迷走神経が不調に陥ると、下部食道括約筋の締まりが悪くなり、胃酸が逆流しやすくなります。その原因の一つに、食いしばりがあります。奥歯をかみ締めていると、あごの骨、ひいては頭蓋骨全体がゆがみます。このゆがみが、迷走神経に悪影響を及ぼすのです。【解説】筒井重行(歯科医師、鍼灸師、風楽自然医療研究所所長)

解説者のプロフィール

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筒井重行(つつい・しげゆき)

歯科医師、歯学博士、鍼灸師。風楽自然医療研究所所長。71年、東京医科歯科大学口腔外科、81年、昭和大学歯科病院口腔外科。顎関節症の治療に従事するなか、「治すには体をまるごと診なければならない」と気づき、西洋医学と東洋医学を基に新たな医療体系を開発。著書に『「口をぱくぱくする」と超健康になる』(マキノ出版)がある。

背すじを伸ばした姿勢が大事

私は20年にわたり、大学病院の口腔外科で顎関節症(あごの関節やあごを動かしている咀嚼筋の痛み)の治療に当たっていました。そのとき、上下の歯を当てず口をぱくぱくと開け閉めする動作を、リハビリとして患者さんに指導していました。

大学病院を離れたあとのある日、私は神奈川県の葉山で坐禅を行っているグループに呼ばれ、口をぱくぱくする動作を指導しました。すると、こむら返りをはじめ、さまざまな効果があったと報告を受けました。

大学病院ではない経験なので、非常に驚きました。そこで、どうしてこのような効果を発揮したのか、研究を始めました。それが10年前のことです。

そして、口をぱくぱくするという動作が「迷走神経」(主にリラックス時に働く副交感神経の代表的な神経)などに影響を与えること、そして効果を発揮するためには、姿勢が重要であることがわかりました。

坐禅では、背すじをスーッと伸ばします。力は抜け、リラックスした状態です。この姿勢で口をぱくぱくしたからこそ、さまざまな効果が現れたのです。

こうした研究結果を踏まえ、動作についても改良を重ねていきました。そして「口ぱくぱく」というメソッドを考案し、現在、多くの患者さんに指導をしています。

口ぱくぱくはさまざまな不調の改善が期待できますが、逆流性食道炎のセルフケアにもピッタリです。やり方は下項をご覧ください。

口ぱくぱくのポイントとなるのは、前述のとおり姿勢です。坐禅のような姿勢や、ひざまずいた状態では、体が前後左右に小さく揺らぐことでしょう。この自然な揺らぎがたいせつです。体に備わっている生体リズムが整えられ、リラックス効果がもたらされます。体をピタッと固定せずに、自然に身を任せましょう。

口ぱくぱくはいつ、何回行ってもかまいませんが、特に寝る前がお勧めです。口ぱくぱくを多く行うほど、効果を早く実感できるでしょう。実際、「胸やけがする」「ゲップが出過ぎる」という症状のある患者さんに口ぱくぱくを実行してもらうと、改善がよく見られます。

迷走神経が胃腸の働きに関与

なぜ、逆流性食道炎に口ぱくぱくがいいのか。それは、胃酸の逆流が、迷走神経のトラブルによって起こるからです。

食べ物を分解する胃酸は強力な酸で、胃は粘膜でそのダメージから守られています。しかし、胃酸が漏れ出るとたいへんです。そのため、食道と胃の間のストッパーとして働くのが、下部食道括約筋です(下図参照)。

そして、この下部食道括約筋を制御している神経の一つが、迷走神経です。迷走神経が不調に陥ると、下部食道括約筋の締まりが悪くなり、胃酸が逆流しやすくなる、というわけです。

また迷走神経は、胃液の分泌や胃腸の蠕動運動などの働きにも関与しています。逆流性食道炎において、迷走神経は大きなかかわりを持っているのです。

画像: 迷走神経は下部食道括約筋や胃の働きを調整している。

迷走神経は下部食道括約筋や胃の働きを調整している。

迷走神経にトラブルが生じる原因の一つに、食いしばりがあります。私たちはプレッシャーやストレスを受けるとき、無意識のうちに奥歯をかみ締めています。すると、咀嚼筋が強く収縮して、あごの骨、ひいては頭蓋骨全体がゆがみます。この頭蓋骨のゆがみが、迷走神経に悪影響を及ぼすのです。

また近年の研究で、迷走神経に限らず、神経に悪い作用を与える要因に、「重力」があることがわかりました。不自然な姿勢や体勢でいると、神経に負荷がかかり障害が生じるのです。

口ぱくぱくは、迷走神経をこうしたトラブルの元から解放し、活性化させる体操です。迷走神経はほかの多くの臓器にもつながっているので、逆流性食道炎のみならず、多くの不調の改善につながります。

口ぱくぱくで実際に体がどのように変化するか、科学的に検証もしています。脳の血流変化を測定する装置を使った光トポグラフィー検査では、口ぱくぱくを行うと脳の血流が数秒で改善することが確認できました。

また、アミラーゼという物質の活性も測定しました。アミラーゼの活性が高いほど、心身にストレスがかかっていることを示します。この測定で、口ぱくぱくを行った人たちの多くが、活性が下がるという結果になりました。口ぱくぱくにより、ストレスの影響が軽減したと認められたわけです。

口ぱくぱくのやりかた

頭髪の生え際(鼻に手のひらを当てたときの中指先の位置)から、頭全体にかけて痛気持ちいい程度に両手で頭をもむ。両ひじを机やひざに当てるとよい。後頭部へ少しずつずらしながら、やさしくもんでいく。

画像1: 口ぱくぱくのやりかた

正座になり左右の手のひらを合わせ合掌をする。正面を向いて、目を閉じ舌を上あごに当てる。お尻を浮かせ、ひざ立ちになりそのまま3分キープする(③のひざ立ちの姿勢)。

画像2: 口ぱくぱくのやりかた

腕を体の横にぶら下げて、親指と人差し指で丸を作る。舌を上あごにつけたまま、歯に当てないよう、10回、口を開け閉めする。口を開けたときの幅は指1本分にする。

画像3: 口ぱくぱくのやりかた

胸、腹、骨盤の順番に、紙風船をふくらませるようなイメージで、鼻から大きく息を吸う。空気がいっぱい入ったら、口から細く長くゆっくりと息を吐き切る。

画像4: 口ぱくぱくのやりかた

丸を作った指をほどき、舌を離す。そのまま3分、あるがままに身を任せる。このとき、体と心に微細な変化が起こることがあるが、これは体の声として、ありのままに受け止める。

画像5: 口ぱくぱくのやりかた

※座って行っても、あおむけになって行ってもよい。

画像6: 口ぱくぱくのやりかた
画像: この記事は『逆流性食道炎 自力でスッキリ治す!』に掲載されています。 www.makino-g.jp

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