塩水にニンニクを漬け込むと、ブドウ糖などが溶け出し、それをエサに乳酸菌が増えて、乳酸発酵が起こります。また、ニンニク含まれるアリシンは、強力な抗酸化力によって、がんの予防に役立つほか、血管の老化を防ぎ、血行をよくして冷えを解消したり、血中のコレステロールの上昇を抑えたりする働きもあります。【解説】藤田紘一郎(東京医科歯科大学名誉教授)

解説者のプロフィール

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藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)

東京医科歯科大学名誉教授。医学博士。専門は感染症学、免疫学、アレルギー学。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学医学系大学院修了。金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学大学院教授を歴任。長年にわたり腸内細菌研究に取り組む。著書は『元気なまま長生きしたければ「腸にいいこと」だけをやりなさい!』(扶桑社文庫)など多数。

塩水に野菜を漬け込むと乳酸発酵が起こる

ニンニクは昔から、滋養強壮効果があり、健康効果の高い食品として知られてきました。「塩ニンニク」は、そのニンニクを塩水に漬けて保存性を高め、ニンニクそのものや、漬けた水を調味に使う活用法です。どんな健康効果が期待できるか、二つの面からお話ししましょう。

一つめは、乳酸発酵による効果です。乳酸菌は自然界のいたるところに存在しますが、ある程度の塩分濃度の水に野菜を漬け込むと、乳酸発酵が起こります。

塩水にニンニクを漬け込むと、浸透圧によってニンニクに含まれるブドウ糖などが溶け出し、それをエサに乳酸菌が増えて、乳酸発酵が起こると考えられます。塩ニンニクのニンニクや塩水を摂取することで、体の中に乳酸菌を取り入れることになります。

また、ニンニクには、食物繊維が含まれています。加えて、ニンニクに含まれる炭水化物には、オリゴ糖が含まれています。

食物繊維とオリゴ糖は、ともに腸内で善玉菌のエサとなり、腸内環境を改善します。しかも、そこに発酵により増えた乳酸菌がプラスされ、腸内環境の改善がより促されると考えられます。塩ニンニクは、腸活にも勧められる食品といってよいでしょう。 

腸内環境がよくなり、善玉菌が増えれば、腸の動きがよくなり、便通なども改善します。人間の免疫機構の7割が腸で働いていますから、腸内環境が改善されることで、免疫力もアップします。

こうして腸内環境がよくなると、短鎖脂肪酸という物質が多く産生されるようになります。

近年の研究で、この短鎖脂肪酸には多くの効能があるとわかってきています。短鎖脂肪酸は、炎症性物質の産生を抑えて、過敏性腸炎などを予防したり、血糖値の上昇を抑制したりといった働きをするのです。

小腸の粘膜に穴があき、毒素や細菌などが血管にもれ出てしまう「腸もれ(リーキーガット)」という現象があります。これはアレルギーや、原因が不明な体調不良の、隠れた発症要因となっています。短鎖脂肪酸が産生され、腸内環境がよくなると、この腸もれを防ぎ、アレルギーの予防などにも役立ちます。

さらに、やせている人の腸内には、「やせ菌」と呼ばれる腸内細菌が多いのですが、短鎖脂肪酸が増えると、やせ菌も増え、太りにくい体をつくるという働きまであるのです。

ニンニクのにおい成分が血管の老化を防ぐ

もう一面、ニンニク自体の効能にもふれておかなければなりません。

ニンニクには、ご存じのとおり多彩な健康効果がありますが、なかでも注目したいのは、その抗酸化作用です。

がんの死亡率が早くから増加し深刻な問題となっていたアメリカでは、食べ物とがんの関係について多くの調査が行われました。その膨大なデータに基づいて、アメリカ国立がん研究所が発表したものが、「デザイナーフーズ」(下の図参照)です。

そこには、がん予防に効果があるとされる食品が効果の強い順に上からピラミッド状に並べられています。その頂点に位置するのが、ニンニクです。

画像: アメリカ国立がん研究所発表「デザイナーフーズピラミッド」(一部抜粋)

アメリカ国立がん研究所発表「デザイナーフーズピラミッド」(一部抜粋)

老化や、がんをはじめとする病気の原因物質とされているのが、活性酸素です。現代人は、食事や多くの環境要因によって、体内の活性酸素が増えていく傾向があります。ニンニクに含まれる抗酸化物質は、この増えていく活性酸素を消去し、病気を予防します。

ニンニクの抗酸化力の元になっている物質が、硫化アリルの一種である「アリシン」。あの独特のニンニク臭をもたらす、におい成分です。

アリシンは、その強力な抗酸化力によって、がんの予防に役立つほか、血管の老化を防ぎ、血行をよくして冷えを解消したり、血中のコレステロールの上昇を抑えたりする働きもあります。強力な抗菌作用もよく知られています。

アリシンは、体内でビタミンB1と結合すると、アリチアミンという物質になります。アリチアミンは、体内で、「疲労回復のビタミン」であるビタミンB1と同様の働きをします。この成分が、ニンニクの疲労回復効果をもたらしているといってよいでしょう。

ほかにも、ニンニクには、食欲増進やカゼ予防など多くの作用があります。

ニンニクを塩水漬けにしておくと、保存性が高まるだけではなく、使い勝手もよくなります。漬けた塩水だけを口にしてもニンニクの香りが立ち、おいしいものです。いろいろな料理に便利に使えるでしょう。

ニンニクを積極的に食べて、腸活に、多くの病気予防に、その多彩な効能を活かしていただきたいと思います。

画像: この記事は『壮快』2021年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年3月号に掲載されています。

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