の動きは、口の周囲の筋肉(口輪筋や表情筋など)を鍛える動きです。そして、「べー」と舌を出すことで、舌の筋肉(舌筋や舌骨筋群)が鍛えられます(下項参照)。
舌の筋肉を鍛えることは、舌を正しい位置に引き上げるために重要です。
舌が下がってくると、重い舌を口の周囲の筋肉で支えるのは難しいので、口も開いてきます。逆に、舌が上あごにくっついていると、口を開けても口で呼吸はできず、鼻で行うことになります。
ですから、舌を動かさない「えー」ではダメなのです。
「あいうべ」のやり方は、とても簡単です。次の四つの動作をくり返すだけです。
①「あー」と、口を大きく開く。
②「いー」と、首に筋肉のすじが浮き出るぐらい、口を大きく横に広げる。
③「うー」と、唇をとがらせて口を前に突き出す。
④「べー」と、舌を思い切り突き出して下に伸ばす。
ポイントは、大げさなくらい口を大きく動かすことと、ゆっくりやることです。①〜④までを4秒前後かけて行ってください。
これを1回として、1日30回を目安に行います。朝晩15回ずつ、朝昼晩10回ずつと、分けて行ってもけっこうです。
「あいうべ」体操のやり方
※ ①〜④を1回として、1日30回を目安に毎日続ける。
※ 大げさなくらい口を大きく動かす。
※ 1回を4秒前後かけてゆっくり行う。
❶「あー」と、口を大きく開く。

❷「いー」と、口を大きく横に広げる。

❸「うー」と、口を前に突き出す。

❹「べー」と、舌を突き出して下に伸ばす。

最初は、うまく口を開けられない、舌を伸ばせないという人も、少しずつできるようになります。最初から回数をふやしすぎると、あごを痛めることもありますから、無理は禁物です。
声は出しても出さなくても、どちらでもけっこうです。声を出すと、口の中が乾燥しやすい一方で、のど周辺の筋肉がより鍛えられます。食物や唾液が誤って気管に入る誤嚥を起こしやすい人、脳卒中の後遺症などでマヒがある人は、声を出して行うのがお勧めです。
「あいうべ」は、いつ、どこで行ってもかまいません。特にお勧めなのは入浴時です。ふろ場なら、口を開けても乾燥する心配がないからです。逆に、冬の寒い日に外で散歩をしながら行うのは、口の中が乾いてしまうので避けたほうが無難です。
30日間続ければ、なんらかの効果を実感できるはずです。

「いーうー」体操は口や目、腸が潤う
●口を開けると痛い場合
「あいうべ」の四つの動作のうち、「あ」と「べ」は、口を大きく開けて、あごの関節を使うので、顎関節症の人などは、痛くてできないことがあります。そういう場合は、あごの関節に負担のかからない「いーうー」体操がお勧めです。
「いー」「うー」とくり返すだけなので、無理なく行えます。これを、3分間を目安に行ってください。
「あいうべ」と違って口を大きく開けないので、唾液がよりたっぷり出て、口の中がよく潤います。
また、涙も出やすくなるので、ドライアイの人もぜひ行ってください。さらに、口の中が潤うのと同じように、腸内でも腸液が出て潤い、お通じがとてもよくなります。便秘対策にもお勧めします。

「いー」「うー」だけをくり返す。これを、3分間を目安に行う。
しかし、「いーうー」だけでは、舌が鍛えられません。「べー」の代わりに、口を閉じたまま次のような舌の体操を行うといいでしょう。
●舌の体操
①唇を閉じたまま、上の歯と唇の間で舌を左右にゆっくり滑らせます。これを1回として10回行い、下の歯も同様に10回行います。

②左のほおの内側に舌をグーッと数秒間押しつけます。同様に、右のほおの内側にも数秒間押しつけます。左右を1回として、20回行います。

鼻呼吸になるには、舌の筋力をつけることが大事です。大きなあめ玉があれば、口に入れて舌でゴロゴロと転がすのも、舌のいい運動になります。
舌の筋力がつき機能が回復する
口をしっかり閉じるためには、何が大切なのでしょう。
それは、舌や口の周りの筋肉の強化です。これらの筋肉は、体のほかの筋肉と同様で、使わないと徐々に衰えていきます。
口の体操「あいうべ」を行うと、これらの筋肉がじゅうぶんに使われて、すばやく鍛えることができるのです。特に、ふだんあまり舌を使っていない人は、「あいうべ」でその機能がみるみる回復します。

「あいうべ」を10回行ったあとは、舌が上がって上あごとのすき間が消え、気道が広がっている。
※提供:はなだ歯科クリニック(福岡県大野城市)
上の写真は、「あいうべ」を行う前後のCT(コンピュータ断層撮影)の画像です。
「あいうべ」を行う前に口を閉じてもらうと、舌と口蓋(上あご)にすき間があり、舌先が前歯の裏側に当たっています。このかたは口呼吸なので、舌の筋力が衰えて、下がっているのです。
ところが、「あいうべ」を行ったあとは、舌と上あごの間にすき間がなくなっています。舌に筋力がついて、上がったのです。舌が上がることで、気道も広がっています。空気の通りもよくなっているのです。
皆さんも、「あいうべ」を10回やってみてください。舌の位置が上がったのが実感できるはずです。
舌の筋力は、舌圧測定器で測ると簡単にわかります。
舌圧測定器は、スポイト状に先が丸く膨らんだ器具を舌の上に載せ、それを舌で上あごに押し上げて舌の力(最大舌圧)を測定するというものです。私は、この最大舌圧を患者さんに測ってもらっています。

舌圧測定器
5年前にアトピー性皮膚炎を発症した30歳の女性は、強いステロイド剤を処方されていましたが、症状が改善せず、私のクリニックに来院されました。舌圧測定器で舌の力を測ると、14.7kPa(キロパスカル)しかありません(基準値は35kPa以上)。
そこで、「あいうべ」を行ってもらったところ、鼻呼吸ができるようになり、1ヵ月後には最大舌圧も36kPaまで上がって、アトピーの症状は全くなくなりました。
このように、「あいうべ」を行うことで、舌の力がつき鼻呼吸ができるようになります。そうすると、アトピーなどの病気も自然と改善していくのです。
顔の温度が上がって60分間は維持できる

上の図は、「あいうべ」で使う顔の主な筋肉です。
「あ」で口を大きく開けると、舌の筋肉(舌筋)につく舌骨筋群や、口輪筋を除く口の周囲の多くの筋肉が鍛えられます。
「い」で口を横に広げると、笑筋や口角挙筋などの口の周囲の筋肉だけでなく、首の筋肉(広頸筋)まで強化することができます。
「う」で、口を閉じるのに大切な口輪筋が鍛えられます。
「べ」で舌を思い切りだすことで、舌筋が鍛えられます。
「あいうべ」を行うと、これだけたくさんの顔の筋肉や舌筋を使います。ということは、「あいうべ」の前後で、顔周囲の温度も変わるのでしょうか。
下の写真をご覧ください。「あいうべ」を行う前後のサーモグラフィー写真です。「あいうべ」を30回行った後は、口の周りだけでなく、首や目の周囲の温度も上がっています。この温度は、「あいうべ」終了後も維持されて60分たっても下がりませんでした。

※提供:医療法人社団政和会 鈴木歯科医院(東京都中野区)
こうした温度の変化が、血流を促進させて、首や肩のコリ、目の疲れなどの改善につながると考えられます。そのほか、「あいうべ」を行うと唾液の出もよくなります。
睡眠時の口呼吸を防ぐ「口テープ」のやり方
ふだんは鼻で呼吸している、あるいは意識して口を閉じているという人も、夜の睡眠時は口呼吸になっていることが多いものです。特に、うつぶせや横向きで寝る人、疲れがたまっている人などは、口が開きやすい傾向にあります。
朝起きたとき、口の中が乾燥していたり、のどがヒリヒリしたりする人は、間違いなく口呼吸になっています。就寝時は、ただでさえ唾液の分泌量が少なくなるので、体への害を考えたら、一刻も早く口テープを行い、鼻呼吸にするべきです。
テープは、薬局などで売られている医療用のテープ(サージカルテープや絆創膏)を使用します。幅は特に指定していませんが、12mm前後が適当でしょう。

やり方は、テープを5cmほどに切り、唇の中央に縦にはって、そのまま寝るだけです。

強くはる必要はありません。軽くはるだけでも、就寝中の口呼吸を防ぐことができます。また、軽くはっておけば、どうしても鼻で呼吸ができずに苦しくなったとき、簡単に口を開けられるので安心です。

朝、起きたらテープをはがしましょう。
目覚めたとき、テープがきちんとついていれば、寝ている間、口は開かなかったということです。逆に、テープがはがれてしまっていたら、口呼吸になっていたということです。毎日続けて、鼻呼吸を習慣づけていきましょう。

なお、肌がかぶれやすい人や、唇が荒れやすい人は、次のようにしましょう。
5cmに切ったテープ以外に、4cmに切ったテープを用意し、接着面どうしを重ねばりし、テープの上下5mmを残します。すると、テープをはっても唇に接着面がふれません。


また、テープをはがすときに痛いと感じる人は、口にはる前に、清潔なタオルや布団などに、はってははがすを数回くり返しましょう。すると、粘着力が弱くなって、はがしやすくなります。
健康維持のために毎晩続けるほうがよい
鼻がつまっているときは、口にテープをはると、呼吸しづらいかもしれません。そのようなときは、目の下にある「四白」というツボを刺激してから、口テープをはってください。

四白は、まっすぐ正面を見たときの瞳の真下、眼球が収まっている骨のくぼみの下縁から指幅1本分下です。左右の人差し指の腹で10秒ほど押すのを2〜3回くり返します。

すると、鼻がスーッと通ってくるのがわかると思います。この間に口テープをはって眠りにつけば、呼吸が楽にできるはずです。
また、鼻の中に炎症がある場合は、「鼻うがい」をするといいでしょう。精製水に食塩を1%加えて作る生理食塩水を2mlほど鼻にたらして、鼻をキレイにする方法です。鼻水と同じ塩分濃度なので、痛くはありません。
そのほか、鼻の通りをよくするには、馬油の点鼻などもお勧めです。
口テープをして寝ることに抵抗がある場合は、起きている間に30分ぐらい、口テープをはって過ごし、少し慣らしてから寝るといいでしょう。この方法は、子供の口にテープをはる際にもお勧めです。
なお、健康を維持するため、口テープは毎晩行いましょう。

この記事は『壮快』2021年3月号別冊付録に掲載されています。
https://www.makino-g.jp/book/b555853.html